2話 いいじゃん
「どけ」
それは風とともにオレの横を一瞬で流れていった。オレが肩で息をしていると、脇を通っていったスケートボードが前を走っていたスクーターに追いついた。
「ほっ!」
スケボーはジャンプして、スクーターに体当たりした。
「なっ……大丈夫か、あれ」
ミカと一緒にいるオレは、スケボーをぶつけられて横にコケたひったくりたちを気にする。フルフェイスのヘルメットをかぶっているといい、危なすぎる。
「大丈夫じゃないよっ!」
ミカが悲鳴のような声を上げる。横にコケたひったくりたちが、階段のほうへ吹っ飛んだ。すると、演劇でよくあるような階段落ちをする。
「……ちっ」
スケボーの男は、再びスケボーを手にすると、階段の下へとジャンプする。下につくまで段の上で、スケボー板は回転した。
飛び降りると、倒れていたひったくり犯たちに声をかけた。
「おい、大丈夫か」
「う……」
うめき声がする。
追いついたオレらに気がつくと、スケボー男はミカにカバンを寄こした。
「ん。お前んだろ」
「あ、ありがとうございます……」
オレはスケボー男の顔をじっと見た。年齢的にはオレたちよりちょっと年上だろうか。
「じゃ」
「あ、ちょっと……!」
オレたちやひったくり犯を置いて、スケボー男は滑り出した。しかし――
「あっ、こら! またスケボーしとるんかっ! ここはスケボー禁止だって何回言ったらわかるんだ!」
「げっ……」
スケボー男に、見回りをしていたらしい警備員さんが話しかけてくる。
「って……スクーターがコケてるじゃないか! 事故か?」
「い、いや……」
スケボー男が困っている。オレはミカと一緒にふたりに声をかける。
「あの、オレたち、ひったくりに遭ったんです! それを助けてもらって」
「そうです! スケボーの人がそれを捕まえてくれて……」
「だけど、スクーターがコケて、人が階段落ちするのは危ないな。……おい、大丈夫か?」
「っ! 覚えてろよ!」
「あっ、君!」
警備員さんが止めるにも関わらず、スクーター男たちはスクーターに乗って、その場から逃げて行ってしまった。
「君たちは怪我はないんだな?」
「はい」
「……とりあえず、ナンバープレートなんですけど、通報してくれますか?」
スケボー男が警備員さんに、ひったくり犯のスクーターのナンバープレートを告げる。すると警備員さんは、軽くスケボー男にデコピンした。
「なっ……!」
「これは、無茶して事故った分。あと、車道をスケボーで走るな。わかったな?」
「ヘ~い」
それだけ告げると、警備員さんはひったくり犯の通報をするためか、その場を離れる。するとスケボー男は注意されたばかりだと言うのに、広場でスケボーし始めた。
まずは平坦な場所で、ジャンプ。何回か飛ぶと、今度はジャンプ中に板を回転する。オレとミカは、その様子を何気なく見ていた。
「……リカ、ボクらも帰る?」
「いや……」
ミカに聞かれるが、オレはスケボー男から目が離せなくなっていた。
スケボー男は階段を上ると、手すりに向かってジャンプする。手すりに板を滑らせて、地面へ。器用なものだ、と見惚れてしまう。
オレがじっと見ていたら、スケボー男が声をかけた。
「……見られてると、やりづらいんだけど」
「あっ、すんません」
「いいけど……やってみる?」
「えっ」
突然の申し出に、オレはつい目を輝かせた。ミカが肘をオレの胸に当てる。
「リカ、さっさと帰ろうよ」
「いや、ちょっとだけ……」
「ほら。壊すなよ」
スケボー男にスケボーを借りると、オレは平面な地面を足で蹴った。両足をボードに乗せるとすっと動く。……うん、上出来だ。
うまくいったので、今度はジャンプして板を回転させる技に挑戦する。だが、こちらは失敗して、転びそうになった。
「ってぇ……。うまく行かなかった」
「そりゃ、スケボー初めてなやつに成功されたくねーよ。運動神経はいいみたいだけどな」
「まぁね、あはは……」
苦笑いすると、ミカが腕時計を見せた。もう21時過ぎ。あまり遅くなると補導される時間だ。
「……お前ら、名前は?」
スケボー男に聞かれて、オレは答えた。
「葉羽リカ。こっちは妹のミカ」
「俺は俵モモ。ひったくりには気をつけろよ」
モモ……ずいぶんかわいい名前だな。そう思ったけど、口には出さなかった。
モモはオレたちに手を挙げると、またスケボーで走り去って行ってしまった。
「……ったく、リカ! なに勝手に自己紹介してるんだよ!」
「ひったくり犯捕まえてくれたんだから、悪いやつじゃねえだろ? お前も感謝しろよ」
「うーん、まぁそうだけど……」
オレとミカは、ふたりで話ながら帰路に着くことにした。オレは帰り道、密かにドキドキしていた。モモに借りてチャレンジしたスケボー。もちろんうまくは行かなかったけど、モモはひったくり犯を捕まえたり、格好よかった。
オレも練習したら、格好よくスケボーを乗りこなせるようになるだろうか? オレがほくほくしていると、ミカが呆れたように言った。
「リカ~? いくら俵さんがかっこよくても、そんな簡単にスケボーなんてうまくならないからね?」
「わかってるって。ところでスケボーっていくらくらいだ?」
オレが聞くと、ミカは噴き出した。
「ぶっ! ちょっとリカ、本当にやる気? ミーハーじゃん!」
ミカにバカにされるが、関係ない。ちょこっと乗っただけだが、スケボーは面白そうだと思ったのだ。
「モモみたいに乗りこなせたら、学校に登校するときとか時間短縮できるじゃん?」
「学校はスケボー登校禁止でしょうよ……」
ミカが呆れる。
「オレは、将来に渡って、ぬるま湯のような中で楽に生きていきたいの!」
「あのねぇ……。今日の進路指導、進川にそれ、言ってないだろうね?」
ミカに心配されるが、そんなに楽にダラダラ生きるのは悪いことだろうか。人生は長いんだ。だから、やりたいことにのんびりとチャレンジして生きてもいいじゃないか。
オレはミカに言った。
「お前、弁護士志望だって? まだオレたちは中学生なんだから、もっとのびのびさぁ……」
「いいじゃん。それよりリカが将来のことを考えていないのが悪いんだって」
結局何を言ってもミカには勝てそうもない。清んだ冷たい夜の道、オレはスケボーの高揚感に包まれていた。




