47 無敵
前回に引き続き、雨のエピソードです。
関東の6月から7月は梅雨、雨の季節だ。
この時期のバイク乗りは空を見ながら一喜一憂する。
冬はバイクに乗らないというライダーがいるように、雨が降りそうな時は乗らないというライダーも多い。
確かに、雨の日のバイクは普段とは違う。
視界は悪い。路面は滑る。クルマが巻き上げる水飛沫は目の前を塞ぎ、傘を差した歩行者や自転車が予想外の動きをする。服やブーツの中まで進入した雨は不快に体を濡らすだけでなく、体温と共に体力を奪っていく。
かなりのストレスだろう。
私も、他人に雨の日のバイクを勧める気はさらさら無い。
ただ、雨の日というのはそれだけではない、と私は思っている。
子供の頃、あっという間に真っ暗になった空からハードロックのドラムスのように激しいリズムで叩きつける雨を眺めていると、妙にワクワクした。
大きな雷の音は怖かったが、あのまるでマシンガンの集中砲火のような雨は、子供心に自然の暴力性というか、人間では持ち得ない大きな力の凄さというものを感じさせた。
あの時の高揚感のようなものが、今も私の心のどこかにある。
今日も、ポツポツと降り出した雨が急激に勢いを増し、激しい夕立の様相を呈していく。
幸い、雷の音は聞こえない。
ただ、雨というよりは滝のような勢いで空から水が落ちてきているだけだ。
私は周囲が傘を片手に表に出るのを躊躇う中、1人昂ぶる気持ちを抑えてカッパに袖を通す。足元は完全防水のブーツ、グローブも雨天用で、荷物は浮き袋にもなる完全防水のバッグに収めてある。
「じゃ、お先に」
軽く手を挙げて事務所を出る私の背中を、驚きの表情がいくつも見送る。
駐輪場で相棒のエンジンを始動させ、シートを跨ぐ頃には、我慢できずにもう口元は緩み始める。
体中に撃ち込まれる、空からの透明な弾丸を受けても、私はビクともしない。
クラッチを繋いでアクセルを開くと、体に当たる銃撃は激しさを増すが、胸を張ってそれを弾き返す。
ヘルメットの中は雨の音で満ちていくが、笑い声がそれをかき消す。
子供の頃にもこうしたかったのだ。
あのとんでもない雨の中に出て行き、全身で雨を弾き返してやりたかった。
「うぉー! 雨もスゲーけど俺もスゲーぞー!」
そういって笑いたかった。
その想いが今、ヘルメットの中の私の表情を笑顔に変える。
「すんげえ雨だ! でもおもしれえ!」
運転はあくまでも慎重に、用心深く、頭をフル回転させて考えうる限りの予測をし、バイクを走らせる。
それでも気持ちは、あの頃の子供の心で、奔り出す。
完全装備の私はこんな雨にだってなんともない!
無敵だ!
ライフル弾のような大粒の雨も、マシンガンのような無数の雨も、私を貫くことは出来ない!
空からの銃撃も跳ね返す、無敵のライダー!
雨の日はそんな子供心が甦る。
雨の日のバイクは楽しい。
今日も雨の中を無敵のライダーが走っていく。
カッパを着ちゃえば無敵状態。
これが私の雨の日の楽しみ方。
雨の日にカッパを着ると、妙な無敵感が出てきちゃうんですよね。
体質的に子供なのかも。
雨の日は雨の日で楽しいもんです。




