歌舞伎町を俺の街にする
一旦家に帰ってきた完太が里帆とのやり取りでホッと一息ついた後…
朝の七時。
今日もパチッと目が覚めた。最近、目覚めだけは無駄にいい。
昨日はなんだかんだで、結局家に帰ってきたのは夜の十時過ぎだった。
ヤクザの事務所をすぐに追い出されたおかげで、思ったより早く着いたのだ。
(今日も一応、大学は行っとくかな)
天井を眺めながら、昨日のことを思い出す。
お金を奪いに行くつもりだったのに、ひょんな流れになったもんだ。
(あの金庫、重そうだったな。それに、あいつら完全に俺のことをナメてたし……。よし、今日の夜も行くか)
ピコーン、とLINEの音が鳴る。
里帆からだ。一昨日から何回も鳴っていたけど、そっけない返事でやり過ごしていた。
『元に戻れる数式、できたの? 悪いやつをやっつけるとか言ってたけど、変なことしてないでしょうね?』
(しょうがない。返事してやるか……)
『大丈夫だよ。何もしてないって。大学も行くし、昼ご飯でも一緒に食べるか?』
送った瞬間に「既読」がついた。
『分かった。じゃ、また後でね』
「さて、用意して行くか」
俺はベッドから起き上がった。
午前の授業を終えたあと、里帆に連絡してみる。
『どこにいる〜?』
すぐに返信が来た。どうやら大学の学食にいるらしい。
そこへ向かうと、里帆が満面の笑みで待っていた。
「えらくご機嫌じゃねーか」
「そう? 普通だよ」
里帆が楽しそうにしているのは、まあ悪い気はしない。
「最近どうしてたの? LINEもちゃんと返してくれないし、数式はできたの?」
座るなり、質問攻めが始まる。
「まあまあ、とりあえず何食う?」
「私はパスタにする。完太は?」
「俺はカレーにしよかな」
最近の大学の学食は、オシャレで安い。
貧乏学生の味方だ。
カレーをモグモグ食べながら、里帆がまた聞いてきた。
「悪いやつをやっつけるとか言って……。何かしてるの?」
「質問ばっかりだな」
俺は少し声を低くした。
「まず、数式は考えてない。今すぐには必要ないからな。それと……」
少しの間をおいてから、俺は言った。
「ちょっと大学、休むかも」
「えっ、なんでよ? 何かバイトでもするの?」
里帆が驚いて身を乗り出す。
(ヤクザになるとは言えねーな……)
「まああれだ。バイトだよ。そうそう、バイト」
「怪しい〜」
里帆がジーッとこっちを見てくる。
「完太が半笑いで同じ言葉を二回続けて言う時は、だいたい悪いこと考えてる時だからね」
(うっ。よく分かってらっしゃる……。付き合いが長いだけあるな)
「本当に大丈夫?」
心配そうな顔で、里帆が俺の右腕に触れてきた。
(ダメだダメだ。里帆とのラブロマンスは無しだって、一話で……)
「言ってるんだよ!」
思わず声が出た。里帆がキョトンとしている。
「何を言ってるの?」
「いや、なんでもない。とにかく、大学は休みがちになるかもだけど、連絡はつくから。LINEもちゃんと返す。だから、心配すんなって」
「別に。心配なんかしてないし!」
里帆はパッと手を離して、食器を片付けに立ち上がった。
その後ろ姿を見ながら、俺は心の中でつぶやいた。
(心配すんなよ。大丈夫だ、またすぐ戻ってくるから)
その夜。
(昨日追い出されたけど、やっぱり認めてもらうためには毎日行かないとな……)
俺はまた歌舞伎町を歩いていた。
でも今日は昨日とは違う。はっきりとした目的がある。
あのキャッチの男に会いに行くのだ。
すぐに男を見つけた。毎日同じ場所に立っている。
「よぅ」
「あー! お兄さん、心配したたんですよ〜。ホントにヤクザの所に行ったんですか?」
「ああ、行ったよ。今日も行くんだ。その前にあんたにお礼を言っておこうと思ってな。ところで名前は……」
「自分、阿部って言います。阿部ヒロシ。ヒロシって呼んでください」
(俺より年上に見えるけど……まあいいか)
「分かった、ヒロシね。これからもよろしく。また色々教えてくれよ。歌舞伎町の闇とかさ」
「いやいや、もうお兄さんには敵わないっす。ヤクザの所に連れて行けなんて人、歌舞伎町中を探しても一人もいないっすよ」
「お兄さんの名前も教えてもらっていいですか?」
「俺? 山崎完太」
「完太さんっすね。ありがとうございます! 今日はこの後どうするんですか? またキャバクラ行っときますか?」
「いや、今日は直接事務所に行くよ。昨日、相手にされてない感じだったし。今日こそはな」
完太の顔に気合が入る。
「カッケーっす、完太さん。また帰り寄ってくださいね。どんな感じだったか教えてください!」
「おー。じゃーな」
完太が歌舞伎町を闊歩する。
何か分からないが、自信がみなぎっている。
「この歌舞伎町を俺の街にする。」
完太は歌舞伎町の未来を見据えている。
お読みいただきありがとうございます。
1部は全19話となります。もう書き終わりましたので、これから毎日投稿したいと思います。20時10分頃。
2部も書いていきたいと思ってますのでよろしくお願いします。




