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12 夏の朝を楽しむ

夏のバイクについてのエピソードです。

 諸君(しょくん)、夏を楽しんでいるかね?

 私は…‥まあ、この歳にしては結構楽しい思いをさせてもらっているんではないかと思っているよ。

 実は、夏というのは私のような空冷エンジンのオートバイにとっては息苦しい季節でね、エンジンがオーバーヒートを起こしそうになったり、燃料を気化させるためのキャブレターというパーツの中で燃料が気化し過ぎてしまったりするんだ。

 だから、気温の高い真夏の真っ昼間には正直なところあまり走りたくはない。

 それが解っているのかいないのか、その日の相棒は日の出よりも前に駐輪場にやって来た。

 時刻は…‥私には時計がついていないので解らないが、おそらくまだ午前4時にはなっていないだろう。

 そういえば、先週の土曜日も夜明け前にやって来て、ライムグリーンの若いのに乗って出かけていっていたな。

 私は今日もきっとそうなのだろうとのんびりと相棒の行動を(なが)めていた。

「?」

 急に私の体にかけられていたカバーが外された。

 どうしたんだ? 私以外の2台…‥250ccのスーパーシェルパも、110ccのアドレスも、仲間はどちらもカバーを被ったままだ。

 相棒が私のチェーンロックを外す。

「!」

 なんと、私がこの時間から走るのか?

 なんだか…‥まるでプレス・カブ(新聞配達用のスーパーカブ)にでもなったような気分だな。

 相棒は私を駐輪場から引き出すと、マンションの敷地から離れた場所までエンジンをかけずに押して行く。

 90ccとはいえ、スーパーカブのエンジン音程度ではそこまで騒音を心配することも無いのだが、まあ、時間が時間だ、気を遣って遣い過ぎということも無いだろう。

 マンションの敷地を出て、あまり民家の無い線路脇まで来たところでようやく相棒がセルボタンを押した。

 ヒュキュキュキュ、バワンッ、タタタタタタ…‥

 私のエンジンはすぐに規則正しい鼓動を刻み始める。

 相棒が左グリップについたスイッチを操作し、私は四角いヘッドライトを点灯させる。

 さて、準備は出来たぞ。どこに行こうというんだ? 今ならオーバーヒートの心配もいらないぞ。

 相棒がヘルメットをかぶり、シートを(また)ぐ。

 アクセルを開いた。

 私はまだ薄暗い夜明け前の路上を加速する。

 すれ違うクルマはほとんどいない。

 背中では相棒が鼻歌混じりでハンドルを(にぎ)っている。

 行き先がどこなのかはよく解らない。

 一度コンビニへ買い物によっただけで、走り出したらまた鼻歌混じりで暗い県道をひた走る。

 私のタイヤやマフラーをこんな風にしてくれた、おかしなことを考えるヤツだ。

 今日も何か考えがあるのだろう。

 私は背中の相棒の鼻歌に合わせて、リズミカルに路面を蹴り続ける。

 すると、しばらくして相棒が東の空に目をやり、右にウィンカーを出した。

 遊水地…‥か? 道路脇に小さな看板が立ててあった。

 田んぼが広がる景色の真ん中で、周囲を小高い堤防に囲まれ、その向こうに何があるのかは外から解らない。

 私達はゲートの脇を抜け、ベンチのある広場のような高台に乗り入れる。

 するとようやく、まだ暗い水面が目に入った。

 広場からは水面とその周りに広がる広い草地が見渡せた。堤防に沿って草地に降りるスロープも伸びている。

 広場の端まで進んだ。

 スロープのほかに広場の正面から階段が伸びている。

 相棒は階段の手前に私を停め、エンジンを切った。

 三脚を取り出してカメラのセットを始める。

 東の空が白くなってきたな…

 相棒はのんびりと階段の中ほどに腰を下ろし、コンビニで買ってきた缶コーヒーを開けている。

 グイとコーヒーを一口飲んで、「さて」とファインダーを(のぞ)き込んだ。

 カメラは私とその後ろの東の空へと向けられている。

 ピピッと電子音が鳴ってシャッターがおりた。

 写真を撮られるのはどうも慣れない。脇の辺りがこそばゆい感じがする。

 それでも、相棒は何度もシャッターを切る。

 おいおい、何枚撮るつもりだ?

 と、不意に背中から陽が射した。

 おお…‥

 東の空に目を向けると、ちょうど太陽が顔を出したところだった。

 射し込んでくる陽の光で空がオレンジ色に染まっていく。

 こんな風に、昇ってゆく朝陽を静かに(なが)めるのは初めての経験だった。

 キレイなものだな。

 私は相棒がシャッターを切っているのも忘れて太陽を(なが)め続けた。

 どのくらいそうしていただろう。

「こんなもんかな」

 いつの間にか相棒はカメラと三脚を片付けていた。

 コンビニのビニール袋からサンドイッチを取り出す。

 ベンチに腰掛け、嬉しそうにコーヒーとサンドイッチを食べ始める。

「やっぱり、ここで食べる朝メシが1番美味いな」

 相棒が笑う。

 良い笑顔だ。

 私は夜明け前に仲間と相棒がどこに出かけて行っているのか、ようやく理解した。

 息苦しい暑さが始まる前に気持ち良く走り、朝陽を浴びながら朝食を食べる…‥か。

 若造のわりに洒落(しゃれ)たことをするじゃないか。

 夏の太陽がゆっくりと温度を上げながら空へと昇っていく。

 今日もまた、暑い1日が始まるのだ。

 こんな夏も良いもんだな。

 諸君(しょくん)、夏を…‥楽しんでいるかね?

夏はどうしても早朝にバイクに乗ることが増えますね。一番気持ち良い時間だし、道も空いていて気分良く走れます。

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