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海風の声36




「索敵を急がせてくれ」

「了解。魔法使い総出でやってますが、見つからないのです」

「ローグめ。何を企んでいる。あいつの性格からして正面から迎え撃つか、イチかバチかの奇襲をかけるかどちらかだろうに。なぜここまで姿を見せない」


 マーロン艦長の焦りは相当なものだ。これを見たら、ローグさんはしてやったりと笑うだろう。

 サクラかファルに言えば、敵艦隊の居場所はすぐに知れる。それでも聞こうとは思わない。特務隊も陸軍もこの演習には一切関わらないが、自分ならどうするかの良い教材なのだ。

 手で合図して、ジェイクとワーグを喫煙所に誘う。蝋燭に火を点けようというのだろう。フウリも着いて来た。


「ありがとな、フウリ」

「気にするでない。今の艦橋は息が詰まるのじゃ」

「ピリピリしてっからなあ」

「うむ。マーロンは普段は穏やかなだけに、あの雰囲気が辛い。嫁がかわいそうじゃ」

「明日にはマレーヌだというのに、あちらは影も形も見せませんからね。艦長としては、頭の痛い状況でしょう」

「マーロン艦長じゃないっすけど、ローグ兄貴にしては妙な話っす。卑怯を嫌うマレーヌ軍なら、早々に決戦を挑んでくるはずっす。ローグ兄貴に発言力があれば、コニャック号で奇襲をかけて本隊が押し包むかもだけど、それすらもないのは変っす」

「兄上はどう思っているんです?」


 タバコを火皿から落として次を詰める。俺の予想が正しいなら、北斗号は大破判定で負けるだろう。


「勝ちに来たんじゃねえか、マレーヌ海軍は」

「負けるつもりでやってはいないと思いますが、どういった意味ですか?」

「演習に、じゃねえ。イーハ海軍にだ」

「我軍に勝つ。ですか・・・」

「四倍の戦力でも、北斗号の魔法使い部隊に勝つなんて無理っす。それこそローグ兄貴が海軍を掌握して、全権を握って策を尽くさない限り、まさか!」


 それが可能なのか、俺にはわからない。ただマレーヌ海軍を敵として見た時、一番嫌なのはそれだ。幼い頃から軍人、それも高級士官になるためだけの教育を受けた俊英。その彼が思うままにマレーヌ海軍を動かしたなら、侮れない敵になる。


「ありえるかのう。陸軍と海軍はまったくの別組織。いかに陸軍将軍の息子とはいえ、ぽっと出の若造に軍を預けるなど。それに、海軍は伝統的に年功序列の風潮が強いのじゃ」

「まあ、俺がザクスンさんだったら、海軍に働きかけてそうするってだけの話だ。確証はねえよ」

「それほどの軍人ですか、ローグ殿は」

「マーロン艦長の見識と思慮深さと用心深さに、ワーグの武力と思い切りの良さと感の良さを足してみな」

「・・・背筋が寒くなりましたよ」

「だろ。その相手が数で勝る軍を率いて、自国の庭で待ち受けてんだ。予想に間違いがなければ、北斗号はあっさり負けるさ」


 誰もが黙り込む。いや、そんな深刻にならんでも。マレーヌは同盟国、フウリに至っては自国だぞ。


「カイトならばどうするのじゃ?」

「そうだな。戦わない」

「そうでなくてじゃ。この演習を指揮するのが、カイトならばどうするかという話じゃ」

「だから戦わねえつってんの。相手は数で勝って、質で劣ってる。その相手が勝つために、策を張って待ってんだ。そこに踏み込んだら負ける。引きずり出すのが一番だが、相手は出たら負けると知っている。千日手なんだよ。だから、戦わずに演習期間を終える」

「なんのメリットがあるのじゃ、そのような演習に」

「待つ事を経験する。待てる軍になる。臆病者と言われてもな。負けたら士気も落ちるだろ。ここは引き分けでいい」

「勝つ策はないのですか?」

「索敵に出てくれたらそれを沈めて、損害数で勝ちになる。俺なら、それすらもしないと決めて待つな。それでイーハ海軍と引き分けられる。マレーヌ海軍が自軍を客観的に見られるなら、それは勝ちに等しいとわかるだろ。自信にもなり、指揮官を信頼し、士気も上がる」


 ワーグが小さく笑い出した。なんだなんだ。


「たぶん、出てくるっすよ。マレーヌは海軍も陸軍も、プライドだけは人一倍っす」

「ここで船足を緩めればな。マレーヌ湾まで行ったら、あちらも覚悟を決めて待ちに徹するだろう。誘おうとすれば沈められるのは、目に見えてるからな」

「いえ。それでも出てくるっす。それが、マレーヌ軍の悪癖っす」

「同盟国の軍が、そこまでバカじゃ困るんだが」


 そんな事があるのか。相手が乗れば必勝、乗らなくても引き分け。こちらが動いたら負けますという策を張り、わざわざ負けに来るとは考えられない。


「認めたくはないが、ワーグの言う通りかも知れぬのう」

「ザクスンさんがローグさんを海軍の将軍に任命したなら、その指示に従わねえなんて状況を許さんだろ」

「上層部を入れ替えるのではないかのう。ローグはあの家の武人にしては頭が回る。一語一句が記録に残るこの演習を、そのために利用する。ザクスンのそんな考えくらいは読めるであろう」


 マレーヌ軍の上層部は、そこまで能なしだって事か。それなら、そっくり首をすげ替えてしまって欲しい。旅立ちは近いのだ。憂いは少しでもなくして、天秤神の国に行きたい。



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