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聖女を殺した嘘つきたち。  作者: 荻原もも


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8/9

8p.愚者の懺悔


 久しぶりに出勤した私宛てに上から通告が下された。



『容疑者らの自白により事件は解決とみなす。

 以降、本件に関する一切の追加捜査および詮索せんさくを禁じる』



 つまり、この件に対してこれ以上、首を突っ込むなという意味である。

 私は通告書を見つめ続けた。そうすることで羅列された文字が変わるなんてことはない。ただただ、寂寥せきりょう感にかられた。

 予想はついていたことだ。ダイアナさまが「決心がついた」と呟いた時から、こうなることなど。


「お前は意味もなく、深く関わりすぎたんだ」


 そう言ってオリバー先輩は、ため息をついた。

 一人残された私は通告書を握りしめた。こんなもので私の好奇心は抑えれるわけがない。調べれば、調べるほどに不可解なこの件を〝解決済み〟になどしてたまるものか。

 改めて、事件解決に向けて捜査を続けるために、私は資料室へと向かった。今件は第一級極秘資料に該当するが、私は過去の功績から特例として警部という立場だが閲覧が許されている。少女たちが二回目の尋問を受けた際のやりとり、私が休んでいる間の動きを確認しようとした。


 けれど、それは叶わなかった。

 資料室へと向かう廊下で、部下に呼び止められた。なにか緊急の用件でもあるのかと問いかけると、思いもよらない返答が戻ってきた。

 メアリーが襲われた。顔を隠した男——声や体格から判断して——に腕を引っ張られて、殴られそうになったらしい。人通りが多い街中だったので、大事には至らなかったが娘はひどく怯えてしまった。

 この件を皮切りに私たち家族を付け狙う者が多数現れた。私が出勤し、仕事を終えて帰宅する最中に背後からつけられたり、買い物中の妻に不審な男が接触したり。

 不思議と、奴らは私たちに直接的な害は与えなかった。おそらく、私への警告だろう。通告書のみでは指示に従わないと踏んだ誰かが〝いつでも殺せる〟と私に知らせるために。


 私は、この件には今後一切、関わらないことに決めた。自分のみならともかく、家族まで危険が及ぶのは耐え難い。




 ※




 久しぶりに日記を手に取った。

 表紙はくすみ、インクも色褪せ、安いインクを使った弊害か、ページ同士がくっついてしまい剥がすのに苦労した。否応なしにも二十年という年月を思い知らされた。

 二十年。その間にはいろいろなことがあった。大司教アイザックさまが自死したのとほぼ同時期に新しい聖女が誕生した。まだ年若い聖女の後継人としてダイアナさまが選ばれ、新たな大司教として教会に従事することとなった。国王は崩御ほうぎょなされて、代わりに皇太子であるクロードさまが即位なされた。世界各国の王族及び重鎮を招いて執り行われた即位式は実に荘厳で盛大であった。クローディアさまは王家に戻られてからは、体調を崩されたらしく一度も表舞台には立たなかった。それは兄君の即位式ですら、欠席なされたほどに。

 メアリーが結婚したのも大きなニュースのひとつだ。相手の男は娘の明るく、自分の意見を言うところが気に入ったと言っていた。絵に描いたような好青年で、実直なところが気に入っている。彼がいればメアリーは幸せになるに違いない。

 こうして書き出せば、本当にあの日からずいぶんな年月が経過していた。私自身も大きなニュースがある。医師から余命宣告を受けた。膵臓に腫瘍があるそうだ。発見が遅く、進行が早いため、現代の医療技術では対処できないらしい。治せるのは聖女さまの癒しの【祝福ギフト】のみだという。

 妻や娘夫婦は教会に重病人として治療を申請すべきだと言ってきたが私は断った。あの話を聞いて、こんな老耄おいぼれのためだけに、未来ある少女が命を削るなどあってはならないことだ。

 私は余生を自然豊かなミアマト山のふもとで過ごすことにした。新たな家へと引越しの準備をしていた時に、この日記を引き出しの奥から見つけた。

 日記を綴ることをやめたあの日から一度たりとも忘れたことはない。

 否、忘れられるわけがない。今も時折、誰かの視線を感じる。おそらく、私が死ぬまで国は監視を続ける気だ。

 その時にこの日記が見つかれば、また家族に危害が及ぶかもしれない。ちょうどいい機会だ。引っ越しを期に処分してしまおうと思った。

 ただ、捨てる前に今一度、文章を読み返すと妙な矛盾点に気がついた。


 あの子たちは誰かに脅されていたわけではない。

 あの子たちがアリスティアさまを殺害してもいない。

 あの子たちは、アリスティアさまの矜持きょうじを守り抜きたかっただけだ。


 その考えに至った理由は、あの子たちが〝聖女〟〝アリスティア〟〝彼女〟と言葉を使い分けていたことだ。私の【祝福ギフト】で真偽不明とでたのは決まって〝彼女〟と言っていた時だけ。その言葉を使うのは、殺害方法の告白だった。

 ベアトリスさまは尋問の席では、真偽判定の【祝福ギフト】持ちを同席させることをご存知だった。署内に連行される前にそのことを仲間内で共有したのだろう。


 その〝彼女〟がアリスティアさまご自身でなければ、私の耳に届く声が震えていたことも説明がつく。

 そして、告白した殺害方法が〝彼女〟に行なったものだとしたら?


 アリスティアさまのお腹に大きく刻まれた傷跡。なにかの代わりに詰め込まれた白薔薇。着せられた聖女としては不釣り合いなウエディングドレス。


 これは憶測の域をでない考えだ。

 ここに書き記すことも、口に出すこと、考えることも罪となる。



 もし、もしもだ。アリスティアさまのお腹に



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