3話 再会
翌週の土曜日――。
「リカ、どっか行くの?」
朝、時間は8時半。こっそり家を出ようとしたところ、ミカに見つかった。
「いや……ちょっと散歩」
「えぇっ? いつも休みの日は昼まで寝てるリカが?」
「……別にいいだろ」
オレは口ごもった。本当は銀行で金を下ろして、スケボーを買いに行こうとしているなんて。
「ボクも行く! 休日朝の散歩なんて、絶対空気いいじゃん!」
……最悪だ。ミカには嘘がつけないらしい。オレは仕方なくミカが着替えて来るのを待つことにした。
家を出て、まずはコンビニのATMでお金を下ろす。立ち寄ろうとしたところ、ミカが首をかしげた。
「ただの散歩でしょ? なんでお金下ろしてるのさ」
「――お前には説明するか。母さんたちには内緒だぞ?」
オレがそう言うと、ミカは何かを思いついたらしく手を打った。
「あーっ! もしかして本当にスケボー買うの!?」
「まぁな。この間、モモに借りてやったとき、すごく楽しかったから、自分でも練習してみたいと思ってな」
「本当にリカはミーハーだなぁ。まぁ、自分のお小遣いで買うなら文句言わないけどさ」
ミカはそう言うと、アイスが入っているところから氷入りのプラカップを取り出して、レジへ持っていく。セルフサービスのアイスティーを作ると、外に出た。
オレもお金を下ろすと、アイスティーを飲んでいたミカに声をかけた。
「スケボーは、新都心のスポーツショップにあるらしい。そこまで歩くぞ」
「えっ? そこってここから5kmくらいなかったっけ!?」
「朝のお散歩、だろ?」
「うーん……」
オレはそう言って歩き出す。当初、ミカに散歩だと言ったのは嘘じゃない。オレたちはてくてくと5km朝の道を歩いた。到着時間を腕時計で確認すると、ちょうど10時だった。
新都心のショッピングモール。そこにあるスポーツショップへ足を踏み入れると、あった。何種類か、スケボーが置いてある。
「リカはどんな柄のがいいの?」
「ストリート系だな」
「うへぇ、本当にミーハーなんだ……」
「うっせえ」
形から入るのだって悪くないだろ。オレは心の中でつぶやく。
「しかし、値段は様々なんだなぁ」
「初心者なんだから、まずは安いのでいいんじゃない?」
ミカがボードを見ながら言う。オレもボードに目をやる。ストリート系のいい感じのやつ……。値段は2万円くらいだ。
もっと安い2000円くらいのものもあるけど、柄がイマイチ。
「うーん……」
「こんなところでうんこすんなよ」
ボードの前で唸っていると、声をかけられる。オレが顔を上げると、つい先日出会ったモモがいた。
「モモ!」
「……えーと? あぁ、この間のひったくり被害者か。スケボーに何の用だ」
オレは口を閉じた。モモが格好よかったのと、自分もやってみたいと思ってスケボーを買いに来たなんて、ちょっと本人に言うのは恥ずかしい。だけど、ミカがオレの代わりに口を出した。
「俵さんに影響受けてだよ。リカ、結構ミーハーだから」
「ふうん」
モモもオレの隣でスケボーを物色する。オレはふとたずねた。
「新しいの、買うの?」
「いや。でも初心者が初めて買うなら、2000円のでもいいと思う。だけど最初に好きなデザインのやつを買うならよく手入れとかするだろうし、どちらがいいとかはない」
確かにな。オレはミカをチラリと見ると、2万円のボードを手にした。ワンポイントで鷹の羽が描いてあるやつだ。
「ち、ちょっとリカ、本当に2万円の買うの?」
「あぁ。手入れとかもちゃんとするし、長く使うよ」
「ってか、初心者がきちんと買わないといけないのは、ボードではないんだよなぁ……」
「えっ、何?」
「これだよ、これ」
モモが指をさしたのは、ヘルメットだった。
「あと、プロテクターだな」
「お、おぅ……」
確かに正論だ。ボードよりもヘルメット。確かにモモがこの間やっていた技も、転んだら危ない。
オレは6000円のヘルメットを手にすると、スケボーと一緒にレジへ向かおうとした、すんでの所でモモはオレの肩に手をやった。
「ん」
「え?」
モモはオレの前に手を差し出す。意味がわからずに首を傾げると、少々イラついたようにモモが言った。
「先日の報酬。ひったくりからカバンを取り返しただろ。一割くれよ」
「ええっ!」
これって、もしかしてカツアゲ? でも、先日は確かにモモのおかげで助かったけど……。オレたちを見ていたミカがぼそりとつぶやく。
「正義の味方がお金取るの?」
「別に俺は、正義の味方じゃねーし。落とし物だって一割拾い主はもらえるじゃん」
確かにオレたちが被害に遭ったとき、偶然居合わせただけで、カバンを取り返してくれただけだもんな。オレはミカを見た。
「ミカ、財布にいくら入ってた?」
「えぇと……大変申しにくいんだけど……1000円なんだよね。一割だと100円……」
「しゃーねぇな。じゃ、缶ジュースおごってくれよ。それくらいならいいだろ?」
まぁ、缶ジュースくらいならお礼としてごちそうするのはありかな。ミカを見ると、小さくうなづいた。
「よし、じゃあリカ……だっけ? 会計してこい。待ってるから」
「うん」
しかし、いくら初心者でヘルメットが必要とは言え、6000円は痛い。それプラス2万円のスケボーだ。正月でもないのに、約3万の出費はなかなかきついものがある。だけどこれは投資だ。うまく滑れるようになったら、きっとかっこいいから。
レジから戻ると、オレたちは1階の吹き抜けにある自販機の前に来た。モモが選んだのはコーラのペットボトル。缶ジュース以上の金額だが、これくらいはお礼の範囲だ。オレとミカもスポーツドリンクを買った。
「そう言えば、モモは今日、スケボー持ってきてないんだね」
「まあな。スポーツショップに用事があったからな。ウィール……スケボーの車輪を見に来たんだよ」
「へえ」
モモくらい滑れるようになると、車輪とかにも手をかけるんだな。オレは納得しながらスポドリを飲む。
「スケボー、さっそく乗ってみないのか?」
モモがオレに聞く。さっき買ったばかりの2万円のボード。オレは袋の中の箱から取り出すと、恐る恐るスケボーに乗る。
「お、おぅ……すげえ」
「だけど……こんなスケボーがいくらできても、何の得にもならねえんだけどな。金もねぇし」
モモが何気なく悲しそうな表情でつぶやく。その空気を打破したのが、ミカだった。
「お金にならないって……オリンピックに出たら、報酬出るんじゃないの?」
「えっ?」
オレとモモはミカを見つめた。




