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16.城下町編 噂話



 セフィライズがカイウスに着いて出てしまってからもう一週間が経っていた。

 スノウが階級章をつけて歩くようになると、全員がその印を見て驚く。髪色で何か言われていた時のように、階級章に気がついたものたちがコソコソと話すのだ。しかし、彼女はそれを全く気にしなかった。

 槍で廊下を塞ぐ兵士達も、一週間も毎日セフィライズのいない執務室に通うスノウに慣れ、軽い挨拶と他愛もない会話をしてくれるようになった。

 彼女自身は気がついていないが、人と打ち解けるのが早い。誰の会話でも笑顔で頷いてよく聞くのもあり、印象がとてもいいのだ。


 今日も執務室に入り、汚れていないものの清掃と、一瞬だけ窓を開けて外の空気をいれる。外は極寒の強い風が吹いているせいで、隙間から入ったそれで彼の机の上の書類が舞ってしまった。窓を慌てて閉じ、その書類を拾いにいく。

 それは、古い文献の資料だった。邪神ヨルムについての資料の切り抜きや、彼の文字で検証された結果の考察などが細かく書かれている。大雑把に書かれた壁画の図と、矢印で何を示しているのか考えているようだ。見るつもりは全くなかったけれど、ふとその書類の、大きく二重丸を書かれた部分に目が止まる。そこには、壁画のある一点を刺して《世界の中心》と書かれていた。壁画に書かれていた世界樹の根に包まれた花の部分だ。


 スノウは最初《世界の中心》という名前自体を知らなかった。しかしこのアリスアイレス城で学んだ知識によると、無限にマナを生み出すもの。手に入れた人は無限の幸福、知識が得られるもの。文献によっては永遠の命が得られるだとか、黄金を生み出す、だとか。まるでおとぎ話のような事が伝えれている、伝説上のものだ。


 壁画のこれを、セフィライズは《世界の中心》だと思ったのだろう。その下に小さく続きが書かれているのだが、強い筆跡でかき消されている。目を凝らすも読むことはできなかった。何かを迷っているような、そんな印象を受ける。

 スノウはあまり読み続けるのは失礼だと、書類をまとめて机の上に置いた。







 それからさらに一週間が経過し、セフィライズが帰ってくる日だ。しかしちょうどスノウは休みの日。執務室に行こうとも思ったが、同じく休みの日だったリリベルと、その友達のエリーに食事に誘われてしまった。分担された掃除や当番が間に合わない時は、いつも快く代わってくれる彼女達の誘いを断れなかった。

 彼女達が作ってきたサンドイッチを持ち、行く場所は大体みんな同じ、室内庭園。広い庭園の端で、布を広げてピクニックの雰囲気を味わっていた。

 お昼にはまだ少し早い。スノウはまだ食べ物には口をつけずにいた。飲み物を配りながら、いつも二人の話に耳を傾ける。今回はスノウが与えられた新しい階級章が二人は気になって仕方ないようだ。


「ずっと無かったから、本当は嘘なのかと思ってた!」


 リリベルがサンドイッチを口に頬張りながらスノウの腕に新しくつけられた階級章を触る。これが本物かーと言った感想を漏らしていた。


「私は事務だから、ほら見て」


 何冊も本が並ぶ図だ。その本の表紙に何が書かれているかで、事務の何をしているのかがわかる。彼女達は剣の印。兵隊関連の事務だ。


「ってことは、スノウは秘書になるの?」


「セフィライズ様の下に就いた人って、秒で辞めるんだよねー」


「そうなんですか?」


 秘書かどうかはまだわからない。何をするかも知らない彼女は、ただ階級章を与えられただけ。現状はただの掃除係になっている。


「ほら、だってぇー、全然にこりともしないし、何考えてるかわからないじゃん」


「そうそう、一言もしゃべらないし。近寄り難いっていうの?」


「そんなことないですよ、よく笑いますし…… 」


「えー絶対嘘。確かにかっこいいけど、私はシセルズ様の方がタイプだなー」


「わかるー、でもすっごい夜遊びしてるって噂だよ」


 女性同士らしい噂話。しかしスノウは聞いたこともない話だった。そうなのかな? という疑問を持ったままにその話を受け流す。


「やっぱり、ちょっと私達とは違うっていうか。人間じゃない?」


「わかるわぁ、あの色は確かに!」


 セフィライズの話で盛り上がる二人に置いていかれ気味のスノウが、視線を後ろに向けると、ちょうどそこにいたのは。


「あ、セフィライズさん……?」


「ぇえ!」


 スノウの声に、女子の世間話に花を咲かせていた二人は驚いた。ものすごい速さで立ち上がり「お疲れ様です!」と二人揃えたように言いながら敬礼をした。お互いに、聞かれていたのか、いないのか、視線を送り合う。


 スノウは、多分聞こえていたんだろうな、と彼の微妙な雰囲気を見て思った。しかしなんて言ったらいいか、わからなかった。


「戻られたんですね」


「休みのところ、すまない。少し、いいかな」


 用事がある、ということが嬉しい。スノウは二人に頭を下げてセフィライズのところへ歩いて行った。残された二人は、心臓の音が聞こえそうなほどに慌てていたものの、何も言われなかったことに安堵する。再び座り、しばらく無言の状態でお互い目を見合わせていた。




「あの……」


 今日の彼は、マントもフードもしている。その髪色も、目の色も、肌も全て、隠すように。


「どこに、行くんですか?」


 少し早足で歩く彼の後ろを必死に着いていく。その質問に、彼は足を止めた。







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