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20.城下町編 スケート




 城下町の中央にある一番広い公園。何か催し物がやっているのか、お店もたくさん出ているため人が集まっている。警備のためなのか兵士が何人か見回りをしていた。寒いというのに多くの人がお店で購入したものを食べていたり、子供たちがボールを追いかけたりしている。

 公園にある池が凍ってそこでスケートをしている人達も沢山いた。近くにスケート靴を貸しているところもあって、それを見てスノウは好奇心で近づいていく。

 彼女はスケートを知らない。全員が何か足に金属のものをつけて、氷の上を移動しているのだ。彼女が初めてこの国に来た時、子供たちが何かすごい速さで氷の上で遊んでいるのは見えたが、足元までは見えていなかった。


「やってみるか?」


 あまりにも身を乗り出し気味にしていた彼女に苦笑しながら提案してしてみた。


「わたし、やった事ないですよ」


「問題ない、私が滑れるから」


 貸し靴のところにいくと、一足銅貨5枚。またも先に彼が出してしまうから、結局借りた靴を受け取るだけ。スノウは再び不服そうな顔をした。気にする事ないのにと彼が笑う。


 スノウは細いブレードを安定させながら靴を履き替えるのが大変で慌てた。その後も、その靴で立ち上がるのが一苦労、歩くのにも大慌て。倒れそうになる彼女をセフィライズが支えた。


「ごめんなさいっ」


「まぁ、初めてだったらそんなものだと思う」


 顔をあげると目の前にあるのは、透き通った銀色の目。恥ずかしくなって、反射程にまた突き飛ばしそうになる。しかし今はまともに立つこともできない。スノウは支えてもらう他なく、顔を背けて下を向いた。顔がとても熱いのだ。心臓も、とてもうるさい気がする。でもそれは、お酒のせいだと思っていた。

 凍った池の上にゆっくり足をつけると、不安定すぎて腰が引ける。必死に彼にしがみついて、こけないようにと焦る。変な声を終始出しながら騒いでいたらまた笑われてしまった。


「まず姿勢は真っ直ぐにして、かかとを狭く、足先をは広げて」


 指示通りに足を動かす。こんなところを、周りの人達は平気そうに滑っている事実に彼女は驚いた。スノウが姿勢を整えると、両手をつないでもらう。最初はゆっくり、段々と彼が速さを上げて引いてくれた。

 セフィライズは次第に腰が曲がってくるスノウの手を引きながら後ろ向きに滑る。彼女の片手をそっと、離してみた。


「きゃぁっ!」


 突如彼女は氷の上で転んだ。まだ早かったか、とお尻を打ち付けて痛そうにしているスノウに手を伸ばして引き上げる。


「すごいですね、こんなの。できるようになるでしょうか」


「この国に住んでいたら、そのうち滑れるようになる」


 遠くで子供たちが転けたスノウを指差して笑っていた。小さな頃から遊びでやるからか、アリスアイレス王国の者は皆滑れる。自分のスケート靴を持っている者も多い。

 そのせいか、大人の姿をしているのに滑れないスノウは、子供達から見れば変に見えたようだ。

 恥ずかしくて仕方ない。周りの人達はなんでもないように滑っているのに、立ち上がるのすら一苦労で、手を引いてもらうだけでも怖い。


「もう一度、お願いします!」


 しかしめげない。最初は誰でもあるのだから、やればできるはずとスノウは胸に手を当てながら頷く。セフィライズに手をひいてもらいながら、再び滑り出した。


「視線は遠くに置いた方が安定する」


 下ばかり見てしまうスノウに声をかけると、彼女は挙動不審のままに顔をあげた。


「あと、姿勢は真っ直ぐ」


「は、はい……!」


 何度姿勢を正すように言われても、やはり前屈みになるのだ。怖くて足元を見てしまう。言われた通りにしようと必死に体を起こして、また段々足元をみて、を繰り返して。

 そしてまた、彼女は転けた。


「きゃっ!」


「う、わっ……!」


 油断していた。彼女の手を長いこと手を引いていたら、もう大丈夫だろうと思ってしまった。だからスノウが転けそうになった時に助けられなかった。彼女から勢いよく引っ張られ、セフィライズも一緒に転倒してしまったのだ。一瞬にして視界が変わる。気がついたら空を見ていた。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 空しか映ってなかった視界に彼女の顔が覗き込む。癖っ毛で、外にはねているミディアムぐらいの金髪が風に揺れていた。

 なんだろう、そんなつもりは無かったのに。気がついたらセフィライズは声を出して笑ってしまった。氷の上で寝転がりながらお腹を押さえて、ただ笑う。

 スノウはセフィライズがどこか頭を打っておかしくなってしまったのかと焦った。こんなふうに声を出して、心の底から笑っているなんて、絶対に想像できない。それぐらい、彼は笑っていた。


「いや、すまない……」


 彼はひとしきり笑い終わった後、謝りながら起き上がる。

 スノウは帽子も背中も濡れてしまった彼の背中についた雪を払うように触った。笑い終わった後、なぜだろうか、彼はとても切なそうな顔をするのだ。なにか物凄く遠いものを見るような目で。


「大丈夫ですか?」


 心配になった。何故かここにいるのに、目の前にいるのに、突然消えて無くなりそうに見えたからだ。明日には全部消える、いや、目を閉じて開いたらもう、消えてしまっているのではと感じる程に。


「もう一度、お願いします」


 起き上がった彼に手を伸ばすと、ゆっくりと掴んでまた、引き上げてくれる。彼はとても優しく微笑んでいた。なんだがとても熱い、熱すぎて、壊れそうな程に。握ぎられた手も、顔も、何もかも。

 



 三十分もすれば、スノウは一人で滑れるようになった。周りの人のようにすんなりとではない。何度も小刻みに足踏みさせて進む感じだ。それでも大体五分に一回はこける。しかしもう手を借りなくても起き上がれるようになっていた。

 必死に滑っている彼女の周りを、セフィライズは他に滑っている人達と同じように何の違和感もなく滑っている。片足を動かして進む距離が長い。速さがある状態で止まるのも、体を捻ってその場で静止できている。そこまで行くのに、あとどのくらいかかるのだろうとスノウは思った。


「はぁ、暑い……」


 思っている以上に運動量が多い。スノウは暑くて仕方なかった。汗がじんわりと出てくる。




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