12.城内での日々編 願い
「なぁ、もしも……お前が……、、で、、、、、、、、、たら」
シセルズが発する言葉が、突風が窓を叩きつける音でかき消された。しかしセフィライズには、何が言いたのか、言葉の切れ切れから理解して、また視線を逸らす。
シセルズはすでに四杯目の氷酒に口をつけていた。
「また、その話?」
セフィライズは、また少し辛そうな顔でロックグラスに口をつけた。
「どうする、もしそんな……」
「そもそも無いものに、あったら。なんて、無意味な話はしない。あと、兄さんはもう、気にしなくていい。これは……本当に、俺だけの問題だから」
やはりセフィライズは譲らない。自分だけの問題で、誰にも解決できないもので、そして誰の責任でもないものだと。
わかっている。本当は、そんなものはない。安っぽい決められた運命なんてもの通りに、何も変わらず進んでいくだけ。だから、無理してでも作るしかない。やりたいこと、叶えたいこと。無理だとか、そんな言葉で片付けるのは本当に簡単だ。求めるならば、たとえどんな手段だとしても……。
「あーわかった。じゃあ、俺がお前の為に何をしても、俺だけの問題でいい。だろ?」
「だから、何もしなくても……」
「いや、お前は気にしなくていい。これは俺だけの問題だからな」
シセルズは嫌味のようにセフィライズの言葉を借りた。「酔ってるのか?」と聞かれ、大声で「酔ってねぇーよ!」と返事をして机に突っ伏してしまう。
シセルズは、本当は少しだけ罪悪感があった。しかし、俺だけの問題、という言葉を飲み込んで、その罪悪感をかき消した。
「セフィー、もう一杯入れてぇ……」
「五杯目なんだから、もうやめとけって」
止めながらも入れてしまう。注がれたお酒を、シセルズは飲み干した。
あの後何杯飲んだか覚えてない。シセルズは机の上でそのまま泥酔してしまったように思ったが、ベッドの上で目が覚めた。その瞬間から、頭が痛い、気持ち悪い、酷いめまいに襲われて、起き上がれないままうめき声を上げた。
「おはよう兄さん」
「あーー……あっれー……セフィ? やべー、気持ち悪い……」
シセルズは自分でも何を言ってるかわからないほど酷い二日酔いだった。体起こすのも気持ち悪い。吐きたいけど吐くものはない。頭は何回も金槌で殴られているようだ。
「だからやめとけって言ったのに。あ、兄さん着替え借りるから」
シセルズの部屋で、クローゼットから兄の制服を取り出す。セフィライズと同じ制服で、お互い身長も体重も大して変わらない。
「ぇえー……俺、今日……仕事?」
シセルズはそれは絶対無理、と言った絶望的な顔をしてしまう。起き上がりながら、仕方なしに立ち上がってみるも、無理だと悟った。
「兄さんは寝てたらいい。俺が行くから」
「え? 何?」
「兄さんの替わりに、俺がやるって言ってんだよ」
着替え終わったセフィライズは、いつものようにマントを羽織ろうと手を伸ばした。視界に自身の銀髪が映る。一瞬考えて、その手を下げた。
「お前、休み……?」
「ううん、いや……うん。明後日から、カイウス様の護衛で同行だから、それまで休み」
「それ、スノウちゃん知ってるの?」
シセルズは、まさか黙って行く気じゃないだろうなと慌てた。仮にも現状はセフィライズの下についているわけだ。セフィライズが同行するのなら、それについていくか、予定を把握していてもいいはず。
「なんでそこに彼女が出てくる……」
しかしセフィライズは何故そんな事を聞いてくるのか理解してなかった。これまでセフィライズの下に誰か人がついたことがない。いや、実際には何度かあるのだが、あまりにも人を使う技術がなさすぎて、全員お手上げ状態。階級や立場的にも、雑務をこなす人材は必要だ。たまに、レンブラントがカイウスの指示で手伝っているようだけれど、だいたいは全部一人きりでこなす。
「連れていく気はない」
「お前なぁ……」
「ちゃんと……考えて戻ってくる」
クローゼットの扉を締めながら、いつもみたいな辛そうな目をしている。それでも、シセルズには何かに向き合う事を決心したように見えた。
長く立ち止まって来たのだから、昨日の今日ではい変わります、なんていうのは誰しもができない事。しかし一歩踏み出すことができれば。
「何日?」
「二週間」
「りょーかい」
「……じゃあ、俺行くから。兄さんは寝てて」
多分逃げない。ちゃんと、何かに向き合うつもりだろう。その最初の一歩が、きっとそれだ。
シセルズは、部屋に残されたフードのついたマントを見て思った。
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