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海風の声33




 朝から活気ある露店や商店を回り、土産をしこたま買い込んでゆく。

 マレーヌ独自の産物。酒樽や菓子までだ。草原に囲まれたマレーヌには衛星都市の一つに植林都市というのがあり、自然に近い環境で育った獣肉や茸、北にしか育たない樹木の木材もいい土産になる。

 今日はサクラと二人っきり。ファルとフウリは家にいる。


「後はなんかあるか?」

「んー。とりあえずはこんなもんかなあ」

「昼メシも食ったし、服屋さんでも行くか?」

「そうね。お土産に、服か布地でも買いましょう」

「ああ、グノーツさん結婚して子供も出来たんだ。それも見繕ってくれ」

「ええっ。何歳? 性別は?」

「知らね。まだ産まれてねえんじゃねえか」

「ならマレーヌ織りのおくるみを三枚くらいと、奥さんの服か布地ね。どんな感じの人?」

「青髪の婀娜っぽい美人だ」

「あだっぽいてどんな表現よ」

「あー。次郎長の嫁さん的な?」

「お蝶さんね、なるほど。よし、服屋さん到着。買うわよー!」


 次郎長の嫁さんで通じちゃったよ。買い物は、お手柔らかに頼むぞ。


「すいませーん、ここからここまで全部くださーい」

「どこのセレブだ。自重しろ」

「無理。私、ファル、フウリ、ペルデさん、エルス、ジェイクさんのお母さん、ペルデさんのお母さん、グノーツさんの奥さん、八人分だよ。これでも足りないって。あ、大神官のお婆ちゃんと天秤神殿の大神官にもだから、十人分だ。すいませーん、ここからここまでも追加で」


 空間魔法があるから荷物持ちはしなくていいとはいえ、こんな買い物は見てるだけで辛い。


「マレーヌ織りの布地はあります?」

「こちらでございます」

「おお、反物だ。全部ください」

「は、はい。ありがとうございます」


 服屋さんの顔が引きつる。なんかすいません、うちのバカが。


「ありがとうございましたっ」

「また来まーす」


 外まで見送られての最敬礼だ。そりゃ、あれだけ買えばなあ。


「足りるかなあ。もう一軒、行っとく?」

「行かねえよ。それより、風景画を売ってねえか」

「フウリの部屋と、ワーグっちの家にだね。聞いてみるよ。待ってて」


 エルスさんに念話だろう。けど、贈る相手に聞いていいのか。


「家具屋さんにあるって。ほら、あの箪笥が置いてあるお店」

「すぐそこか。行こう。お、ちょっと待て。親父さん、その銀の髪飾りをもらうよ」

「あいよ。銀貨二枚だ」

「はい、二枚ね。つりはいらないよ」

「がはは。ありがとよ。別嬪の奥さんを大事にな」


 サクラに髪飾りを付ける。


「こんな高いの、大丈夫?」

「おう。桜に似た花弁の細工が見事でな、一目で気に入った。黒髪に銀が映える。似合ってんぞ」

「ありがとっ」


 俺の腕に飛びついたサクラを引きずるようにして家具屋さんに入ると、老婦人が微笑みながら出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

「こんにちは。マレーヌの風景画はありませんか。一つはこの街並みを、もう一つはマレーヌの人々の暮らしを思い出させてくれる物が良いんですが」

「少々お待ちください」


 老婦人が隣の部屋に入る。よし。引き剥がすなら今だ。


「おい、そろそろ離れろ」

「ヤダ。今日はくっついてる」

「ほう。トイレもか。ファルの変態が伝染ったか?」

「それは別!」

「お待たせしました」


 両手に大きな額縁をぶら下げて、老婦人が戻ってきた。見るからに重そうだ。言ってくれたら取りに行ったのに。


「お婆ちゃん、私が運ぶよ!」


 サクラが駆け寄る。


「力仕事なら任せろ。すいませんご婦人、気が利きませんで」

「いえいえお客様がそんな・・・」

「ここでいいですか?」

「ええ。すいません、運ばせてしまって」


 カウンターに置いた二枚の絵は、素人目で見ても見事な物だった。


「こりゃ、高名な画家の手による物でしょう。凄いな」

「ホント。マレーヌの街の風景画はどこまでも美しい。そしてこれ、木造の建物の前で垂れ幕を見せる子供達はあったかい。カイト、教えた文字を覚えてる?」

「多分な。なになに、ふ、うり、さま、お、た、ん、じょう、び、おめでとうか。こりゃ決まりだな。どんだけ高くても買うぞ」

「うん。お小遣いが足りないなら出すよ」

「どちらも銅貨三枚ですよ」

「はあっ!?」

「だ、ダメだよお婆ちゃん、もっと取れるよこの絵なら!」


 ニコニコ微笑んでいた老婦人が、顔の皺を深くする。もの凄く嬉しそうだ。


「これは、主人が趣味で描いている物なのですよ。家具屋のお爺さんが趣味で描いた物ですから、材料代だけいただいてますの。気に入られたようですから、その値段でお買い上げくださいな」

「どうする、カイト?」

「ありがたく買わせてもらおう。ただ奥さん、ご主人にお伝えください。イーハから来た二人の神子が鍛冶神の神子に、この絵を贈ったと。そして弟子を取って、絵画を芸術として発展させる事を望んでいると」

「うふふ。きっと伝えますわ。ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちですよ。じゃ、行くかサクラ」

「うん。お婆ちゃん、ありがとうございます。マレーヌに来たら、また寄らせてもらいます」

「お待ちしておりますね」



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