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46/48

46 Rain

雨の日のエピソードです。

秦基博さんが唄う大江千里さんのRainが頭の中でリフレインしています。

 エンジンの中でガソリンが爆発し、ピストンが往復する音。

 エキゾーストパイプを通って排気がマフラーを抜けていく音。

 ヘルメットの向こう側で渦巻(うずま)風切(かざき)り音。

 バイクに乗って走っていると色々な音が聞こえてくる。

 それらが(かな)でるメロディーを聴くのも良いものだが、時には、ヘルメットの内側や頭の中で別の音楽がめぐっていることもある。

 6月13日。

 梅雨の無い北海道を(のぞ)く日本全域が梅雨入りを()たしたこの日、関東も朝から雨が降っていた。

 私は強めの雨音が響く窓の外を一瞥(いちべつ)し、いつもより少し早い時間に家を出る。

 道を歩く人は傘を斜め上に向け、その陰で肩をすぼめるようにして歩いていく。

 私は手の中でキーをクルリと回し、駐輪場に向かって歩き出した。

 雨の中、パタタタと音を立てるスレートの屋根の下で並ぶ3台の相棒。

 真ん中の1台のカバーを外し、カッパを取り出して(そで)を通した。

 ヘルメットをかぶり、分厚い防水の手袋をつけ、センタースタンドを解除。

 バイクと共に雨の中へ歩き出す。

 駅へ向かう人の流れと逆方向。

 普通の人は雨の日に使うのは傘で、カッパじゃない。クルマや電車でバイクじゃない。

 それでもこうしてバイクを選ぶのは、私の中のどこかがおかしいのか?

 路肩(ろかた)まで出たところで、もう一度スタンドをかけ、エンジンをかける。

 110ccの2サイクルエンジンは一発でパララと軽快な鼓動(こどう)(きざ)みだす。

 しばらく待つと、マフラーから噴出(ふきだ)す白い排気煙の色が薄くなった。シートを(また)ぐ。

 スタンドを解除してアクセルを開いた。

 ヘルメットのシールドを雨粒が滑っていく。

 カッパについた水滴がまるで水玉模様のようだ。

 クルマの多い道を()け、遠回りだけれど田んぼの中の道を走っていく。

 すれ違うクルマもバイクも、自転車も歩行者もいない。

 雨の世界にただ一人。

「…言葉にできず凍えたままで、人前ではやさしく生きていた…」

 ヘルメットの中で(つぶや)くように(うた)が口をついた。

「しわよせで…こんなふうに雑に…雨の夜にきみを抱きしめてた…」

 2ストエンジンのオイルの匂いも、パララと軽快な音も、雨に吸い込まれ、とけていく。

「Lady…きみは雨にけむる…すいた駅を少し走った…」

 ヘルメット越しの景色は雨のカーテンのよう。

 カッパ越しに体を叩くのは風と無数の雨粒。

 田んぼの水面には、数え切れないほどの波紋が重なり合いながら、模様のように広がっていく。

「どしゃぶりでもかまわないと…ずぶぬれでもかまわないと…しぶきあげるきみが消えてく」

 雨の匂いがヘルメットの中にも満ちていく。

 ウィンカーを出して田んぼ道を逸れ、公園へ。

 鮮やかな濃緑色の葉の中に、水色や紫の花が透明な雨粒をまとって静かに咲いている。紫陽花(あじさい)

 バイクを降りてカメラを取り出し、写真を撮った。

 もちろん雨の公園にも人はいない。

 再びシートを(また)ぐ。

 アクセルを開いた。

「…肩が乾いたシャツ、改札を出る頃…きみの町じゃもう雨は小降りになる…今日だけが明日に続いてる、こんなふうに…きみとは終われない」

 (うた)いながら走る。

 Rain

 大江千里の雨の曲だ。

 つい最近見たアニメ映画のDVDで、主題歌として秦基博がカバーしていた。

 それが耳に残っている。

 雨の(うた)を口ずさみながら、雨の中を走り、雨の日を楽しむ。

 こんな日があっても良い。

 そう思う私は子供じみているのだろうか。

 雨の日は嫌いじゃない。

 今日はRainをリピートしながら、雨を楽しむ。

 そう、

 どしゃぶりでもかまわないと…

 ずぶぬれでもかまわないと…

先日、新海誠監督の『言の葉の庭』のDVDを見直してから、秦基博さんの唄うRainが耳に残っていて、雨の中を走りながら口ずさんでいました。

影響を受けやすいのがバレバレですね。

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