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39.医療救護編 焚き火



 なんだか寒い。そう感じて、スノウは目を覚ました。

 暗い馬車の中。柔らかい生地を貼った長椅子の端に、壁にもたれかかるかのように眠るはずのセフィライズがいない。その事実に気がついたとき、スノウは体を起こした。と、同時に彼女がセフィライズの体にかけたはずのマントが落ちる。

 いつの間に、寝てしまっていたのだろうか。スノウは落ちたマントを丁寧に畳むと、それを抱えて外に出た。


 スノウは少しお腹が空いていた。お腹のあたりに手を添えて、壊れた建物の残骸を避けながらほんのりと明るい方へ進む。その先に、大きな焚火が見えた。その暖かな光をとり囲む人の中に、一人だけ違う髪色の彼がいる。


「セフィライズさん!」


「……起きたのか」


 振り返ったセフィライズは、安堵の表情を見せた。焚き火の柔らかな光が彼の髪を輝かせて、とても優しい雰囲気。


「スノウさん。ありがとう。怪我を治療してくれたんだってね?」


 セフィライズの隣に立つギルバート。彼はスノウの手を掴んでありがとうありがとうと、少し大袈裟に感謝を示す。


「スノウさんは、大丈夫かな?」


「あ、はい。わたしは、なんとも……」


 ちらりと隣で黙っているセフィライズを見た。無言でそのやりとりを見ているだけの彼と視線が合う。しかしスノウは、その視線をそらしてしまった。

 なんだか、とても申し訳ない気持ちが、胸の中で湧き上がるから。


「スノウ、私達は明日、アリスアイレス王国に出発することにしたよ」


「僕と、あと1人。全員乗れそうな適当な荷馬車を用意したから」


「ここにいても、私達にできることはない」


 スノウは突然の話に戸惑う。セフィライズの言葉に、まだできることは、ある。そう反論しようかとも考え、しかしスノウだけでは、重篤な人なら一人。軽傷ならば数人癒しておしまいだろう。その後は、どうなる。彼に、セフィライズに……頼るのだろうか。


「大丈夫、セフィライズがアリスアイレス王国から援助してくれるって約束してくれたから。僕はそのお迎えにいくようなものだし。そもそも、最後まで送り届けるお仕事だからね!」


 ギルバートは不安そうなスノウの表情を察してか、明るく親指をたてて見せた。


「じゃあ、僕は明日の準備とか、根回しとか、まだ色々あるから。先にいくよ!」


 大きく手を振ってにっこり笑うギルバートが立ち去ると、二人は取り残されたような雰囲気になった。スノウはセフィライズの横に立つ。焚き火の明るさと共に、暖かさがとても体に沁みた。


「もう、大丈夫ですか? 辛そうだったので」


「ん……まぁ」


 言葉を濁しながら答えた彼は、夢のことが頭に浮かび、焚き火に目をやった。揺らめきが、灯しびが、眩しい。

 ふと、セフィライズは彼女に渡すものがあることを思い出した。スノウへと手に持っていた袋を渡すと、ベリー類ががいくつかとリンゴ、そしてふかした芋が入っている。


「あまり量はないけれど、取っておいたから」


 食べ物を見たスノウのお腹から音がなった。彼女は素直に食べ物へと手を伸ばそうとして、マントを手に持ったままだった事に気が付いたようだ。彼女からそれを受け取ると、セフィライズは素早く羽織り、目深にフードを被った。その横でスノウはラズベリーを取り出している。


「ありがとうございます」


 とてもお腹がすいていたのであろうスノウは、慌て気味にラズベリーを一つ口の中に入れた。酸味が沁みて、目をキュッっと閉じ肩を持ち上げている。スノウが食べている様子を、セフィライズは静かに眺めた。表情が、豊かな人だと思う。


「セフィライズさんは、もうお食事は終わったんですか?」


「……まぁ、うん」


 質問されるとは思っていなかった。セフィライズは分かりやすい表情を浮かべながら視線を逸らした。しまった、という顔になったのはそのすぐ後のこと。スノウを見ると、彼女は眉間に皺を寄せながら見返していた。


「食べて、ないんですね」


「いや、食べたよ」


 すぐに否定をしたがもう遅い。元々、彼は嘘が苦手だった。大げさではないが、すぐ顔に出ると兄にもよく指摘をされる。困ったように目を泳がせ、何を言おうか考えた。


「嘘です。これ、あとこれも」


 スノウが袋から食べ物を取り出そうとするのを、彼は止めた。


「いや、いらない。全部君が食べるといい」


「……わかりました」


 はぁ……と大きなため息をついたスノウは、りんごを取り出して彼に差し出す。何がわかったのか、といった表情のセフィライズを、スノウの真っ直ぐな視線が刺さった。


「これは、わたしからの感謝の気持ちです。感謝は、素直に受け取るものでしょう?」


 はっきりとしていて、少し強い口調。受け取らない彼に、スノウはほらほらとリンゴをもつ手を何度か突き出した。セフィライズは額に手を当てため息をひとつ。苦笑いを浮かべてそのリンゴを受け取った。


「わかったよ……」


「ならよかったです」


 押しに折れたセフィライズの様子がなんだかおかしくて。スノウは声を出して笑ってしまった。


 気難しそうに見えるのは何故だろう。あんなに強くて、あんなに毅然としてて。手の届かない、神秘的で遠くにいるような人なのに。今はとても、身近に感じる。


 本当は、とてもとても、優しい人。










本作品を読んでくださり、ありがとうございます。

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小説家になろうで活動報告をたまにしています。

Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。

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