33 太陽を送る
1年の終わりに感じたことを文章にしました。
大晦日の時計はいつもよりも進むのが速い気がする。
朝早くに起きて大掃除の続きをし、足りないものに気がついて買い物に出かけ、年末の人混みに揉まれて戻ってくる。
片付けなければいけない用事と用事の合い間を縫うようにして相棒達を磨き、ふと時計を見れば、針は既に午後3時を回っていた。
「…ねえ、少し出かけてきてもいいかな?」
恐る恐るという感じで訊いた私に、妻が吹き出す。
「良いよ、行きたかったんでしょ。掃除もほぼ片付いたし、夕方までには帰ってくるんでしょ?」
「うん。5時前には戻るよ」
夜は私の実家で年越し蕎麦を食べる予定になっている。出かける前までには、子供達を風呂に入れなければならない。
「子供達のお風呂は気にしなくて良いよ。お休みも短いんだし、少しは息抜きしてきなよ」
「ありがとう。…じゃあ、少しだけ行ってくるね」
「気をつけてね」
妻の気遣いに感謝しながら、ヘルメット片手に駐輪場へと急いだ。
もどかしげにカバーを外し、チェーンロックを解除して90ccの相棒を路上へと連れ出す。
キーを捻ってスタートボタンを押すと、スーパーカブ90スクランブラーは即座に目を覚ました。
暖機運転をしながらネックウォーマーをし、ヘルメットをかぶってグローブを着ける。
シートを跨いだ。
背後から降り注いでくる陽射しは、既に夕陽の色に変わりつつある。
シーソーペダルを踏み込んでアクセルを開いた。
17インチのオフロードタイヤが路面をゆっくりと蹴り出し始める。
12月31日の忙しいクルマの列が伸びる大通りを避け、未舗装の田んぼ道を縫うように進路を選んだ。
ブロックパターンのトレッドがしっかりと砂利の路面を掴み、ザリザリと小石を蹴立ててスーパーカブは加速する。
線路脇を電車とすれ違い、国道の渋滞を横断し、用水路沿いの草の上をゆっくりと流す。
どこか目的地がある訳ではない。
ただ走り回った一年の終わりに、沈んでいく太陽を見送ろうと思ったのだ。
もはや太陽は頭上ではなく、目線とほぼ同じ高さまで降りてきている。
私は用水路沿いの砂利道で相棒を路肩に寄せ、シートから降りた。
スーパーシェルパ、アドレス110、そしてスーパーカブ90スクランブラー。
3台の相棒達と何度もこんな風に太陽を眺めた。
東の空を鮮やかに染めて昇ってくる姿も、西の空から空気までも真っ赤に変えて照らす姿も、何度も、何度も。
月や花や青空よりも、きっとたくさんの太陽を眺めていた気がする。
加速する相棒の背で、草むらに佇む相棒の傍らで、土手の上、コーヒーを手に相棒と並んで。
幾度もその姿を見、胸一杯の満足を貰った。
今年最後の太陽が、田んぼの向こうに今、沈んでいく。
カメラを構え、『ありがとう』と呟きながらシャッターを切った。
レンズの向こうで太陽が、『またな』と笑う。
私も笑った。
またな、ありがとう。
2015年の大晦日はとても良いお天気でした。
こんな風に良い締めくくりになると、物事も気持ち良いですね。




