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30/48

30 1台と1人

スーパーシェルパを点検に出して、絶好調になって戻ってきました。

それが嬉しくて一気に書いたエピソードです。

 今年もまた冬が来た。

 雪の降る地域では次々とバイク達がシーズンの終わりを迎えて眠りに入り、街にはクリスマスのイルミネーションが灯り始める。

 そんな中で、私はいつもと変わらない朝を相棒と共に迎えている。

『今日はまた一段と冷えるな。気合を入れないと体が動かないぞ』

 そんな私の(つぶや)きが聞こえているのか、相棒が燃料コックを操作してキャブレターにガソリンを送り込む。

『いいぞ、目が覚めてきた』

 アクセルグリップを何回か開き、チョークノブを引く。

 スタートボタンが押された。

 キュキュキュキュキュ、キュキュキュキュキュ

『…すまん。気合が足りなかった』

 エンジンに火を入れられなかった私の言い訳に、相棒が解ってるさとでも言うかのように私の体を揺さぶる。

『よし、もう一度だ』

 もう一度、スタートボタンが押される。

 キュキュキュキュ、キュキュ…‥バッ、ババ、バババババ…

『OKだ、相棒。手間かけてすまないな』

 しかし彼は、何も言わずに私のライムグリーンのタンクをポンと叩くだけだ。

 私―スーパーシェルパと、相棒―牧村尋也は、コンビを組んで2年が過ぎ、ずいぶんと相手のことが解るようになった。

 初めのうちは呼吸が合わずに良く転んだし、お互いにケガもした。

 それでも、この相棒は壊れた私のパーツを交換し、足を引きずりながらも私に(またが)り続けた。

 お互いにただ走ることが好きだった。

 別にスピードを求めている訳ではない。特段、技術を追求している訳でもない。

 ただ自分達のペースで、世界を感じながら走るのが好きなだけの、1台と1人。

 四季折々(しきおりおり)の花を()樹々(きぎ)の色づきに驚き、空を(なが)めては月の輝きに感嘆(かんたん)し、朝陽の色に言葉を失う。

 全ては、1台と1人で走ることによって、より鮮明になった世界でこそ、感じることが出来たモノだ。

 私だけではどこにも行くことは出来ないし、彼だけでも世界はあれほどに色づかない。

 私達は1台と1人で『バイク乗り』なのだ。

 12月の冷たい風の中でも走ることをやめられない、世間から見れば少々変わり者の1台と1人。

 冬に入り、すっかりすれ違うバイクの少なくなった道を、私達は走り続ける。

「さて、そろそろ行こうか…」

 相棒が防寒装備を着け終わって、私の背中を(また)ぐ。

 クラッチレバーを握り、チェンジペダルを踏んでギアを1速に入れる。

『ああ。今日も走ろう』

 私の言葉に(こた)えるようにクラッチを(つな)ぐ。

 ジワリと開いたアクセルに、私が後ろ足でゆっくりと地面を蹴る。

 空気が風に変わった。

 世界が後方に向かって流れていく。

 私達は風の中で世界を受け止め、それを感じる。

 世界を一瞬ごとに(いろど)る為に、走り続ける。

 春を、夏を、秋を、そして冷たく切りつけるような風の吹く冬を。

 今日も1台と1人のバイク乗りは走り出す。

 世界を感じ、その色を鮮やかにする為に。

冬になってもバイクに乗れる。

私は幸せだなとつくづく思います。

これからも1台と1人で走っていきたいですね。

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