表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/48

47 無敵

前回に引き続き、雨のエピソードです。

 関東の6月から7月は梅雨(つゆ)、雨の季節だ。

 この時期のバイク乗りは空を見ながら一喜一憂(いっきいちゆう)する。

 冬はバイクに乗らないというライダーがいるように、雨が降りそうな時は乗らないというライダーも多い。

 確かに、雨の日のバイクは普段とは違う。

 視界は悪い。路面は滑る。クルマが巻き上げる水飛沫(みずしぶき)は目の前を(ふさ)ぎ、(かさ)を差した歩行者や自転車が予想外の動きをする。服やブーツの中まで進入した雨は不快(ふかい)に体を()らすだけでなく、体温と共に体力を(うば)っていく。

 かなりのストレスだろう。

 私も、他人に雨の日のバイクを(すす)める気はさらさら無い。

 ただ、雨の日というのはそれだけではない、と私は思っている。

 子供の頃、あっという間に真っ暗になった空からハードロックのドラムスのように(はげ)しいリズムで(たた)きつける雨を(なが)めていると、(みょう)にワクワクした。

 大きな雷の音は(こわ)かったが、あのまるでマシンガンの集中砲火(しゅうちゅうほうか)のような雨は、子供心に自然の暴力性というか、人間では持ち得ない大きな力の(すご)さというものを感じさせた。

 あの時の高揚感(こうようかん)のようなものが、今も私の心のどこかにある。

 今日も、ポツポツと降り出した雨が急激(きゅうげき)に勢いを増し、(はげ)しい夕立(ゆうだち)様相(ようそう)(てい)していく。

 (さいわ)い、雷の音は聞こえない。

 ただ、雨というよりは滝のような勢いで空から水が落ちてきているだけだ。

 私は周囲が(かさ)を片手に表に出るのを躊躇(ためら)う中、1人(たか)ぶる気持ちを(おさ)えてカッパに(そで)を通す。足元(あしもと)は完全防水のブーツ、グローブも雨天用で、荷物は()(ぶくろ)にもなる完全防水のバッグに(おさ)めてある。

「じゃ、お先に」

 軽く手を()げて事務所を出る私の背中を、(おどろ)きの表情がいくつも見送る。

 駐輪場で相棒のエンジンを始動させ、シートを(また)ぐ頃には、我慢できずにもう口元は(ゆる)み始める。

 体中に()ち込まれる、空からの透明な弾丸を受けても、私はビクともしない。

 クラッチを(つな)いでアクセルを開くと、体に当たる銃撃(じゅうげき)(はげ)しさを増すが、胸を張ってそれを弾き返す。

 ヘルメットの中は雨の音で満ちていくが、笑い声がそれをかき消す。

 子供の頃にもこうしたかったのだ。

 あのとんでもない雨の中に出て行き、全身で雨を弾き返してやりたかった。

「うぉー! 雨もスゲーけど俺もスゲーぞー!」

 そういって笑いたかった。

 その(おも)いが今、ヘルメットの中の私の表情を笑顔に変える。

「すんげえ雨だ! でもおもしれえ!」

 運転はあくまでも慎重に、用心深く、頭をフル回転させて考えうる限りの予測をし、バイクを走らせる。

 それでも気持ちは、あの頃の子供の心で、(はし)り出す。

 完全装備の私はこんな雨にだってなんともない!

 無敵だ!

 ライフル弾のような大粒の雨も、マシンガンのような無数の雨も、私を(つら)くことは出来ない!

 空からの銃撃も()ね返す、無敵のライダー!

 雨の日はそんな子供心が(よみがえ)る。

 雨の日のバイクは楽しい。

 今日も雨の中を無敵のライダーが走っていく。

 カッパを着ちゃえば無敵状態。

 これが私の雨の日の楽しみ方。

雨の日にカッパを着ると、妙な無敵感が出てきちゃうんですよね。

体質的に子供なのかも。

雨の日は雨の日で楽しいもんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ