表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/229

海風の声47




 ワーグが突っ掛けた。

 致命傷にはならないとはいえ、高速の連続突きは煩わしいのだろう。熊がそれに乗って腕を振った。余裕を持って、ワーグは下がりながらそれを避ける。

 ワーグが下がった分、ジェイクが前に出た。大剣が浅く腰を突く。すぐに下がって隙のない構え。強くなったなあ。


「手伝いはいらねえ感じか?」

「決め手に欠けているのです。二人では時間がかかりますよ」

「フウリが手伝ったらどうだ?」

「それならば、なんとかなるかと」

「了解。ワーグ、フウリを入れて三人で倒してみせろ!」

「はいっす!」


 車に声の届く辺りまで走った。


「フウリ、二人とあれを倒してみろー」

「おおっ。任せるのじゃ!」


 車が進む。それ以上進んだら止めようと思った場所で、しっかりと止まった。

 ジェイクとワーグのそばまで戻って見守る。もしもの時は、介入するつもりだ。かすり傷ならいいが、大怪我なんてさせたら、自分を許せるとは思わない。

 攻めては引きを繰り返すジェイクとワーグの大剣と槍に、三振りの片手剣が加わる。

 舞うように熊の顔に纏わりつく片手剣。それだけで、グンと隙は増えた。


「ありがたいっ!」


 ジェイクが突っ込む。今までより深い踏み込み。大剣が熊の腹を抉った。


(ペルデさんとエルスは戦闘に混ざっていいのかって)


 右手を上げる。魔法使いとの連携は重要だ。その稽古なら、どれだけやってもやり過ぎはない。

 ワーグが活き活きと駆け回る。足の付根に、腕の付け根に、三連突きを放っては走る。目を狙うのはフウリに任せ、手足の腱を断つのを自分の仕事と決めたらしい。

 ジェイク。剣気を押さえている。まるで戦闘から離脱したような気配だ。いつの間にあんな真似を覚えたんだ。やるじゃねえか。


「おらああっ!」


 ワーグの気合い。飛び込むような踏み込み。速い。一足での五連突き。目標だと言っていたそれを、この強敵相手に決めやがった。

 ワーグに豪腕の鋭すぎる爪が迫る。音まで聞こえるような一撃。

 抑えに抑えた剣気。解き放ったそれは、天まで立ち昇るかのようだ。いけ、ジェイク。


「貰ったっ!」


 ワーグを狙って伸び切った腕に、ジェイクの大剣が吸い込まれた。


「ジェイク、見事であるっ!」


 興奮したフウリの声が聞こえた。熊の目を狙う片手剣は一振り。何故だ。そう思う前に、トゲの付いた大きな鉄球が、空に浮かんでいるのが見えた。子熊より大きい。

 片腕の熊に、その鉄球が落ちて当たった。脳震盪でも起こしたのか、棒立ちでフラフラ体を揺らしている。

 この機を逃す弟達じゃない。ジェイクの大剣が足を薙ぐ。ワーグの連突きは顔面に入った。


「ペルデ、エルス、やるのじゃ!」


 まだ何かあるのか。攻撃魔法は、効かないのだ。何を見せてくれる。

 鉄球の下の地面が盛り上がった。当然、鉄球は転がる。百メートルも転がって、それは止まった。

 何だこりゃ。ジェイクとワーグがたたみ掛ける。片手片足の熊は、ようやく意識を取り戻したのか、そう簡単に大振りの攻撃を貰ってはくれない。


「喰らうのじゃ!」


 熊が地面に落ちた。いや、落とし穴か。だがそれじゃなんのダメージにも。鉄球か!

 ジェットコースターのレールのような岩の道を、鉄球が転がっていた。あれだけの高さから転がってぶつかったら、どれだけの衝撃だと言うんだ。ましてや、トゲの付いた鉄球だぞ。

 轟音を上げて熊に激突した鉄球が、また高く空に浮かんだ。

 ジェイクとワーグが落とし穴の縁で、ザクザクと上から熊を刺している。マンモス狩りの原人かよ。

 二人が弾かれたように落とし穴から離れると、鉄球が落ちてきた。

 それをまた繰り返すと、攻撃の手が止まった。


「お待たせしました、兄上」

「完封勝利っす!」

「おう。なんつうか、不思議な戦闘だったな。お疲れ」


 二人共、苦笑している。勝てばいい。そう思ってはいても、違和感を感じるのは、剣を武器と決めた男のこだわりなんだろうか。


「カイト、見たか! あれぞ、ジェットコースター式メテオクラッシュなのじゃ!」


 おうおう、ホントに嬉しそうにしやがって。


「良くあんなの思いついたなあ。偉えぞ、フウリ」


 刀の手入れをしながら、適当に褒めておく。余計な事を言って、拗ねられると面倒だ。


「カイト、子熊ちゃんはどうするの?」

「ああ、陣に念話してくれ。夜が明けたら子熊を追い込むから、夜明けを持って演習開始」

「やっぱりかあ。かわいそうだけど、仕方ないよね」

「ああ。頼んだぞ」


 手入れを終えて煙管を使うと、草原はもう朝ぼらけの風情となった。時計のないこの世界、何時から戦っていたかはわからないが、それなりの時間だったようだ。

 車の屋根に上がって、明けてゆく空を眺める。


「陣の準備は?」

「もうちょっとだって。それにしても、戦闘中にエルスとファルが交代しても、寝たまんまだってよ、ウイト」

「大物になりそうだな。楽しみじゃねえか」

「そういう問題かなあ」


 この熊がマレーヌ軍に狩れるなら、とりあえずは合格点だ。千の軍で三頭を狩る。馬鹿げた話のようでも、重要な事だ。これを狩れずにマレーヌの街に入れてしまったら、全滅すらありえるのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ