32 メリー・クリスマス
今年もクリスマスがやってきました。
賑やかなイルミネーションと楽しげな音楽の流れる街はどこか温かい。
そんなお話しです。
クリスマスの歌が街を満たしている。
色とりどりの明かりが瞬き、人々の動きがいつもより忙しない。
路上に復帰して久し振りに走るクリスマスの街は、あまりにも煌びやかで、私にはどこかくすぐったい。
相棒は鼻歌混じりに、気分良くアクセルを操作しながら、明滅する赤や青のライトを眺めていた。
風は相変わらず冷たい。
気化器の調子にも少なからず影響が出る。
それでもキックペダルを使わずにエンジンに火が入れられるのは、私の気合以外のなにものでもない。
まあ、チョークぐらいは使うがな。
それにしても、今夜はスクーターが多い。
2輪や3輪の、大きな箱を付けたスクーターが忙しそうに走っていく。
のんびりとイルミネーションを眺めながら走っている我々とは大違いだ。
信号待ちで隣りに1台のスクーターが止まる。
『やあ、若いの。忙しそうだな』
『まあね。今夜は俺達の、1年で1番忙しい日さ』
『ほう、そうだったのか。私の若かった頃は大晦日が我々スーパーカブの1番忙しくなる日だったがなぁ…』
『はは、岡持ち機を付けたやつだろ。まあ、俺達も似たようなもんさ』
『そうか。大変だろうが、気をつけてな、若いの』
『ああ、ありがとう。先輩も良いクリスマスを!』
信号が青に変わり、赤い服を着た男を背中に乗せたスクーターが加速していく。
私は彼を見送りながら、相棒と共にゆっくりと走り始めた。
良いクリスマスを…‥か。
昔はもっとささやかな感じの行事だった気がするが、変われば変わるものだな。
イルミネーションとかいうのは、デパートや遊園地だけのものだった気がする。それが今では、普通に民家の軒先が電飾で一杯に飾られている。
私のような古いモノにはいまひとつピンとこないが、今はこういうものなのだろう。2ヶ月ほど前にあったハロウィンとかいうのよりはまだ理解できる。
まあ、街が賑やかで楽しげなのは良い。
私自身はあまり騒ぐのが好きな性質ではないが、憂鬱に沈んでいるよりは笑顔のほうが好きだ。
相棒の足どりも軽い。
ポンポンとギアチェンジをし、軽快に交差点を曲がっていく。
きっと、たまに2人乗りで出かけたりしているあの子供達と、楽しいクリスマスを過ごすのだろう。
街には楽しそうなクリスマスの音楽が流れ、大人も子供も皆、笑顔で家路を急ぐ。
我々も通い慣れた道を通り、いつもの駐輪場に帰り着いた。
相棒が、他の2台の仲間が並んでいる駐輪場に私を入れる。
緑色と水色のカラフルな仲間達。
我々はここで静かにクリスマスの夜を過ごすとしよう。
相棒が私にカバーをかける前に、ふと思い出したようにポケットから何かを取り出し、ミラーに結び付けた。
隣りの緑色と水色の仲間にも、それぞれカバーを開けて何かを結び付けている。
「メリー・クリスマス」
相棒は笑顔でそう言うと、「おやすみ」と軽く手を挙げて駐輪場を後にした。
私はバイクカバーの下で、2台の仲間と共にミラーに結ばれて揺れるそれを、笑いながら眺めた。
クリスマスツリー用の小さな飾りが、ユラユラとしながら輝いている。
『メリー・クリスマス』
隣りの水色のスクターが嬉しそうに呟いた。
『メリー・クリスマス』
緑色のオフロードバイクが返事をする。
私も、忙しそうに走り回っていたスクター達を思い出しながら、仲間に呟いた。
『良いクリスマスを』
仲間達と共に過ごすクリスマスも悪くはない。
今日は12月24日。
聖なる夜。
メリー・クリスマス。
相棒達も静かにクリスマスの夜を過ごすと思いますが、せめて彼らにも気分をとクリスマスのオーナメントを付けてみました。
メリークリスマス。
皆にも良いクリスマスが訪れますように。




