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32.黒衣の凶徒編 大剣と槍



 セフィライズは回復した女性を抱え、茂みに置いてきた馬の近くまで運んだ。いま、この女性を連れて行くことはできない。確か、タナトスの群れは町の中心へと向かっていたはず。このはずれの茂みならまだ安全と判断したからだ。

 スノウに再び、助けた女性と一緒にいるように指示をする。今度は、彼女がしっかりと頷くところを確認した。

 本当のところ、セフィライズはスノウだけを置いていくことがとても心配だった。しかしスノウは見るからに疲れているようで、寝かせた女性のそばに座り込んでいた。


「セフィライズさん、あの……」


 セフィライズが進もうと立ち上がると、彼女が彼の手を掴む。セフィライズの左掌の傷は、女性の大怪我を治した時に一緒に治癒されて跡形もない。


「無理を、されないでください」


「君が言うのか……」


 セフィライズは苦笑しながら「問題ないよ」と付け加えると、スノウを背に走り出した。町の中心にむけて。

 あのタナトスの群れはもう見えない。途中、先程倒したガーゴイルの残骸から剣を拾い上げた。瓦礫のように崩れたガーゴイルの黒い煤のようなものが張り付いている。それを払い、片手で持ち走った。

 風を切り、周囲を警戒しつつも全力で走る。一部倒壊した建物からは、煙が上がっていた。人の気配は既になく、何かが燃え落ちる音だけが響く。いくつもの残骸を横目に進むと、目的地である町の中央の広場は煙が立ち込めていて、全体がよく見えない。


 広場まで一直線に走り抜けると、周囲は煙幕のような異質な煙に包まれていた。

 煙の合間に見えた中心には、あったはずのガーゴイルの像が無くなっている。崩れた台座が当たりに散らばり、よく見えないがそこに、別の何かがあるようだった。再び足を踏み出そうとした、その刹那。


「ぅおおらぁあー!!!」


 雄叫びとともに、背後から何かが降ってきた。セフィライズは紙一重でそれを避けつつ、地面に手を付きさらに宙を舞いながら離れる。先程まで立っていた場所の地面が大きく割れていた。

 煙幕がかけられたような視界の中、その相手に剣を構えた。音、気配、殺気。何かがそこを支配している。


「こっちだよ!」


 甲高い女の声と共に、振り返ると槍が目の前を通った。セフィライズは身を捻り、さらにその場から離れるように後ろへと飛び避けた。

 一陣の風が吹き、中央の広場に溜まる煙を巻き上げる。煙の行く末に気を取られずに、セフィライズは目を凝らす。

 そこには、黒い髪を肩ぐらいの長さで真っ直ぐに短く切り揃えた女が、柄の細い槍を構えて立っていた。黒衣を身に纏い、深く入ったスリットからは艶かしい太ももが露出している。その太ももに黒い刻印が見えた。蛇が自身の尾を咥えて円の形をとり、中央に花のようなものが刻まれている。

 唇に趣味の悪い紫に近い口紅を差す女が、クスリと笑いながら言う。


「聞いてはいたけど、想像してたのと違ってだいぶ坊やじゃないの」


「俺は思ってた通りだったけどなぁ、なぁ氷狼(フェンリル)さんよぉ」


 女とは違う、男の声がした。それはセフィライズの真後ろからだ。振り返るとそこには、重そうな大剣を片手にもつ、隆々とした男が立っていた。この男も似たような黒衣をまとい、重量のありそうな黒い鎧を身につけている。そして右腕の盛り上がった筋肉に、女と同じ蛇の刻印があった。

 セフィライズは挟まれる形となり、両方をなるべく視界に入れつつ気を張り詰める。


「初めまして、俺はデューン」


「あたしはネブラよ、よろしくね」


 誰だ、と聞く前にご丁寧に挨拶をしてくる。女の方は「どうもー」なんて不気味に笑いながら手を振ってきた。


「悪いがこっちは仕事中でな。ウロボロスの作業が終わるまで、特にあんたには近づかれちゃ困るんでね」


「ちょっとは楽しませてね、坊や」


 ネブラは恐ろしいほどに目を見開き、牙を出して威嚇する毒蛇のごとく笑い、槍を構えた。その瞬間、セフィライズの喉仏を狙い槍を打つ。

 彼はその攻撃を紙一重で避けるのがやっと。ネブラの槍は、セフィライズと同等かそれ以上の速さだ。攻撃の間に、デューンがすかさず振りの大きくなりがちな大剣を、的確に打ってきた。

 ネブラの手早い槍に、デューンの威力のある大剣。連携の取れた攻撃に、セフィライズは防戦一方だった。大剣に当たれば即死、とまではいかないにしろ、絶対に避けなければならない。必然的にネブラの攻撃よりもデューンの身振りに気を取られてしまう。

 先程剣で弾き返したはずのネブラの槍がすぐに繰り出された。その後ろで、デューンが大剣を振り上げようとする。セフィライズは意識をデューンに向けた、その時。


 ネブラの槍が、セフィライズの右足太ももに突き刺さった。

 



 





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