遠慮無し
「おむつ…?」
菅原くんの頭上に、電子機器の代表的ストレスとも言える、円を描いてくるくると回る模様が見えた気がする。
輝滝さんが目の前でぶんぶん手を振っても、海藤くんが肩を叩いてもなかなか元に戻らないので、後回しにすることにした。
「ていうかシャナー、お前は職員室に来る前に昇降口で上履きに履き替えろ!」
「え!?ここって下足禁止なの!?」
そこ知らなかったんだ…ていうかそれ、下足だったのか!?教師の上履きって下足と見分けがつかないんだよな…
「メールに書いておいただろぉ…!」
菅原先生が、ピンク髪の人…シャナーさんを引き摺って、教室から出ていく。引っ張られた赤褐色のジャージが破けないかが心配だ。
「…何だったんだ、あれ…」
「ああ、高崎くん、お疲れ様。」
どこにいるかも分からない菅原先生を連れてくるのは大変だっただろうに。
「おお、労ってくれてありがと。」
………まさか労って感謝されるとは思っていなかったな…ちょっとむず痒い…
とりあえず、そろそろ菅原くんの処理落ちを直すか。
肩を叩いても相変わらず返事は無いので、少し強めにいこう。
「おしめ…?………あイタッ!?」
菅原くんが、後頭部を片手で抑えて涙目になりながら、こちらを振り向いた。
「正気に戻ったか?」
「元から正気だよ!何も髪の毛引っ張らなくてもいいだろ…」
片手で後頭部を擦っている。余程効いたのだろう。
「だって、チョップは絵面が暴力沙汰に近しい気がして…」
「微妙だよな…仲裁のイメージあるけど一応暴力だし…」
高崎くんが同意した。
「髪の毛引っ張るのは絵面がイジメに近しい気がするんだが!?」
…確かに!?
「今気づいたって顔やめろ!ハッと顔すんな!」
「ごめんね…?」
「いいよぉ…」
許さない気は毛頭無かったというのが、その声音から伝わってきた。優しい…。
「それで?ルール三つ覚えられそう?」
………
「え、ちょっと待って、嘘でしょ?」
「いや、い、に、し、だよね?覚えてるよ?」
「内容は?」
「異常事態、日常、死の危機に瀕した時。」
「冒頭のみ!?しかも日常しか合ってな~い!」
あ、日常は合ってたんだ。
「おさらいだよ!
一、一般人に対して平時は使わないこと。
二、日常において、家事をさせる等のある程度の影の自由行動は構わないが、身体的損傷を与える行為を許可しないこと。
三、周囲を頼れず、緊急事態に陥った場合、影を使用すること。
復唱!」
「………一般人に対して、日常で使わないこと。に…………」
どうしよう、前半に言われたものから頭から抜けていく!
「…ごめんね…」
「いや、大丈夫。分かってはいた。」
もう少し記憶力がどうにかなら無いものだろうか…
菅原 秋雨side
「痛い痛い痛い痛い!あきちゃん!痛いったら!?」
現在昇降口の地面に頭頂部から突っ込んでいるコイツの名前はシャナー·バガン。現在私は、コイツを頭から地面にめり込ませている最中だ。
「暴力反対!」
「なあシャナー、服装は自由だ。そのジャージもセンスはどうかと思うが、まあそこはどうでもいい。問題は…」
「下足で上がった事でしょ!謝るから、謝るからこの体勢やめてぇ…」
…仕方ないな…
「た、助かった…いや、頭に血が上って目が回る…うぇ……」
「おい、模細工沙汰はやめろよ。」
「あきちゃんが逆さまにするからでしょ!?」
昔はよくやってたな…主に喧嘩で。
「やり返して来ない辺り、お前、ちゃんと大人になったんだな…」
「親みたいなこと言わないでくんない!?しみじみしないでよやり返しづらくなるからぁ!」
やり返しづらくしてるんだよ。
「あはは。」
「あははじゃないよまったく…」
「いや、ほんとに…誘ってよかったよ。私一人じゃ、手が回らなかったからな…」
「感謝してよね!」
「感謝してるよ。」
「その割に扱い雑じゃない?」
「そっちの方が絡みやすいだろ?」
あ、目を反らした。
「それにしたって、下足でここまで怒られるとは…あきちゃんそんなに短気だったっけ?」
………
「なんていうかなぁー…」
「え、ちゃんと理由あるの?意外…。」
シャナーがサングラスの奥で、目を真ん丸にかっぴらいているのが分かった。
失礼過ぎだろコイツ…!
「痛い痛い痛い!あきちゃん!アイアンクローやめて!頭蓋骨われるぅ!!」
肌ツヤいいな…
「いや~、相変わらずいいお肌。」
「まさかそれが目当てでやってないよね??アイアンクローやりながら肌ツヤいいな、とかいうのあきちゃんくらいだよ。」
「あはは」
「だから、あははじゃないんだってば!痛いよ!」
手を離せば、シャナーは蹲って両手で頭を包んだ。主に私が指で抑えた所を重点的に。
「まあ、冗談はともかくとして」
「冗談…?」
シャナーが下から胡乱気な目を向けてくるが、気にせず続ける。
「今この学校の生徒から教師に対する信頼はゼロに等しい。」
「そりゃ、教師があれじゃあね…。」
シャナーが遠い目をする。数日前、三年一組の担任だった笹堅から情報を抜いたのはシャナーだ。笹堅から話を聞いている内に、この学校の教師が根本からどこかねじ曲がっていることを察するくらい、造作もなかっただろう。
「それで信頼下げそうな行為に敏感になってるわけだ?」
「そういうことだ。」
そこを察してくれる辺りは優秀なんだけどな…
「というわけで、きちんと次からは上履きに履き替えてくること。分かったか?」
「はーい」
翌日、シャナーが上履きに履き替えて来てくれたはいいものの、チキンを持ってきた。
「…え、何…何で??」
「だって、チキンと次からは上履きに履き替えてって…」
こめかみを拳の尖った骨の部分でグリグリした。
翌日の話を最後に載せているが、次回作はシャナーが学校に来た日から続く。(新月の夜樺くんが書きたいんじゃー!)




