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34.黒衣の凶徒編 後悔




「お話は終わったのかしら?」


「そっちのひょろ長いの、腕に覚えがあんのか」


 デューンに指をさされたギルバートは驚く。確かにギルバートは一般的な人よりかなり背が高い。セフィライズと並ぶと長く見えたのかと知り笑った。そういえば彼もこのぐらいの身長だったかと、ギルバートは誰とはいわない彼のことを再び思い出す。


「そんなにないかな。つい先日、セフィライズに大負けしたんでね」


 そうでもなかっただろう、と彼は言いたげだったが口を噤んだ。セフィライズはギルバートの横に並び、視線で合図を送る。目の動きで何を言いたいのか理解したギルバートは、自身の剣をデューンに向けた。速さだけはセフィライズ以上のネブラの相手を、ギルバートでは務めることができないと判断した結果の指示だった。

 手分けして相手をするという意思が敵側にも伝わったのか、互いに武器を向け合った。


「それじゃ、いくよ!」


 先に踏み出したのはネブラだった。それを合図に、互いに走り相手へと切り掛かる。


 ネブラの動きは早くて正確だった。しかし盾となるデューンがいなければ、怪我をしていても相手は務まる。繰り出される槍を素早く避け、セフィライズの剣がネブラへと届くと、剣先が彼女の服の裾を掠めた。


「チッ!」


 ネブラは舌打ちをしながら下がる。セフィライズはさらに前へ出て相手を威圧していった。先程と違い、ネブラが防戦一方となる。

 しかし、ふと彼女が笑う。ネブラに集中していたセフィライズには見えていなかった。ネブラの視線の先には、苦戦するギルバートの姿があった。


「そういうとこだよっ!」


 ギルバートの存在に気を取られた一瞬の隙に、剣を持つ右手首の真上を槍で突き刺される。セフィライズは握りきれず剣を手放し膝をついてしまった。さらにネブラの槍が再び彼へと向けられる。心臓を刺そうと。

 セフィライズは右手を犠牲にして、ネブラの槍から自身を庇った。左手で槍を掴むと強く引く。

 ネブラはセフィライズに引っ張られないようにと、足に力を込めた。


「どうすんだい、その状態で。あんたにはこれ以上手出しできないだろ」


「どうかな」


 ネブラは、もう利き手が使えず剣が握れないセフィライズなど、大したことはないと高を括っていた。

 セフィライズが左手で握る槍の柄を、強く大地に押さえつけるようにして手をついた。その左手を軸に大きく足を持ち上げる。遠心力を利用するように振り上げた足は、素早い蹴りとなってネブラの首を捉えた。

 ネブラは思わず槍から手を離して避けてしまうと、苦々しそうな表情をセフィライズへと向ける。セフィライズは左手でネブラから奪い取った槍を構えた。


 武器を奪われた形となったネブラは、開き直ったかのように立つと「降参よ」とだけ呟いた。

 セフィライズがネブラを拘束するため近づこうとしたその時、デューンの大剣が残骸となった建物の一部を破壊する音が聞こえた。音のする方を見ると、ギルバートが肩で息をしながらなんとか立っている。


 セフィライズがすぐに助けに向かおうと走り出した。しかし、ネブラに背を向けた瞬間、彼女は隠し持っていたナイフをセフィライズに向かって投げる。ネブラのナイフがセフィライズの頬をかすめ通り、それに気を取られた刹那。


「うぉおらあぁ!!」


 デューンの大剣がギルバートに向かって振り下ろされた。避けたのか、避けていないのか。巻き起こる土煙からでは判断できなかった。


「ギルっ!」


 走り寄ると土煙の中で、彼の足が見えた。すぐさまギルバートの方へ向かうと、うつ伏せで倒れすでに意識が無いようだった。握られていた剣は折れ、ギルバートの周囲に残骸となって落ちる。剣を掴んでいたはずの腕は、言い表せぬ程に崩れ、潰れ、骨は砕かれたかのようになり、異様な方向へと曲がっていた。その光景に、セフィライズは息を飲む。自分の判断を、指示を、後悔した。


「おっと、切断とまではいかなかったか、残念」


 ディーンは土煙を払うかのように大剣を振り回すと、セフィライズの方へと歩み寄った。


「次は俺の相手をしてもらおうか、氷狼(フェンリル)さんよぉ」


 セフィライズはネブラから奪った槍の柄を強く握りしめる。込み上げる感情に名前が付けられなかった。胸の奥で渦をまくかのように溢れ出し、全身を支配するそれを。セフィライズは再び大きく息を吸い、デューンを見た。


「ぉお、怖い怖い……」


 鋭い視線に、デューンは茶化(ちゃか)すように笑う。セフィライズは立ち上がり、槍をデューンに向けた。と、同時に、自身の兄の言葉を思い出していた。


−−−−お前は、自分の速さ、身軽さに頼りすぎている。意識を切り替えるのにも時間がかかりすぎだ。不利になってから本気になったって遅いんだよ。


アリスアイレス王国の練習場で、兄に稽古をつけてもらった日々の言葉。何度も何度も、繰り返されてきた注意。どうしてまた、繰り返したのだろうかと。

 セフィライズは槍の柄を折らんばかりに握りしめた。






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