黒金 巌山という『漢』
組長が急に穏やかな顔になって。
「よっこらしょ。
ちょっと出て来るわ。完太だったな?
ちょっと付き合え。
オイ。お前も。殴ったんだから詫びついでについて来い。」
「ハイ!」
組長が完太の肩をポンポンと叩く。
「ウチのもんが殴って悪かったな。痛かっただろ」
「ん、ああ。(あんま痛くないけど)」
「オヤジ。車回しますか?」
「いや、ちょっと歩くわ。」
No.2の男が近づいて来て
「お前…山崎 完太ってのは本名か?」
「あ、ああ。」
「そうか。気を付けてな」
「?」
組長、ショボ男、完太の3人で歌舞伎町を歩く。
「飯まだだろ?上手い肉食わせてやるよ。」
組長が連れて来てくれたのは、学生では絶対に入れないような鉄板焼きの店だった。
案内されたのは鉄板の前に椅子が二つ。目の前にはシェフが立っている。
(2人だけしか座るとこねーのかよ。こんな広いのに)
ショボ男は入口前で立っていて入ってこない。
「まぁ座れ。ここで上手い肉食って、今日の事は水に流してくれ。」
「あぁ。」
目の前で見た事もないような綺麗な肉が焼かれる。
「ご飯ありますか?」
肉だけで食べる文化などない。学生には。
目の前には3センチはあろうかと分厚いステーキ。
白米も山盛り。
「上手い。上手い。」
がっつく完太。肉を口に含み、その瞬間白米をかき込む。
こと、食において、これほど幸せを感じる事はないだろう。
ステーキもご飯もお代わりして平らげた。
組長は食べ終わった俺を見て、ゆっくり話始めた。
「なぁ、完太。お前が何者かまだ、見抜けてねぇが、
気合いの入った奴だって事は分かる。喧嘩も相当強いんだろう。
だがな、ワシたちの世界であの事務所の態度は頂けない。
藤田も金村も、お前を殴ったケン坊だって、あの場にはあいつらの義理ってもんもあったはずだ。
相手の顔を潰してまで偉そうにするのが極道じゃねぇ。本当の強さってのは、人情を汲んで、相手に逃げ道を作ってやれる余裕のことだよ」
「ワシの事を上に上げてやるって言ったよな?
威勢がいいのは結構だ。だがな、完太。
極道が上に上がるにはな、、下が無理やり押し上げるんじゃねぇ。周りが『この人のためなら』と義理を感じて、勝手に神輿を担ぎ出すもんなんだよ。
事務所でああやって身内の顔を潰して、何があんたを『上に上げてやる』だ。人情も分かってねぇ男の横に並んで、誰が命を張る?
お前が俺を日本一にしたいってんなら、力でねじ伏せるのはもうやめろ。
あいつらが明日も『この組にいて良かった』と笑って飯を食えるように、泥を被ってやるのが上に立つ者の『人情』だ。
完太、力で従わせた奴は、お前が弱った時に必ず後ろから刺す。だが、心で繋がった奴は、地獄の底までついてくるぞ。
俺が欲しいのは、恐怖で震える部下じゃねぇ。死なせたくねぇと思えるほどの『家族』なんだよ。お前も、その一人になれるか?」
悪いやつの金だったら盗んでもいいだろうと思って、ヤクザの事務所に乗り込んだ完太だったが、
そんな完太の心境にも変化があった。
この『漢』の事がちょっと好きになった完太だった。
お読みいただきありがとうございます。
1部は全19話となります。もう書き終わりましたので、これから毎日投稿したいと思います。20時10分頃。
2部も書いていきたいと思ってますのでよろしくお願いします




