海風の声47
ワーグが突っ掛けた。
致命傷にはならないとはいえ、高速の連続突きは煩わしいのだろう。熊がそれに乗って腕を振った。余裕を持って、ワーグは下がりながらそれを避ける。
ワーグが下がった分、ジェイクが前に出た。大剣が浅く腰を突く。すぐに下がって隙のない構え。強くなったなあ。
「手伝いはいらねえ感じか?」
「決め手に欠けているのです。二人では時間がかかりますよ」
「フウリが手伝ったらどうだ?」
「それならば、なんとかなるかと」
「了解。ワーグ、フウリを入れて三人で倒してみせろ!」
「はいっす!」
車に声の届く辺りまで走った。
「フウリ、二人とあれを倒してみろー」
「おおっ。任せるのじゃ!」
車が進む。それ以上進んだら止めようと思った場所で、しっかりと止まった。
ジェイクとワーグのそばまで戻って見守る。もしもの時は、介入するつもりだ。かすり傷ならいいが、大怪我なんてさせたら、自分を許せるとは思わない。
攻めては引きを繰り返すジェイクとワーグの大剣と槍に、三振りの片手剣が加わる。
舞うように熊の顔に纏わりつく片手剣。それだけで、グンと隙は増えた。
「ありがたいっ!」
ジェイクが突っ込む。今までより深い踏み込み。大剣が熊の腹を抉った。
(ペルデさんとエルスは戦闘に混ざっていいのかって)
右手を上げる。魔法使いとの連携は重要だ。その稽古なら、どれだけやってもやり過ぎはない。
ワーグが活き活きと駆け回る。足の付根に、腕の付け根に、三連突きを放っては走る。目を狙うのはフウリに任せ、手足の腱を断つのを自分の仕事と決めたらしい。
ジェイク。剣気を押さえている。まるで戦闘から離脱したような気配だ。いつの間にあんな真似を覚えたんだ。やるじゃねえか。
「おらああっ!」
ワーグの気合い。飛び込むような踏み込み。速い。一足での五連突き。目標だと言っていたそれを、この強敵相手に決めやがった。
ワーグに豪腕の鋭すぎる爪が迫る。音まで聞こえるような一撃。
抑えに抑えた剣気。解き放ったそれは、天まで立ち昇るかのようだ。いけ、ジェイク。
「貰ったっ!」
ワーグを狙って伸び切った腕に、ジェイクの大剣が吸い込まれた。
「ジェイク、見事であるっ!」
興奮したフウリの声が聞こえた。熊の目を狙う片手剣は一振り。何故だ。そう思う前に、トゲの付いた大きな鉄球が、空に浮かんでいるのが見えた。子熊より大きい。
片腕の熊に、その鉄球が落ちて当たった。脳震盪でも起こしたのか、棒立ちでフラフラ体を揺らしている。
この機を逃す弟達じゃない。ジェイクの大剣が足を薙ぐ。ワーグの連突きは顔面に入った。
「ペルデ、エルス、やるのじゃ!」
まだ何かあるのか。攻撃魔法は、効かないのだ。何を見せてくれる。
鉄球の下の地面が盛り上がった。当然、鉄球は転がる。百メートルも転がって、それは止まった。
何だこりゃ。ジェイクとワーグがたたみ掛ける。片手片足の熊は、ようやく意識を取り戻したのか、そう簡単に大振りの攻撃を貰ってはくれない。
「喰らうのじゃ!」
熊が地面に落ちた。いや、落とし穴か。だがそれじゃなんのダメージにも。鉄球か!
ジェットコースターのレールのような岩の道を、鉄球が転がっていた。あれだけの高さから転がってぶつかったら、どれだけの衝撃だと言うんだ。ましてや、トゲの付いた鉄球だぞ。
轟音を上げて熊に激突した鉄球が、また高く空に浮かんだ。
ジェイクとワーグが落とし穴の縁で、ザクザクと上から熊を刺している。マンモス狩りの原人かよ。
二人が弾かれたように落とし穴から離れると、鉄球が落ちてきた。
それをまた繰り返すと、攻撃の手が止まった。
「お待たせしました、兄上」
「完封勝利っす!」
「おう。なんつうか、不思議な戦闘だったな。お疲れ」
二人共、苦笑している。勝てばいい。そう思ってはいても、違和感を感じるのは、剣を武器と決めた男のこだわりなんだろうか。
「カイト、見たか! あれぞ、ジェットコースター式メテオクラッシュなのじゃ!」
おうおう、ホントに嬉しそうにしやがって。
「良くあんなの思いついたなあ。偉えぞ、フウリ」
刀の手入れをしながら、適当に褒めておく。余計な事を言って、拗ねられると面倒だ。
「カイト、子熊ちゃんはどうするの?」
「ああ、陣に念話してくれ。夜が明けたら子熊を追い込むから、夜明けを持って演習開始」
「やっぱりかあ。かわいそうだけど、仕方ないよね」
「ああ。頼んだぞ」
手入れを終えて煙管を使うと、草原はもう朝ぼらけの風情となった。時計のないこの世界、何時から戦っていたかはわからないが、それなりの時間だったようだ。
車の屋根に上がって、明けてゆく空を眺める。
「陣の準備は?」
「もうちょっとだって。それにしても、戦闘中にエルスとファルが交代しても、寝たまんまだってよ、ウイト」
「大物になりそうだな。楽しみじゃねえか」
「そういう問題かなあ」
この熊がマレーヌ軍に狩れるなら、とりあえずは合格点だ。千の軍で三頭を狩る。馬鹿げた話のようでも、重要な事だ。これを狩れずにマレーヌの街に入れてしまったら、全滅すらありえるのだから。




