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海風の声48




「準備完了だって」

「おう。並走しながら追い立てる。イーハの印持ちには、もしもの時だけ手を出せと、ちゃんと伝えたんだよな?」

「うん。マーロン艦長は、誰も死なせないって言ってるみたい」

「それが理想だな。はじめよう」


 誰だって、好んで味方を死なせたくはない。軍人となる日の宣誓式と、半年に一度の宣誓式に天秤神官が出席するこの世界では、歪んだ欲望の持ち主が軍に潜り込む事は不可能だ。そしてその宣誓では、死も厭わず戦うと誓う。今がその時でないとは、誰にも言えないはずだ。


「結界で押し出す形で進むよ。フウリ、運転お願い」

「任されたのじゃ」


 子熊が結界に当たり、追われるように走り出す。一頭は前足を引きずっているが、走るのに支障はないようだ。さすがの野性と言うべきだろうか。

 車も動き出す。何も言わずとも、陣の弓隊の邪魔にならない距離を取ってだ。


「さて、どう出るかな。ローグ総帥」

「手堅くて、面白味のない指揮だと思うっす」

「ミスがなけりゃ、満点か」

「千ならば、手足のように操るでしょう。若くしてマレーヌ軍の頂点に立った、この国一番の武人です」

「ワーグがいねえと、ローグ総帥がトップか。あのデカイのも、なかなかやりそうだったがな」

「もしかして、金属製の盾を持ったハゲのおっちゃんっすか?」

「そうだ。知ってんのか?」

「はいっす。有名人っすよ。奥さんもマレーヌ軍の魔法使いにしては強いっす。ただ・・・」


 ワーグの表情が曇る。人格的に問題でもあるのだろうか。


「ただ?」

「新兵時代から、十年以上も軍上層部の批判をしてるっす。イェールおじさんがずっと庇って、何とか軍人でいられたって感じっす」

「その夫婦を使いこなせるかどうかで、新しいマレーヌ軍が見えるな」

「演習に参加してるのが、信じられないっす。マレーヌを守れない訓練には出ないって、どんな訓練にも出てなかったっすから」

「どんな軍人だよ」

「子熊が弓の射程に入ります」


 ジェイクが言うと同時に、凄まじい数の矢が子熊達に降り注いだ。だが、止まらない。

 ハリネズミのようになった子熊は、そのまま大槍衾に突っ込んだ。弾き飛ばされる兵が、空を舞うのが見えた。


「おい、あれ死んでねえか?」

「魔法で庇ってはいる、そう思いたいですね」


 車が陣の入り口に達すると、子熊を遠巻きに取り囲む兵が見えた。


「念話終了。死者はないって」

「そりゃ良かった。おお、出たな金属盾」

「後ろにいるのが奥さんっす」

「あの魔法使いはいい。イーハに連れてったら、印を貰えるんじゃねえかってほどの、腕と覚悟をしてたぞ。張りの良さそうなケツも中々だ」

「カイト、なにか言った?」

「・・・なんでもねえ」

「ガンさんが仕掛けるっす!」


 大男の名前はガンか。覚えておこう。そして良く助けてくれた、ワーグ。今夜は奢るぞ。

 左手に大きな金属盾、右手に樵が使いそうな斧を持って、ガンが間合いを詰めた。

 駈け出した子熊は一頭だけだ。残りの二頭は、見えない何かを必死で叩いて鳴いている。


「結界を使えるのか」

「フウリの紹介で、私とファルが教えたもの。空間魔法もね」

「初耳だ」

「誰かさんが好きそうなお尻だったもの。わざわざ言わないよ」

「そうかい。おお、ありゃ痛そうだ」


 金属盾でぶん殴られた子熊がふらつく。すぐに、首から血が飛んだ。風魔法か。

 ガンが接近して斧を脳天に振り下ろす。二度、三度。それで子熊は、痙攣して動かなくなった。


「こっだな畜生を恐れるでねえ! マレーヌ軍にゃ、我ごそはこの畜生を屠ってみせるっで勇者はおらんのが!」


 ガンが大声で叫ぶ。


「おお、東北人かよ。特務隊にスカウトすっか!」

「東北ないから。ここ異世界でマレーヌだから。なんでテンション上がってんのよ」

「東北人がなんかの神子として、呼ばれたんじゃねえか? 山賊の神とか」

「あれは植林都市訛りっすよ。ガンのおっちゃんはそこの生まれっす。ですよね、フウリ様」

「そうじゃ。生まれた時から知っておる。それに山賊の神とはなんじゃ。バチあたりにもほどがあるぞ」

「冗談だ、許せ。お、一人が名乗り出たな」

「あれじゃ腕が足りないっす」

「知り合いか?」

「親父の補佐をしてた家の末っ子っす」

「プライドだけは、って奴か」

「あんなのを新しいマレーヌ軍に残すんじゃ、ローグ兄貴の器量もたかが知れたっすね」

「すべてに目を行き渡らせるのは無理にしても、そんな目立つのを残すんじゃキツイな。ローグ総帥は悪くねえが、マレーヌ軍を頼りにしすぎるのは禁物だな」


 名乗り出た男を、ガンが素手で殴り飛ばした。男がすっ飛んで、人垣に消える。


「誇りで勝てんだば、子っこでも魔獣狩れるべさ! 小隊でも良がす。やってやるっでのはいねが!」

「もう今がら、あれが将軍で良ぐね?」

「訛りが伝染ってるよ」

「おお、危ない危ない。他国の軍の人事に口出しする気はねえが、あれを小隊長くらいにしかしねえなら、特務隊にスカウトしてマレーヌ軍は見限るか」

「有事に軍を出させないのですか?」

「いや。後詰には使う。安全な場所に限りな」



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