十杯目
コンコン。
「……母さん、少しいい?」
ドア越しに声をかけると、少し間があって――
ガチャ。
「弥彦?どうしたの?」
不思議そうな顔で、母さんがドアを開けた。
母さんの部屋に入るなんて、いつ以来だろう。
いや……たぶん、初めてだ。
「話したいことがあるんだ」
「……急にどうしたの?」
「大事な話。母さんには、ちゃんと伝えたい」
少しの沈黙のあと――
「……わかったわ。入りなさい」
部屋に通され、向かい合って座る。
「それで、話って?」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
でも――
「……俺、探索者になる」
「……え?」
空気が、止まった。
「どうして急に……?」
当然の反応だ。
俺はゆっくりと息を吸い――話し始めた。
「実は……」
職業が変わったこと。
ラーメンでステータスが上がること。
種類で強化内容が変わること。
全部、包み隠さず話した。
「……そんなことが、あるの……?」
母さんは驚きながらも、どこか怯えたような表情をしていた。
「本当だよ」
俺はステータスを表示して見せる。
「……これなら、1000は超えられる」
静かに言う。
「だから俺は、探索者になりたい」
しばらくの沈黙。
そして母さんは、小さく口を開いた。
「……弥彦は、どうして探索者になりたいの?」
「まさか――お父さんの仇を討つため?」
その言葉に、少しだけ胸がざわつく。
「……昔は、そう思ってた」
父さんを殺したモンスター。
あの時の感情は、今でも消えていない。
「でも今は違う」
はっきりと、言い切る。
「純粋に、なりたいんだ」
「この力で、どこまでいけるのか試したい」
「どこまで強くなれるのか――それを考えるだけでワクワクする」
母さんは黙って聞いている。
だから、もう一つだけ言葉を重ねた。
「それに――」
「今まで母さんに苦労かけてきた分、ちゃんと返したい」
「探索者になって、稼いで」
「楽させてやりたい」
「……弥彦」
母さんの声が、少し震えた。
「あなたはもう、十分頑張ってるわ」
「私のことは考えなくていいの」
「自分のやりたいことを、やりなさい」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……ありがとう」
母さんは少しだけ微笑んで――
「でも、一つだけ約束して」
真剣な目で、俺を見る。
「無茶はしないこと」
「必ず――無事に帰ってくること」
「……うん」
強く、頷いた。
「約束する」
その瞬間。
俺の中で、何かがはっきりと決まった。




