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14/48

14 1台と1人を結ぶモノ

アドレスについてのエピソードです。

相棒が増えたことでローテンションの間隔が長くなりがちで、そんな時のことを三人称の視点で…

 彼は灰色のバイクカバーの下でうつらうつらとまどろんでいた。

 1ヶ月前から仲間が1台増え、駐輪場でバイクカバーをまとっているのは、左隣りにいるスーパーシェルパ、右隣りのスーパーカブ90、そして彼、アドレス110の3台になった。

 仲間が増えたのはとても嬉しかったのだが、それによって各々の走る時間が減ってしまったのは、必然ではあるものの少し残念だった。

 このところ天気が悪かったり、相棒が家族で旅行に出かけてしまっていたりで、前回走ってからもう結構時間が経ってしまっている。

 どのくらいこうしているだろう。

 うつらうつらとまどろみながら、彼は夢の中で日数を数え始めた。

 この前走った時は確か土曜日だったから……

 日曜日、月曜日、火曜日…‥水、木、金曜日、その次の土曜日と日曜日は3台みんながここにいたし…‥

 月、火、水、木…‥明日で2週間になるのかな?

 ボンヤリと『そろそろ走りたいな』と呟いてみる。

 夢の中では声も出ない。

 彼は少し(さび)しい気分になった。

 すぐ隣りに2台の仲間もいるというのに、こんな風に感じるのは贅沢(ぜいたく)なのかな?

 ここに来る前はエンジンすら動かすこともなく、お店の隅で道路を(なが)めるだけだったのにね…

『…ぅわ!?』

 考え事をしている最中(さいちゅう)に急に目の前が明るくなり、彼は驚いて変な声を上げた。

 バイクカバーを外した相棒が、首を(かし)げながら彼を(のぞ)き込んでいる。

「変な音がしたと思ったけど…‥気のせいかな?」

 (つぶや)いてバイクカバーをたたみ始めた。

 彼はちょっとドキドキしながらふうと小さく息を吐いた。

 ああ、ビックリした。

 チェーンロックを外してもらいながら、体を()さぶる。

 マンションの(かど)にある広場まで相棒と一緒に歩いた。

 広場でセンタースタンドを立ててリアタイヤを持ち上げる。

「さてと…」

 相棒がキーを捻り、スタートボタンを押した。

 ヒュギュギュギュギュッ、ヒキュキュキュキュッ…‥

 彼はセルモーターを一生懸命に回したが、エンジンに火が入らない。

「ああ、やっぱりダメか…」

 相棒の(つぶや)きに彼はビクッとした。

 頑張るから(あきら)めないで!と叫びたくなる。

 しかし相棒は(あわ)てるでもなく、エンジン脇にあるキックペダルを「よっこらしょ」と引き出した。

『あれ?』

 彼はスタートボタンを押してエンジンがかからなかったから、もうダメだと思っていた。

 相棒はキックペダルをトントンと軽く踏みながら手応えを確かめている。

「こんなもんかな?」

 (つぶや)いて一気にペダルを蹴り下ろす。

 トゥルルルルゥン…

 エンジンを動かそうとシリンダーの中でピストンを震わせた。

 でもまだ火は入らない。

 彼はどうしようかと思ったが、相棒は先程と同じようにキックペダルの手応えを確かめながら、黙々とペダルを蹴り下げ続ける。

 トゥススススン…、トゥトスススン…、トゥルトゥトゥスン…

 彼はハラハラしながら、相棒がペダルを蹴り下ろす回数を数えていた。

『もうすぐ30回だ…』

 トゥルトゥトゥトゥトゥ……スン

『ああ、()しい!』

 自分のエンジンなのにこんなに始動できないなんて、と彼は自分自身が歯痒(はがゆ)かった。

 相棒のほうはというと、

「ふう。もう少しかな」

といたって落ち着いている。一度キーをOFFに戻し、大きく伸びをした。

 よし、と再びキーを(ひね)り、とりあえず…‥とスタートボタンを押す。

 キキュキュキュキュキュキュ、バ、ババ、パ…パ、パパパパパパパ…‥

『やったぁ!』

「かかったぁ…‥」

 彼らは同時に声を吐き出し、大きく息をついた。

 マフラーから白い煙がポ、ポ、ポ、ポとオイルの匂いと一緒に噴き出してくる。

 相棒はその煙りを(なが)めながら、アクセルを調節する。

 彼も止まってしまいそうなエンジンを一生懸命動かして、タイヤを回す。

「悪かったな、しばらく乗ってやらなくて」

 排気煙を(なが)めていた相棒が呟くように口にした。

 その言葉に彼は一生懸命にタイヤを回して応えた。

『大丈夫さ、僕こそすぐにエンジンを動かせなくてゴメンね』

 もちろんその声は相棒には聞こえない。

 それでも、どうやら気持ちは届いたようだ。

「良かったよ。この程度で動いてくれて」

 相棒が照れくさそうに後ろ頭を()いて笑う。

 彼も楽しそうにポポポと白い煙を吐く。

 1台と1人はただ走れることが嬉しかった。

 ヘルメットをかぶってグローブをはめ、センタースタンドを解除する。

 左右を確認して大きくアクセルを開いた。

 2サイクルのエンジンがパパパパと軽やかな声を上げ、オイル混じりの白煙と共に相棒のヒィャッホーと楽しそうな声が尾を引いて伸びる。

 彼は駐輪場に並ぶ3台の中の1台。

 走るのは週に1回か2回程度。

 それでも、相棒とは良いコンビだ。

 1台と1人は、信頼と走る喜びで結ばれている。

 走り去った後に(ただよ)う煙と残響がそれを証明してくれていた。

どうしても乗る間隔があくとエンジンがかかりにくくなってしまいます。

暑い中、キックペダルを何度も蹴り、汗だくになりながら後悔する。

普段からキチンとかまってあげなきゃいけませんよね。

反省です。

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