海風の声31
「今日はお疲れさんな。女の軍人達はどうだった?」
「各属性のトップを集めたらしいので、感が良くて助かりました。二名が空間魔法を一日で物にしましたよ。明日は結界を教える予定です」
「そりゃたまげた。二班に分けるから、どちらにも空間魔法があるんか。結界も張れたら、調達にだって出れるな」
「容量は大したものではないですが、それでも充分です」
「ああ。平時は調達、事あらば戦闘から斥候までこなせたら言う事ねえな」
アーモンドに似た木の実を二つ取り、膝の上のウイトの口に一つ入れる。もう一つを噛んで飲み込んでから、ビールで口を洗う。見ると、ウイトもジュースで同じ事をしていた。
「んまいねえ」
「うまいなあ」
ジュースは食事時に一杯だけで、後は茶しかもらえないらしい。惜しむようにチビチビと飲んでいる。
「ウイトも酒飲みになりそ」
「なるだろ。俺の息子だ。酒も俺が教えるさ。こっちじゃ女遊びはねえからな。酒ぐれえ許せ」
「はいはい。ウイト、おつまみだけじゃなくて、ご飯もちゃんと食べるんだよ?」
「あいっ。もぎごはんににくー」
さすが我が子。照り焼き味のタレ焼きの肉を、麦ごはんに着地させてから食ってら。わかってるねえ。
俺も小さなパンを手に取り、割って野菜サラダと肉を挟む。一口かじって皿に置くと、ウイトが俺の顔を見上げていた。釣れたな。
「ぱぁぱ。んまい?」
「うまいぞ。肉を食ってるって感じがするんだ。食うか?」
「くうっ!」
残りのパンをウイトが頬張る。詰め込みすぎて、ハムスターみてえんなってんぞ。
「ナイスプレーです」
そうだろう。ウイトに野菜を食わせたいなら肉で釣れ。野菜だけ口に持ってくから嫌がるんだ。
「ジェイク、明日は槍の訓練だよな」
「はい。フウリ様の管槍を、一日かけて仕込みます」
「ワーグの株が上がるなあ」
「某の遥か上ですからね。いい師になるでしょう」
「頑張るっす。兄貴も質問とかしてくれるし、管槍なら三連突きまでマレーヌ陸軍でもやれるはずっす」
「三千は男を三隊に分けて剣槍弓の訓練だな。女はペルデさんとイーハの女達に頼んだ。明後日には、陣の構築から防衛戦までを通し訓練だ」
「そして休日を挟んで、イーハに戻って出港からの海戦演習ですか。相手は四艦、マーロン艦長の戦い方が楽しみですね」
「負けてもいいから、少しでも海戦の呼吸を身につけてほしいもんだ」
「副長も優秀です。乗員も。心配ないと思いますよ」
「ああ。明日も朝早くから訓練だ。早めに休もうか」
「ウイトも寝る時間じゃのう。今日はねえたんと一緒じゃ」
「あいっ」
じゃれる二人がそのまま歯を磨きに向かう。風呂は帰ってすぐ入ったし、そのまま寝るのかもしれない。
「俺達も寝るか」
「なら片付けてしまいますね。男性陣はそれぞれの寝室でお待ちくださいな」
「いつも悪いな。手伝うぞ?」
「じゃまになるだけよ」
「へいへい。ほんじゃ、おやすみ」
寝室で一人になると、まだ残る脳天から胸までの痛みをやり過ごす。皆の前では気を張っているから我慢できるが、一人になるとまだ辛い。ベッドに座り目を閉じて身じろぎもせずにいると、ドアの開く音がした、足音は二つ。サクラとファルだ。見なくてもわかる。
「痛むの?」
「いや。考え事だ。気にすんな」
「そう・・・」
頭から顔、胸まで優しく撫でられた。別の手が、服を脱がせにかかる。
「カイト様は、じっとしててください。そのまま目を閉じたままで」
たまにはいいか。そう思ってなすがままにされる。
事が終わって目を閉じると、そのまま寝てしまったらしい。目覚めたら朝だった。
朝食を取って演習場へ向かう。ウイトはノーザさんと友達の家だ。イーハに戻ったら、たっぷり土産を仕入れよう。
「おはようございます、ノーグ将軍」
「カイト様。おはようございます。今日もよろしくお願いいたします」
「訓練の時間になったら、剣、長槍、投槍、槍、弓に男を分けてください。女は女で固まっててもらえば大丈夫です」
「了解です。女は約五百。二千五百の男ですが、五百ずつでよろしいですか?」
「そうですね。運用する数はマレーヌ陸軍が考えるとして、訓練ですからそれで結構です。マーロン艦長、聞いたな。教導で日々の訓練の成果を見るぞ」
「はっ。お任せください」
北斗号の乗員は、陸戦時にも陸軍に組み込まれることはない。なのですべての兵科の鍛錬をしている。これはその成果を見る良い機会でもあるのだ。
「カイト様、自分達も海軍の女性達に合流します」
「よろしく頼む」
「これでも特務隊の一員です。しっかりと務めてまいります」
悪くない敬礼を見せて、ペルデさんとエルスさんが北斗号の女性兵士達の輪に向かった。
「イーハの女性の、なんと凛々しく美しい事か」
「息子の嫁も、すっかりイーハの女になったでしょう。ノーグ将軍」
「ええ。のんびりした嫁でしたが、いい眼差しをするようになりました」
「それが良い事なのか、俺にはわかりませんがね・・・」
「こんな時代です。身を守るためにも、戦えるに越したことはありません。感謝しておりますよ」




