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海風の声42




 本陣が、二つに割れた。

 生意気な神子をぶちのめしてやろうという兵と、日和見の兵。

 武器を構えた方に、二刀を翳して突っ込んだ。数は、千に少し足りないくらいだろう。


「うわああああっ」


 先頭の男。体を砲弾にして弾き飛ばした。

 地に足をつけて、木刀を振る。周りはすべて敵だ。すでに遠慮はない。死ななければ、それでいい。大男の脛を薙ぐと、骨の折れる手応えがあった。


「痛ええええ! 痛えよおおお!」


 ふざけんな。木刀持って向き合って、痛くねえはずがねえ。

 大男が引き摺られていく。次。


「く、来んなあああ!」

「行かなきゃ斬れねえだろうが」


 袈裟斬り。鎖骨がイッたか。右。左。木刀が届く範囲にいる兵を斬る。

 自然と、俺を取り囲む人の輪が広がった。


「なにしてんだよ。マレーヌ陸軍はゴミじゃねえんだろ? だったらかかって来いや」


 歩くと、人垣が割れた。


「来いっつってんだろうがっ!」


 人垣。腹を蹴り上げた。その左右にいる兵の腕を折る。そのまま進んだ。袈裟斬り。木刀を戻しながら、隣を斬り上げる。小太刀で腹を突いた兵は、反吐をぶちまけながら転がった。


「マトモに木剣を振った奴がいねえじゃねえか! いい加減にしろ、ゴミクズ!」


 人垣を押しのけ、一人が前に出た。構えは、ワーグに少し似ている。だが、圧の欠片もない。強い人間の構えを真似ただけだ。

 二刀を構えもせず、そいつの間合いに踏み込んだ。兵が振りかぶる。遅い。ウイトよりだ。兵の右腕を、小太刀で打った。


「ぎゃあああっ!」

「ブレンがやられた! 俺達じゃ無理だ!」

「俺は逃げるぞ!」

「お、俺もだ!」

「サクラ、結界を張れ! 一人も逃がすな!」

(許してあげなよ。そこの兵隊さんは全員クビだって)


 それが本当なら、感覚を正すために痛い思いをさせる事もない。


「俺を討ち取ろうって兵はいねえのか!」


 叫ぶと、わずかに残っていた兵も逃げた。

 サクラとジェイク、それにノーグ将軍親子が歩いてくる。長男の顔は強張り、ノーグ将軍は哀しそうに見える。


「怪我人はファルが治療してる。カイトは怪我はない?」

「当然だ」

「神子様、申し訳ありません」

「ノーグ将軍。こんな兵達のために、イーハ軍に死ねと言いましたか?」

「・・・はい」

「へえ。いい度胸だなあ、おっさん」

「お待ちください、神子様」

「なんだ、出来のわりい長男」

「ザクスン様が宰相になられた折、陸軍は大幅な軍縮をせよとの命を受けました。ノーグ将軍はその命に従おうとしましたが、それを何とか考えなおしていただき、このような兵を残したのは私です。罰は私にお与えください!」

「罰もクソもねえ。マレーヌ陸軍は、数に入れねえだけだ」


 ノーグ将軍は肩を落とし、ニーグは意味がわからないというように父親を見た。


「ジェイク特務隊長」

「はっ」

「これより、イーハ軍はマレーヌ陸軍など存在しないものとして扱う。後日の野外演習は、海軍の陸戦隊のみが参加だ。関係者に通達しろ」

「はっ」


 走り去るジェイクを追うように歩き出す。サクラが隣に並んだ。


「お待ちください!」

「なんだ。まだ何か?」

「マレーヌ陸軍をそのように扱って、マレーヌを守れるのですか!」

「この千年、マレーヌ陸軍はこの街をどう守ったってんだ?」

「実戦こそありませんが有事に備え、なんですか父上」

「もういい。何も言うな。神子様が正しい」

「何が正しいものですか。陸軍があるからこそ、マレーヌの民は安心して暮らせるのですよ!」

「建て前はいい。神子様は、気づいておられる」

「何にですか!」


 ノーグ将軍が、俯きながら全身に力を込めた。拳は震え、唇からは血が落ちている。


「マレーヌ陸軍が、父祖の威光を笠に高禄を食む集団でしかないという事にだ!」

「そんな事は・・・」

「ある。海軍はイェールが持って生まれた粗暴さで、フウリ様の夢のためにその体質を変えた。そこにローグが加わり、神子様はそれを有用とお認めになられた。だが、陸軍は千年で腐り果て、その醜さを神子様に晒した。陸軍は、もう終わったのだ。時代に、取り残された。そうしたのは、私だ」

「ならどうするというのです! 千年もの間、軍に籍を置き続けた軍人の家は、どうするというのです!」

「有能ならば、海軍主導の新しい軍に入れるであろう。陸の守りも、兵が必要ではあるのだ」

「そんな・・・」

「陸軍から拾ってもらえるのは、千もいればいい方か」


 止めていた足を進める。サクラもだ。


「仕方ないよね」

「魔獣止めなんかを作る訓練は、悪くなかったんだ。それはマレーヌ陸軍が、千年も訓練だけを繰り返してきたからなんだな。痛みを伴わない訓練を」

「痛かったり怖かったりするのは、誰だって嫌だもんね」

「ああ。だが、訓練ですらそれを味わうのが、軍人ってやつなんだと思う」


 ジェイクとワーグ。近づいてくる。


「通達完了しました」

「ご苦労。ワーグ、すまんな」

「いいえ。当然だと思われます。この件を海軍が聞けば、まだまだ悪い体質も変わっていくでしょう。マレーヌにとっては、良い事だと思います」

「それでもさ。すまん」

「感謝しております。元、マレーヌ人として」




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