44 週末の始めかた
私の週末は夜明け前から始まります。
今回はそのエピソード。
「桜ももう終わりだな」
早朝、まだ日の昇らない午前4時20分。
少し前まで花見客で渋滞すら出来ていた権現堂公園の桜堤も、もうすっかり葉桜になっている。
それもそうだ。
4月ももう半ば過ぎ、花見をするには1週間は遅い。
ヘルメットの中で小さく息を吐きながら、アクセルを開いて公園の横を通り過ぎる。
国道4号線を北へ。
利根川を越えて埼玉から茨城に入り、さらに国道を加速して栃木県へ。
目的地は県境の入り組む渡良瀬遊水地、その北東側の端にある公園だ。
走りながら、ヘルメットの視界の端に東の空が色を変えていくのが見える。
夜明けだ。
先月に比べると、朝の訪れる時刻も随分と早くなった。
日の出の時刻は午前5時7分。
帰宅予定時間の午前7時までは2時間近い余裕がある。
2時間あれば…‥今までより遠くへ行ける。
それだけで、ベッドから早く抜け出す価値があった。
冬の間は日の出が遅く、朝陽を眺めてから家に到着していなければならない時刻までが短かった。
それが、今は2時間もある。
朝食を食べる時間を差し引いたとしても、1時間以上は自由に使える。
私にとって、土日は家族みんなで過ごす大切な時間だ。
病気を経験し、病院のベッドで過ごさなければならなかったことで、家族と一緒に過ごす時間の大切さを改めて思い知らされた。
バイクの免許を取得し、こうして走り回る喜びを知ったのも病気をした後だが、妻や子供達と過ごす時間の大切さはそれとまた別のものなのだ。
バイクの楽しさ、気持ち良さ、走りながら感じることの出来る感動や喜びは、私にとってもはや不可欠とまでいえる。
反面、バイクを楽しめる今の自分は、家族との大切な時間が作り上げたものでもある。
どちらも大切で、どちらもかけがえのない時間。一方を選ぶことは出来ない。
だから、私の週末は夜明け前から始まる。
国道を逸れ、川沿いの道に入った。
「ん?」
渡良瀬遊水地に沿って流れる川の土手に、淡い色の塊りが見える。
桜?
アクセルを戻しながら、薄明かりの中の景色に目を凝らす。
土手を覆う菜の花の黄色の上に、淡い色の花が連なっていた。
よく見ればソメイヨシノとは違うが、その佇まいは確かに桜だ。
土手を登ってバイクを止め、植えられた樹木を見上げる。
ソメイヨシノよりも幾分色合いが濃い。花の付きかたも八重桜に近いようだ。
それでも、思いもよらず巡り会えた満開の桜に時間も忘れて立ち尽くす。
みんなと同じじゃなくて良い。
そう、ソメイヨシノよりも遅れて満開の花を開いたその木々が言っているように思えた。
カメラを取り出し、静かにシャッターを切る。
日の出前の薄明かりを透かして、誇らしげなその花が液晶画面におさまった。
「さて、行くか…」
日の出まであと少しだ。再びバイクに跨り、アクセルを開く。
橋を渡り、目的地の公園を目指した。
約10分。
渡良瀬遊水地の土手の上に作られた公園に辿り着く。
「あれ…‥ここにもあった」
そこにも、少し濃い色の花を掲げた桜が並んでいた。
『思川桜』
そばにある案内板にそう書かれている。
「…良い名前じゃないか」
近くを流れる川の名前からとったものだろうが、それでも胸の奥に何かを感じさせる名前だ。
「お、昇ってきたな」
ソメイヨシノよりも濃い花びらをさらに赤く染めて、土曜日の太陽が顔を出す。
ゆっくりと昇ってゆく真っ赤な太陽を眺めながら、大きく伸びをした。
朝陽を浴びて、今週も私の土曜日が始まっていく。
さぁて、朝食を食べてまた少し走るとしようか。
私のための時間はまだ2時間はある。
夜明け前から走り出し、朝陽を眺めて、家族サービスの為に帰宅する。
そんな週末をいつも送っています。
大変なように聞こえますが、すっかり慣れました。
早起きは三文の得です。




