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海風の声37




「湾内に敵艦隊。こ、これは・・・」

「どうした、続けろ」

「敵輸送艦ニ。小船多数。百ほどかと思われます」

「どの程度の小船だ?」

「漁船から小型ボートまでバラバラです」

「北斗号の引き波に耐えられそうか?」

「全速ならば無理だと思われます」

「盾のつもりか・・・」


 そうくるか。本気だな、ローグさん。

 さあ、どうするマーロン艦長。小船を一隻でも転覆させたら、北斗号の負けとするぞ。


「敵輸送艦に念話を送れ。二艦にだ。北斗号艦長マーロンより、勇猛なるマレーヌ海軍の艦長へ。貴軍の小船では、北斗号の引き波に耐えられぬと判断した。兵の命を盾にする恥知らずな策でないのなら、即刻小船を退避されたし。以上だ」

「了解。念話開始」


 煽って出てきてくれるなら、午前中に終わる。艦影の見えない二艦が湾内の左右ではなく、湾外に埋伏しているなら余裕勝ちだろう。

 湾内に埋伏ならば、殲滅は無理かもしれない。コニャック号一艦でも小船を盾にして動かなければ、正面から撃ち合うしかない。それでは大破判定まで持っていけないだろう。


「念話完了。返信はありません」

「待機するが、いつでも全速で動けるようにしておけ」

「了解。念話完了」


 待つ時間は長く感じるものだ。マーロン艦長は今、それを身をもって実感しているはずだ。


「敵輸送艦に念話。返信無きは人命を盾とする策とお見受けした。イーハ海軍は無駄な犠牲者を出すなら引き分けを選ぶ。両艦長におかれましては獣にも劣る所業の策で引き分け、後世に名を残される事をお慶び申し上げる。以上」

「マレーヌ海軍との関係悪化が予想されますが」

「構わん。責任はこの命で取る」

「・・・お供します。念話開始」


 誰が殺すか。ここまでやってくれる艦長を。


「良い腹の据え方ですな」

「特務隊長ならどうしていた?」

「歯噛みして、敵が動くのを待つしか出来ませぬ」

「意地のために、死ぬ覚悟までするか。頭が切れるだけじゃねえな」

「神子様、お言葉遣いが」

「男が男の決意に心を揺らされてんだ。許せ」

「はっ」


 彼らが生きているうちに、海戦の機会などないかもしれない。それでもマーロン艦長は、命を賭けて海戦演習を望んだ。戦う男の意地と、艦長としての経験を得るための罵倒。誰が何を言っても、俺だけはわかっているぞ。


「敵輸送艦、動きます」

「かかってくれたか。湾を出たら、射程ギリギリを全速で掠める。殲滅するまで休めると思うな!」

「了解。一斉念話終了」


 残り二艦は、これを座して見るのか。最大の敵はコニャック号。いつ出てくる、ローグさん。


「輸送艦、減速。湾を封鎖する位置で停止すると思われます」

「輸送艦の間は?」

「わずかです。輸送艦ならばすり抜けられません」

「北斗号ならいけるか。舵手、晴れ舞台をやるぞ。全速で抜けてみせろ」

「はっ。北斗号に傷の一つもつけず、やってみせます!」

「神子様。北斗号は敵輸送艦の間を全速ですり抜け、速度を落とさず即座に回頭いたします。万が一、何かあれば危険でございます。船室にて演習終了をお待ちくださいませ」

「元より女子供は船室にいる。俺達は気にするな。許されるなら、すり抜けざまに飛び移って斬り込みたいほどだぞ」

「それだけはお止めさせていただきます。全乗員に通達。これより北斗号は敵艦の間を全速ですり抜け、すぐさま返して追撃を与える。神子様が艦橋ですべて見ておられる、訓練の成果をお見せせよ!」

「一斉念話終了。弓隊、魔法隊より念話。いつでも行けます」

「敵艦はどうか?」

「湾入り口、並走状態から停止。風魔法でその位置を保っています。艦と艦の間は北斗号二艦分はありません」

「北斗号の幅より狭くなったら報告せよ。北斗号、全速前進」

「了解。一斉念話、北斗号全速前進!」


 グン、と速度が上がった。木杯に満たした水なら、溢れてしまうだろう。恐怖はない。それどころか、海戦も悪く無いと思いはじめている。


「血が滾っておられるのではありませぬか、神子様」

「特務隊長こそ。自分にも働かせろと目が言っているぞ?」

「正直、羨ましくはあります」

「俺もさ」


 印持ちの風魔法を帆に受け、北斗号は惚れ惚れする速度で駆ける。マレーヌ海軍では、見た事もない速度だろう。覚えておいてもらおうか。いざとなればマレーヌ海軍の軍船に印持ちを乗艦させ、この速度でこの海を行くのだ。

 敵艦との距離の読み上げがはじまっている。


「せめて、弓を射るだけでもいいから加わりてえな」

「ええ。ですが決め事を破るわけにもまいりません。我慢ですな」

「お互いにな。擦れ違うぞ」


 艦橋からも、敵艦が見える距離。さすがに輸送艦は巨大だ。この速度で衝突したなら、北斗号はひとたまりもないだろう。


「距離百で、船首の紙風船に攻撃開始。以後、両舷の弓隊隊長に攻撃のタイミングは任せる」

「了解。一斉念話終了」


 巨大な補給艦と補給艦の間を、北斗号がすり抜けた。


「面舵一杯。速度を落とさずやってみせろ」

「はっ。面舵一杯!」

「損害報告せよ」


 北斗号が傾く。立っているのも辛いほどだ。この速度で、曲がりきれるのか。


「北斗号に損害なし。敵二艦、船首半舷船尾の紙風船破損。大破判定です」

「追撃は必要なしか。それでも、敵はまだ二艦も残っている。速度このまま。次が来るぞ。準備を急がせろ」

「了解。一斉念話終了」



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