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40.王国への帰路編 ありのまま 



 早朝、セフィライズ達はアリスアイレス王国に向けて出発する準備に取り掛かっていた。ギルバートの他一名が同行する。セフィライズに軽口を叩いていた、バンダナを頭に巻いた背の低い青年だった。

 新しく用意された幌馬車はとても小さく質素なものだった。レンブラントは荷台に乗せられた物資を確認している。セフィライズはいつものようにフードを被り、暖かさや明かりを灯す魔道人工物(アーティファクト)をアリスアイレス王国の馬車から移動させて取り付けていた。


「どうして別の馬車で向かうのですか?」


「破損箇所が見つかりまして、長い移動には耐えられそうにないのです」


 スノウの質問にレンブラントが丁寧に答える。前輪が破損し、修理もできそうにないとの事だった。

 ギルバートは幌馬車を引く馬の他に、もう二頭の馬を引っ張ってきた。鞍のついたしっかりした馬に、ギルバートとバンダナの青年が乗る。


「さて、壁越えたら休憩場所までは僕たちが守備に回るから。その後はセフィライズにも出てもらおうかな」


 ギルバートはレンブラントの用意した簡易の地図を確認しながら言った。魔道人工物(アーティファクト)を移動し終えたセフィライズは、積荷の中にある弓と矢の本数を確認しながら頷く。守る対象の馬車は一つ。しかし、常に気を貼り続けるわけにもいかない。交代制となるとセフィライズにも働いてもらわないと、到底回る人数ではなかった。


「あとこれ、僕なりに見繕ったんだけど、どうかな」


 ギルバートがセフィライズに手渡したのは細身の剣だった。レイピアまではいかないが一般の物より細い。受け取るとそれは非常に軽いが、しっかりとした適量の厚みがある。セフィライズは鞘から抜き出して、軽く振ってみた。


「……確かに、でも少し軽い」


「いつも適当なものばかり使ってるからだよ。このぐらいの方が、セフィライズには合ってる」


 普段から専用の武器を持ち歩かないセフィライズにとって、少し違和感があるらしい。彼は腰に帯びてみた。邪魔そうに手を広げ、腰回りを確認する。


「とりあえず、今は外しておく」


「慣れといた方がいいのに」


 苦笑するギルバートをよそに、セフィライズは素早くそれを外して馬車の中に置いた。


「出発の前に、少し寄りたいところがある。街の中央、ガーゴイルの像があったあたりだ」


「あー……セフィライズは見たのかな。あの、ガーゴイル」


 ギルバートが何かを思い出すように言った。


「見たのか?」


「うん、まぁ……二体の残骸は見た。そのあとすぐ上空から一体やってきてね」


 ギルバートは仲間達と苦労してなんとか倒した事を説明する。その場にいた全員で石を投げ槍を投げ、剣で応戦したらしい。装甲の厚いガーゴイルを黒い瓦礫にした頃には、ほとんどが立ち上がれないほどへとへとだったそうだ。

 セフィライズは考えるように手を顎の当たりに添える。ギルバートが見たものは、三体。セフィライズが見たものは、一体。確かコカリコの街の中央には、ガーゴイルの像が各方角を見て四体。


「偶然にしては、出来過ぎか」


「ん?」


「いや、なんでもない」


 セフィライズが幌馬車に乗り込む。段差がある馬車の上から、スノウに向けて手を伸ばした。彼女を引き上げ、荷物の間にかろうじて作ったような隙間に座らせる。「狭くてすまない」と、声をかけながら。しかしスノウは「ううん」と首をふり、足を抱えて座った。

 レンブラントが手綱を握り、ギルバートの先導で荷馬車は進む。アリスアイレス王国の馬車に比べると、かなり揺れた。



 コカリコの街の中央。広場に寄せるように荷馬車を停める。あの時は煙幕のような、異様な煙に包まれていた広場も、今は見通しが良い状態だった。そしてガーゴイルの像があった場所にはっきりと見えるのは、大きな穴。

 セフィライズは荷馬車から降り、進もうとする。それをギルバートが止めた。


「セフィライズ、持ってかないのかな?」


 ギルバートが馬に乗りながら幌馬車に寄せ、セフィライズが置いた剣を探す。スノウが察して剣を手に取り、ギルバートに手渡した。


「ほら、持ち歩いて」


 セフィライズは不服そうな顔を一瞬したが、素直に受け取る。マントの中で、ゴソゴソと腰に取り付けていた。鞘がマントに引っかかり、どうにも動きにくそうだ。


「いらないでしょ、それ」


 ギルバートに指を刺され、セフィライズは首をかしげる。今取り付けた剣の事かと、再び腰回りを確認するように動いた。


「いや、そうじゃなくて。それ、そのマント。フードもしなくていいよね」


「え?」


「え? じゃなくて。もうほら、わかってるし。僕たちの前で、隠すことないでしょ」


 ギルバートは馬を動かし、セフィライズの横に移動した。彼が戸惑っている間に、フードのてっぺんを摘み、持ち上げて脱がす。太陽光の真下、絹糸のように繊細な色の髪が揺れた。透き通る虹彩が驚くようにギルバートを見上げる。


「ほら、留め具も外して」


 セフィライズは促されるままマントを脱ぐと、ギルバートが引っ張り上げ、クルンと纏める。幌馬車で馬の手綱を引くレンブラントに向かって、丸めたマントを投げた。


「これで鞘が引っかかることもないし、視界も良くなって、動きやすいでしょ?」


 陽の光の下で、自らの姿をありのまま晒すことが少ないセフィライズは、周囲をやや挙動不審気味に見る。そこには、誰もいないというのに。ギルバートの満足げな表情に、セフィライズは困惑しつつ、俯いて表情を隠した。





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