15 田んぼ道
夏休みが終わったら急に涼しくなって、秋が始まりましたね。
今回は秋の風景をテーマにして書いてみました。
夏休みが終わった。
暦は葉月から長月へと移り、季節は夏から秋へ。
沿道の田んぼではあちこちで稲刈りが始まり、渡ってくる風に稲藁の匂いが混じる。
夏が終わったんだと改めて感じた。
私は跨っていたスーパーカブ90のアクセルを心持ち緩める。
田んぼの中を通る田舎道を走るのが好きだった。
春の水が入ったばかりの田植えを待つ田んぼも、夏の青々と稲が葉を広げる田んぼも、金色の稲穂に覆われた秋の田んぼも、霜が降りて白く染まった冬の静かな田んぼも、それらを眺めながら走るのが、私はとても好きだ。
つくづく農家の人間だよなと思う。
子供の頃から見続けてきた毎年繰り返す景色。
スーパーカブはこの風景に最も合う乗り物だと思う。
ここを走る時はアクセルを緩め、抑えたエンジン音と柔らかな風に包まれていたい。
海も良い、山も良い、川も湖もそこそれぞれの空気があり、そこに立つと自然の中のちっぽけな自分を改めて認識し、感動する。
でも私にとってはそんな大きな自然よりも、この見渡す限りの田んぼこそが、自分の内面と向き合える原点なのだ。
子供の頃から毎日目にし、常に生活の中にあった私の中の原風景。
ふるさとと表現するのは陳腐だが、確かにそこには郷愁のようなものと、包み込むような優しさがある。
眺めが良い訳ではないが、見晴らしはすこぶる良い。
遥か遠くまで広がる田んぼと畑の中をゆっくりと走っていく。
ここで感じる四季は穏やかで、季節ごとに違う匂いの風が吹く。
スーパーシェルパでこの見通しの良い道を加速するのも良いが、スーパーカブでゆっくりと、静かに走る時、季節はよりはっきりとした輪郭とそれぞれの香りを持って現れる。
稲刈りの済んだ田んぼでは虫が跳ね、鳥達がそれをついばみ、片隅に積まれた籾殻を燃やす煙が静かに立ち上る。
秋の景色だ。
もうしばらくすると赤とんぼが夕暮れの空を飛び交い、その上を鳥達が巣へと帰っていく姿が見られるだろう。
トトトト…とカブの控えめな排気音がその景色に溶けていく。
静かで、穏やかな時間が流れている。
何をしても良いし、何もしなくても良い。
巡る季節は今日の終わりと明日の訪れを静かに教え、目の前の景色の中で命をも巡らせながら、移ろっていく。
何にも無いし、何もかもが在る場所。
私にとってはそれがこの風景。
心なしか優しげに響く90ccの小さなエンジン音と共に、私もまた今日から明日へと向けて走っていく。
ここは関東平野の真ん中。
見渡す限りの田んぼが、周囲と私の内側とに広がる、その真ん中を走る道…‥。
どうも秋というテーマのせいか、センチメンタルな感じのお話しになってしまいました。
実際はここまで深く考えることはまれですが、田んぼで育った私にはここが最も身近な自然です。
稲刈りを見ると秋だな~としみじみ思いますね。




