26 男の子の背中
少し間があいてしまいましたが、先日の小学校のバザーに行く時のお話しです。
11月に入って風が冷たくなった。季節が大きく一歩進んだのだ。
午前10時。
土曜日にしてはドタバタと忙しい朝が過ぎ、まず妻がPTA役員として小学校へ、次いで娘が友達と連れだって小学校へ出かけて行った。
今日は小学校のバザーなのだ。
家に残ったのは私と、娘ほど友達の多くない息子の2人。
リビングのソファーに座ってテレビを見ている息子の背中は、どこか上の空で、自分もバザーに行きたいのを我慢しているようにも見える。
男の子なんだなと思う。
妻と娘のそれぞれの出掛けに、自分も一緒に行っても良いかと聞いては断られ、
「いいもん、いかないもん!」
と負け惜しみのように言い放ってからまだ30分も経っていない。
その小さな背中の向こう、窓の外の暖かそうな陽射しが目に入った。
私はリビングを出て、自室からSサイズのヘルメットを持ってくる。
「ほら」
「? なに?」
「支度しろ、出かけるぞ」
ヘルメットを渡されて、一瞬キョトンとした息子は疑り深げにこちらの顔色をうかがう。
「どこ行くの?」
「さぁて、どこかな」
意地悪く笑ってやりながら、早くしろと急かす。
息子は首を捻りながらも、渋々と支度を始めた。
10分後、マンションの前でタンデムベルトを着けてヘルメットをかぶった私と息子は、少しだけ季節を巻き戻したかのように暖かな陽射しの下で、空色のスクーターのシートに跨っていた。
「大丈夫か? 行くぞ」
「ねえ、どこへ行くの?」
「ちゃんと掴まってろよ」
息子の意地っ張りな中にも期待の混じる声の問いに答えること無く、私はアクセルを開いた。
アドレス110の2サイクルエンジンがパララと軽い音で応え、2人を乗せたバイクが加速する。
背中越しに息子の気持ちが昂るのを感じた。
「ビューン!」
ルメット越しに届く声。
「楽しいー」
そうだ、つまらない意地なんかどっかへ飛んでいってしまえ。
お前はまだ6歳だ。行きたいところに行きたいって言って良いんだ。
アドレスはすぐに小学校の門をくぐる。
「着いたぞ」
混み合う駐輪スペースの隅にスクーターを停めて、息子を振り返る。
「バザー?」
「そうだ。掘り出し物でも探しに行こう」
「…‥」
息子は黙って考え込んでいる。
すると、
「あー、友貴君だー!」
近くを通った男の子が息子に気づいて声を上げる。
息子は照れくさそうにそちらに手を振ってから私を見る。
「いいぞ、行ってこい」
「うん!」
タンデムベルトとヘルメットを外してやり、送り出した。
息子は声を上げた男の子の方に走っていく。
「友貴君バイクで来たの? スゲー!」
男の子の声にちょっと息子の背中が誇らしげだ。
私もその背中を眺めながら、自分の背後にたたずむ空色のスクーターを振り返った。
ありがとうな。
息子にもちゃんと友達はいる。
まだ1年生の息子は、こういう時の約束のしかたが下手なだけなのだ。
母や姉に断られて意地になっていた、つまらない気持ちはほんのわずかな時間で、私の相棒が吹き飛ばしてくれた。
せっかくの暖かな土曜日だ。ちゃんと楽しまなきゃ、もったいない。
友達と共に輪投げのコーナーに走っていく小さな背中を見送りながら、私は相棒のシートをポンと軽く叩いた。
お前のおかげで良い土曜日になりそうだ。
このあと、お昼までバザーの会場で、遊んだりフランクフルトをつまんだりしながら楽しみました。
お友達はお昼でお母さんのところに行ってしまったので、私と息子はアドレスでお散歩に。その時の話はまた後日。




