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海風の声45




 天幕の入り口の布が擦れる音で目覚めた。


「どうした?」

「魔獣の群れが、警戒線を越えたわ」

「すぐ行く。司令部に集合」

「わかった」


 ウイトを起こさないように、ブーツを履き、大刀と脇差しを腰に差した。


「兄様」

「おう」

「ウイトちゃんのお守りに、エルスを連れてきたっす」

「助かる。エルスさん、申し訳ないが頼む」

「はい。いってらっしゃいませ」

「ワーグも支度してこい。ありがとな」

「はい。急いで行くっす」


 ワーグは軍服こそ着ていたが、槍を持っていない。

 司令部に向かうと、天幕にはサクラとファルがいた。


「悪いな、夜中に」

「ううん。フウリは、車をウイトとエルスの所に回すって」

「それでいい。ファル、群れの種類と場所は?」

「黒い熊です。成体と思われるのが二、幼体が三。成体は、立ち上がったら五メートルはありそうですね。幼体は二メートルほど。真っ直ぐこちらに向かっています。一時間はかからずに接触します」

「兵の準備を急がせてくれ。イーハ軍だけでも、間に合わせたい」

「はい」


 走る靴音。ジェイクとペルデさんだった。すぐにワーグも来た。


「兄上!」

「おう。出番だぜ、兄弟」

「いつでも行けます」

「遅くなりましたっ!」


 飛び込むように入ってきたのは、ローグ総帥とマーロン艦長だ。奥さん二人はいない。ということは、サクラとファルはまだここにいないといけないか。


「西から熊型の魔獣が接近。両親と子供が三。一時間以内に接敵。特務隊が陣を出て迎撃。出入口の魔獣止めにイーハ軍を置きます」

「ならその後ろに弓隊を配置します。特務隊の接敵前に矢の雨を降らせましょうか?」


 うあ。まだ信用できねえんだよなあ、マレーヌ陸軍。


「やめておきましょう。誤射の一つでもあれば、前衛のイーハ軍がそのまま敵にならないとも限りません」


 驚いたローグ総帥が、マーロン艦長を見る。しっかりと頷いたのを見て、なんとか納得してくれたようだ。ため息をこぼしてから、小さくわかりましたと言った。


「フウリは今どこだ?」

「エルスとウイトを乗せたって。こっち来るみたい」

「熊が速度を上げました」

「飢えてやがんのか。車が来たら、すぐに乗り込め。ここの指揮はマーロン。イーハ軍はマレーヌ軍と同盟関係にあるが、下に付いた訳ではない。意味はわかるな?」

「はっ。イーハ軍は我が指揮下にて、成すべきことを成すとお誓い申し上げます」

「それでいい。一秒の迷いが、兵を殺すぞ」


 奥さん二人が到着するのと、重々しい鉄箱車の履帯の音が聞こえたのは同時だった。


「特務隊、出る」

「はっ。ご武運を!」


 敬礼を交わす。腕の一本も失うかもしれない。自分も仲間も。死ぬかもしれない。この場にいる全員が。恥を晒すかもしれない。夜毎、自分を責める恥を。そう思う男の背中を押すのに、敬礼ってのは悪くない。


「早く乗るのじゃ!」


 車の屋根まで、石の階段が伸びている。全員が乗り込むと、車はすぐに動き出した。


「ありがとな、フウリ」

「気にするでない。ウイトはエルスとリビングにおるのじゃ」

「ぐっすり寝てるって。ウイト」

「我が子ながら、図太いよなあ」

「我が子だから、の間違いではないでしょうか」

「違うな。臆病じゃねえと、強くはなれねえ。爺様に、嫌ってほど言われたもんだ」

「ああ。ウイトも台所にピーマンがあると、絶対に台所に来ないもんね。さすが親子」


 それなんか違う。

 突っ込もうか悩んでいると、陣の出口が見えてきた。

 魔獣止めが二つどけられ、何人かが敬礼している。穂先を揃えて前方の闇を睨む兵は、こちらをチラリとも見ようとしない。

 敬礼。力の限り、戦え。だが、死ぬんじゃねえぞ。そんな想いを込めた。


「魔獣は?」

「進路変わらず。このまま進めばぶつかります」

「久しぶりだが、やる事は同じだ。気負うなよ?」


 全員の返事を聞きながら、装備を点検する。

 演習中は陣の中といえど野外。ほとんど装備を解かず寝ていて良かった。

 ジェイクの親父さん達が、一から開発した編み上げ軍用ブーツ。しっかりと紐を結び直した。

 フウリが作ってくれた苦無。バッグに隠したそれは試しに投げると、厚い木の板を貫通した。今日はコイツを使うかもしれない。

 大刀と脇差しは常に手入れを怠らない。

 サクラが出してくれた槍も拵えにほつれなどなく、穂は磨き上げられていた。魔法の明かりを跳ね返す輝きが、心を静めてくれるようだ。


「準備は出来た。そろそろか?」

「もう少しかかりますよ」

「そうか」


 煙管を出して、葉を詰める。ファルが火と灰皿を出してくれた。


「ジェイクとワーグもやれよ。張り詰めすぎだ」

「わかりました」

「はいっす。でもやっぱ、いつもより緊張するっす」

「背後に千の同盟軍がおりますからね。ここを抜かれたらと思うと、某も緊張してますよ」

「気持ちはわかるがな。緊張し過ぎはダメだ。力を出し切れねえぞ」

「はい。作戦はどうするので?」

「魔法と結界が効くかで変わるさ。最悪でも、子供には効くんじゃねえかな。そしたら俺達は親をやる」

「某とワーグで、片親を抑えられれば良いのですが」

「そろそろ見えますよ。匂いや音はこのままで良いのですね?」

「それでいい。さあ、やるか」



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