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菅原先生の元同級生

Noside


歩行者信号の青が点滅している交差点を、老人が渡っていた。


老人の右手にはスマホ、前に突き出した左手にはキャリーケースの黒い取っ手が握られている。


老人の歩調は実にゆっくりとしたもので、赤ん坊の四つん這いの方が速いのではないかと思われる程だった。


車道の信号が黄色を示した。

右折待ちのトラックの運転手が老人にイラつき、クラクションを鳴らす。


紫を基調としたキャリーケースが、車輪を段差で躓かせ、老人が前のめりに転倒した。

老人が頭から歩道の反射板が貼り付けられたポールに突っ込む…かと思われた。


「ながら歩きは危ないですよ、お婆さん。」


老人は一瞬、何が起きたのか分からなかった。

目の前には、最近色褪せてきた世界にはよく映える、派手なピンク髪の男がいた。目は青いレンズのサングラスで隠されている。


明らかにチンピラ。しかし服装は赤褐色のジャージ。ダサい。


老人は吹き出しそうになったが、そこは長年の経験が押し留めた。


「ありがとうね、お兄さん…すまないねぇ、道に迷ってしまって…八ツ柳総合病院に行きたいんだけれど、道を知らないかい?」


助けてもらった後、相手の反応を待たずに道を聞くという図々しさは、これもまた、長年の経験が誘発させるのだろう。

ピンク髪の青年は、そっと息を吐き出した後、人好きのする笑みを浮かべて、老人にこう返した。


「八ツ柳総合病院ですか…私もこの町に来たのは初めてで分かりません…お力添えになれず、すみません。」


老人は気にするなと言って、またスマホを見ながら、さ迷い始めた。


青年は、その後ろ姿を見て…人好きのする笑みを崩し、代わりにそっと悪ガキの笑みを浮かべた。


青年は、今し方渡ったばかりの交差点を逆向きに渡った。その方向は…


「さて、あきちゃんは元気にやってるかね~?」


菅原秋雨が最近勤務し始めた、中学校の方角だった。



場所は変わっていつもの舞台、夜樺たちの通う中学校。


「…まあ、こんな感じか。」


三年一組では、不可思議能力「影」の使用水準を決めていた。


「いろいろルールができたね…覚えられるかな?」


「大丈夫だろ、常識的な範囲だし。」


細かい所を省けば、ルールの内容は三つだ。


一、一般人に対して平時は使わないこと。


二、日常において、家事をさせる等のある程度の影の自由行動は構わないが、身体的損傷を与える行為を許可しないこと。


三、周囲を頼れず、緊急事態に陥った場合、影を使用すること。


ルールを覚えられるかどうか不安がったのは夜樺である。ルールの内容を覚えられるか以前に、彼はルールを作った記憶さえ保てる自信がなかった。


明含め、十数名の影保有者がルールを纏めた電子機器の液晶を眺める。

大半が、「まあこれなら大丈夫だな」と思った。


数分経って、一限終了のチャイムが流れた。


「あ~、あと一時間で帰れる~!」


「あ、そうじゃん、ラッキー!」


「え?皆今日二時間で帰っちゃうの?」


「そうなんですよ!今日は殆どの人が受験だから…っておわぁぁぁあぁあ!?!?」


いきなり、蓮間が驚きから悲鳴を発した。

教室にいる数少ないクラスメイトが、蓮間のいる教室の中央を睨んだ。と同時に気づく、圧倒的違和感。


「「誰!?」」


ピンク髪に赤褐色のジャージ。青いレンズのサングラスをかけた男は、169cmある蓮間を悠々と見下ろしていた。


「あれ?あきちゃんから紹介されてない?」


あきちゃん、詰まる所、この男は菅原秋雨の知り合いである。


「聞いてねえよ!秋雨先生誰か呼べ!」


「俺行ってくる!」


出水はそう言うと、教室から出て長い足を駆使し、猛ダッシュで各々の教室を覗きに回った。


取り残された面々は、いきなり登場したチンピラ風のダサい男に警戒心を向けていた。

否、二人だけ、全く警戒していなかった。


「い、に、し、だよ。頭文字で覚えよう?」


「さ、が飛ぶのが覚えづらいんだよ…()()って来てるのにいきなり()になるし…」


夜樺にルールを覚えさせようと奮闘する直中と、ルールを覚えられず、液晶とにらめっこする夜樺だった。


「じゃあ、さから始まるルール追加する?」


「緊張感ねぇなお前ら!?」


教室に知らない人物が入っても、夜樺は影を、直中は夜樺をすっかり信頼しているが為に、全く警戒していない。好奇心が湧かない訳ではないが、二人はほぼ無反応を貫いていた。


「むしろ、菅原先生の知り合いなら、玲帑くん辺り何か聞かされてないの?」


「知らねえよそんなピンク髪!」


「悲しいなぁ、私は君のおしめを変えたこともあるのに…」


「!?」


「冗談だよ」


「!!?」


漫才のようなやり取りで、ピンク髪の男は飄々として、玲帑は素直に混乱して、教室の空気を弛緩させていった。


「…シャナー」


呆れたような声が、教室に届いた。二メートル超えの長身の男、菅原秋雨だ。


「あきちゃん!久しぶりー!」


「久しぶりー、じゃない!まず教室ではなく職員室に来い、このバカ!」


「あ、ヒドーい!あきちゃん忙しそうだから、直接教室に向かってあげたのにー。」


「いらんことするな!メールにも書いておいただろーが。」


二人の砕けた空気に、教室の空気が完全に弛緩した。


「…なーんだ、本当にあきちゃんの知り合いだったのか。」


「そうそう、私とあきちゃんはね、元同級生だったんだよ!」


「へー、それじゃ、叔父上と同い年なんですか…」


「一応私、玲帑くんには会ったはずなんだけどなー。」


冗談だろう、と疑わしげな目を玲帑が向けたが、秋雨から衝撃の事実が飛んできた。


「一応、どころかおむつまで変えてたな。」

はい、シャナーさん登場です。秋雨の元同級生で、かなり親しいご様子。今後のキャラ付けが楽しみですね。

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