23 流れゆくモノを想う
先日、道の駅しもつけに行った際の記録と感じたことを文章にしたエピソードです。
朝陽に照らされたうろこ雲が金色に輝いている。
庭先へ出てみると朝の空気はヒンヤリと冷たく、気持ちが引き締まるようで清々しい。
昨日は朝から雨模様で、私も気分を同じ様ようにどんよりと曇らせたまま過ごした。
今朝は既に首を上げる高さまで昇った太陽を眺め、気分の良いスタートだ。
時計を見ると午前6時40分。
私にしてはゆっくりとした朝…‥といえば聞こえは良いが、寝坊をしたというのが実際だ。秋の夜長だからと昨日遅くまで本を読みすぎた。
のんびりと顔を洗い、ヒゲを剃り、着替えをしてリビングで新聞をめくる。
しばらくして、少し遅れて起きてきた妻がリビングにいる私を見つけて驚いた顔をする。
「おはよう。…出かけるんじゃなかったの?」
私は新聞をたたんで立ち上がり、
「これから。昼までには戻るよ」
と返す。
「気をつけてね。朝ご飯は?」
「ありがとう。外で食べるから大丈夫だよ」
欠伸を噛み殺している妻に手を振ってジャケットに袖を通し、ヘルメットとグローブを掴む。
「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
妻の眠そうな声を背中に聞きながら家を出た。
空が青い。
私は駐輪場からスーパーシェルパを引っ張り出し、暖機運転を始める。
起き抜けで庭に出た時にも感じたことだが、随分と空気が冷たくなった。相棒のエンジンが寝起きを悪くするほどではないが、ジャケットのインナーは付けるべきか?
一応、インナーはリアボックスに入れてはあるが、陽射しは柔らかく、風は無い。
「寒かったらその時に付ければいいか…」
私は遅いスタートに気が急いだのか、それで片付けてシートに跨った。
ギアを1速に入れて走り出す。
ジーンズは冬用の防風ジーンズを履いていたので、風を受けても下半身は快適だった。
上半身は、やはり風が冷たい…‥というよりも、寒い。
早々に「失敗した」と思った。
走り始めて10分と経たずにこれだ。目的地まではまだ1時間近くかかる。
「ダメだ」
私は諦めてコンビニの駐車場にバイクを乗り入れ、リアボックスからジャケットのインナーを取り出して付けた。
インナーを付けるとジャケットが膨れるので嫌だったのだが、寒いのを我慢してもしょうがない。
「ああ、こりゃ快適だ」
ちょっとポッテリとしたジャケットに袖を通しなおして走り始めると、すぐに違いが解った。と同時に、もうそんな季節なんだなとちょっと寂しくなる。
10月も半ばとなり、秋も深い。バイク乗りのハイ・シーズンもあと1ヶ月くらいだろうか。
1年中バイクに乗る私にはそれほど関係ないが、路上からバイクが減っていくのは寂しいものだ。
そんなことを考えながら、田んぼと畑と雑木林ばかりの景色をバイクで加速していく。
都市部を離れると関東平野の風景はどこもこんなものだ。しかもクルマが少ないせいか流れも速い。どのクルマも県道を70km近い速度で巡航していく。
キャベツ畑、雑木林、稲刈りのすんだ田んぼ、と1時間ほど変わり映えのしないロケーションが繰り返し、ようやく目的地が畑の向こうに見えてくる。
道の駅しもつけ。
ライムグリーンの車体を大きくバンクさせて広い駐車場に入り、2輪専用のスペースに駐車した。
時計の針はちょうど9時。
祝日の今日はクルマもバイクも多い。
私はヘルメットを脱ぐと、開いたばかりの売店へと向かった。
「さて、朝めしは何にするか…」
店内では出来たての弁当や惣菜が並べられており、ベーカリーではパンの焼けるいい匂いがする。
私は思案しながら一回りし、結局、軽食コーナーで温かい蕎麦を注文した。
思った以上に体が冷えていたようで、しばらくして出てきた蕎麦を啜るとすこぶる旨い。
「この前までは冷たいものが欲しくてしょうがなかったのにな…」
空になったどんぶりを眺めながらしみじみと呟いた。
左腕の時計を見る。
9時35分。
帰らなければいけない時間まではまだ余裕がある。
私は大した用も無く道の駅をぶらぶらと歩いた。
売店をのんびりと回り、思いついて妻に甘い物をお土産に買い、遊具にもなっているシンボルのような高い塔をボンヤリと眺める。
道の駅には次々とバイクやクルマが入ってきては出て行く。
暖かな陽射しの下で、私だけが自分の相棒のそばでそれを眺めながらここに留まっている。
まるで岸辺から水面を眺めているかのような不思議な感覚だ。
いつの間にか時計が10時を指していた。
うーんと大きく伸びをする。
「そろそろ行くかな」
呟いてから、ふと思い出して道の駅の店内に戻り、ジェラートを買う。相棒のかたわらに戻ってパクリと一口スプーンで口に入れた。
「うん! 旨いなコレ!」
思わず唸った。
旨いと聞いてはいたが、実際には聞いていた以上だった。
パクパクと口に運び、カップで注文したジェラートがあっという間に減っていく。
冷たいジェラートを屋外でこんな風に気持ち良く食べられるのも、もうわずかかもしれない。
もう秋も半ばを過ぎ、次の季節はこの陽射しの向こう側で出番を待っている。
私はジェラートを食べ終わるとカップをゴミ箱に放り込み、相棒に跨ってエンジンをかけた。
さて、帰るとするか。
季節が徐々に変わっていくように、私の休日もそろそろライダーから父親に変わる時間のようだ。
クラッチを繋ぎ、スパーシェルパを目の前の流れの中に解き放つ。
クルマが、バイクが、秋の陽射しの中を加速していく。
それぞれが、それぞれの移ろう時間の流れの中へ…‥
時間や季節の流れって早いですね。
今、この時間を大切に、しっかりと感じながら走っていきたいものです。




