36 好きだから
前話に続いて冬とバイクについての思いです。
「ええっ、バイクで来たの!」
今の時期、どこへ行ってもよく聞く言葉だ。
冬のバイク乗りは変わり者扱いされることが多い。
まあ、仕事用のスラックスにレッグウォーマーを着け、ウィンタージャケットにネックウォーマー、冬用のぶ厚いグローブとヘルメットをぶら下げた私の格好は、確かにちょっと変わっている。
「寒くないの?」
これもよく言われる。
寒くない訳が無い。冬なのだから。
それでも、こうして防寒装備をキチンと身に着けていれば、バイクに乗るのをやめるほど寒くはない、と私は思っている。
「寒いのに頑張るねぇ」
別に頑張ってもいない。
バイクに乗りたくて乗っているのだから、むしろツーリングに行ってしまわずにちゃんと仕事に来ていることのほうが、頑張っているといえなくもない。
…とは言っても、バイクに乗らない人から見れば、この真冬の寒い時期にバイクに乗っている私は、やっぱり変わり者なのだろう。
みんなだって寒い時に寒い所へ行ってスキーやスノーボードをやるじゃないか…‥と思ったりもするが、アレは寒い時にしか出来ないもので、バイクは別に寒い時じゃなくとも乗れる。
それでも、私にはバイクなのだ。
今でなくとも乗れることなんて百も承知だ。
乗りたいから、乗る。
寒さよりも、バイクに乗ることの方が楽しいのだ。
バイクという乗り物は、クルマや電車のように目的地へ行く為の手段とはちょっと違う。
乗ること自体が目的で、目的地に到着するのは結果なのだ。
クラッチレバーを握り、チェンジペダルを蹴り、アクセルを開き、体重移動をして車体を傾け、遠心力とバランスしながらコーナーを抜けていく。
こんなにも面倒で、でもこんなにも楽しい。
凍えそうな風の中で見る月も、わずかな陽射しに安堵して見上げる青空も、突然の雨に打たれながら走り抜ける峠道の樹々も、全てがクルマや電車の窓越しに眺めるものよりも鮮やかに映る。
この先に何があるだろう、あの山の向こうまで行ったらどんな景色が見られるのだろう、そんな期待までもかきたてられる。
どこまでも走っていきたくなる。
どこかへ行きたくなる。
その過程こそが目的であり、全てでもある。
ひとまず今日は、また通勤だ。
職場まではバイクなら20分ほど。
少し遠回りをし、倍の時間をかけてバイクで走ることを楽しむ。
今、目の前では暖機を終えたスーパーシェルパのエンジンが、穏やかな鼓動音を刻みながら走り出す瞬間を待っている。
私はゆっくりと相棒のシートを跨いだ。
ギアを1速に入れてアクセルを開き、加速を開始する。
見慣れた風景がシールドの向こう側で後方へと飛んでいき、風となった空気がビュウビュウと体を叩く。
スピードメーターのデジタル表示はパラパラと大きな数字に変わり、それに合わせるように風は冷たさを増していく。
きっと今日もどこかでバイク乗りが
「ええっ、バイクで来たの!」
という言葉を聞くだろう。
冬のバイク乗りはちょっと変わっているかもしれない。
でも、みんなバイクが好きなのだ。
こんなにも空気の冷たい、冬の寒さよりも。
冬にバイクに乗っていると、あちこちで驚かれます。
本人はいたって普通なのですが、乗らない人から見たらやっぱり変わってるんでしょうね。




