48 男同士の旅
子供とタンデムで出かけること!
それがこの夏にやっておきたかった企みでした。
初めてのお泊まりツーリングでもあり、私自身もとても楽しみにしていたのですが、それをはるかに上回る旅となりました。
今回はその時のエピソードです。
「大丈夫か?」
「雨が冷たくて気持ち良いー!」
8月最後、つまり夏休み最後の土曜日、私はライムグリーンの相棒に大きな荷物を括りつけ、どしゃ降りの国道4号線を南に向かって走っていた。
昨日、8月最後の金曜日は雲一つ無い見事なバイク日和だった。
埼玉県北東部にある自宅から国道4号線を北上、矢板で栃木県道30号線に入り、矢板・西那須野・那須と時折緩やかなカーブが現れる道を気持ち良く走り抜けた。
最高の一日だった。
バイクに乗る楽しさ、気持ち良さ、疾走感、体に当たる風、エンジンの鼓動、全てが私と、パッセンジャーシートに座る息子を笑顔にした。
夜は顔馴染みの宿で温泉に入り、男2人で夕食のテーブルを挟んで私はビール、息子はジュースでくだらない話しをしながら盛り上がった。
楽しい夏休み最後の金曜日だった。
そして、一夜明けた今朝、窓の外は大雨だった。
宿のオーナーは、待っていれば少しは小降りになるかもしれないからとチェック・アウトの時間も気にしなくていいとまで言ってくれた。
それでも、私と息子は天気予報の画面に傘マークしか並んでいないのを見て、雨の中の出発を決めた。
「大丈夫ですか?」
「ええ。カッパも持ってきてますし、下道でゆっくり帰りますよ。な?」
「うん。僕のカッパ格好良いんだよ!」
オーナーに礼を言い。カッパを着てスーパーシェルパに跨った私達は、次回は家族みんなで来ますねと手を振って那須を後にした。
「…いいじゃん♪ いいじゃん♪ すげーじゃん♪」
インカム越しに息子の楽しそうな歌声が聞こえてくる。
インカムには音楽プレーヤーも接続してあり、仮面ライダーの主題歌がエンドレスで流れている。
「寒くないか?」
「だいじょうぶ! 雨の日のバイクも面白いねー!」
「そうか、面白いか。お前もバイク好きだなぁ」
私達は傘も役に立たないような激しい雨の中を、笑いながらバイクで走る。
時折すれ違うバイクもいるが、どのライダーも雨に視線を落としたポジションをとっていることが多く、たまにベテランのライダーがピースサインをおくってくれるくらい。タンデムのライダーはいない。
「友貴、隣りのお姉さんが手を振ってるぞ」
ただでさえ珍しい親子のタンデム。その上、息子は小学2年生にしては小柄な方で、それが余計に人目を惹く。
信号待ちで止まると、隣りのクルマの窓の向こう側で、「かわいー」と口が動いて息子を指差す姿が見えた。
信号が青に変る。
私は笑いながら、慎重にアクセルを開き、丁寧にクラッチを繋いでバイクを走らせる。
雨とはいえ、国道4号線の流れは速い。
細心の注意を払い、常にクルマの流れと路面の状況を予測しながら、流れに合わせて加速する。
デジタルのスピードメーターは時速80km近辺でパラッ、パラッと表示を行ったり来たりし、私はアクセルを調節しながら、大型トラックの巻き起こす風と水飛沫をやり過ごす。
「友貴…?」
いつの間にか静かになっていると思ったら、インカムから返事が無い。
タンデムベルト越しに背中に重みがかかっているので、いるのは間違いない。
少し体をズラしてミラーを見ると、目を閉じて気持ち良さそうに左に頭を傾けている息子の姿が映った。
「おいおい、この状況で良く寝られるな」
思わずヘルメットの中で噴き出してしまった。
私はアクセルワークをより慎重にし、南を目指す。
「さすがに疲れたのかな」
雨の中を走りながら、道路脇の表示が変っていくのを確認する。
下野市、小山市、古河市、境町‥‥
那須を出てから約2時間半、ようやく国道4号線バイパスを離れ、県道を西に走る。
しばらくして東武線の線路の向こうに我が家が見えてきた。
「友貴…」
左手で息子の膝をポンポンと叩く。
「んー?」
インカム越しに寝惚け気味の声が聞こえてくる。
「そろそろ着くぞ」
「あれぇ? ウチの近くだ?」
1時間ほど眠っていただろうか。息子にしてみれば急に景色が変わってしまったようなものだ。
「よく寝てたな。疲れたか?」
「だいじょうぶ! 楽しかったねー」
「うん楽しかったな。でも雨も降っちゃったし、大変だったろ? 次はバイクじゃない方がいいか?」
「ううん! 面白かったから、この次も絶っ対バイクがいい!」
「そうか。じゃあ、また行こうな」
「うん!」
我が家が近づいてくる。
気がつけば、いつの間にか雨が止んでいる。
エアコンの効いたクルマで、ゆったりと旅を楽しむのもいい。
でも、男同士の旅にはこんな冒険のようなバイク旅行があってもいい。
次はいつ、どこにするか…‥
私の頭の隅ではまた旅の計画が始まろうとしている。
男同士の旅は、1日目は最高のバイク日和、2日目はまさかの大雨と大冒険のバイク旅行となりました。
大変だったけど、楽しさもその分大きく、思い出に残る良い旅になりました。




