海風の声28
いつもながら、豪華な食卓だ。女手が多く、空間魔法に入れてしまえば時間が止まるから空いた時間に下拵えをしてるとはいえ、これだけの料理を用意する女性陣には頭が下がる。
「今日はお疲れ様でした。遠慮なく飲み食いしてください」
「ありがとうございます」
「いやー、美味しそうですね。うちの弟はいつもこんなのをごちそうになってるんですか」
「体が資本ですからね。たくさん食べてもらわないと困ります」
「では遠慮なく。美味しいっ。セルン、これすんごい美味しいぞ。お前も食べろ!」
「あなた、三人の神子様と精霊様の前で、恥ずかしい真似はよしてください」
「いえいえ奥さん、こちらはローグさんに褒められて鼻高々ですよ」
「そうじゃぞ、セルン。遠慮なくとカイトが言うたのじゃ。いくらでも食っていくが良い」
「はい。ありがとうございます。でもあなた、お行儀だけは考えてくださいね」
大雑把な印象のマレーヌの軍人に、しっかり者の妻はいいコンビだ。コニャック号の役職は知らないが、奥さん連中が戦闘以外の事を回せば、これまでよりもいい結果が出るかもしれない。
「マーロンさんとレーナさんも、飲んで食べてくださいね」
「ありがとうございます。ですが私達に敬語はおやめください」
「プライベートですからね。年上には敬語ですよ」
「わたくしはカイト様と同い年です」
「既婚女性には敬語に決まってるじゃないですか。誰だって、自分以外に嫁を呼び捨てにされたら嫌でしょう」
「カイト様は私の事もエルスさんと呼びますものね」
「そうなのですか」
「ええ。ですからゆっくり飲んで食べてください。せっかくの懇親会です。北斗号とコニャック号は、これからも連携の機会は多いんですから」
レーナさんが木杯を置いた。なにやら難しい顔をしている。
「やはり今日のマーロンの指揮では、コニャック号への念話が少ないと思いましたか?」
「・・・そうですね。念話すべき場面は多かったと思います」
「ほらみろマーロン。だから説明すべきだと言ったんだ。カイト様に気を使わせるなど、それでもイーハの軍人か。恥を知れ!」
「むう。すまなかった」
「わたくしに謝ってどうする!」
「神子様、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げられても。まず説明してもらわんとわからん。
「すんません、意味がわからねえです」
「実はローグと私は仲が良く、この場面ならローグはこう動いてくれるだろうと考え、指揮を執っていたのです」
「短い期間で、そんなに仲良くなったんですか?」
「私は親友だと思っております」
「俺だってそうだ。それに追い付くべき好敵手だな」
「お前もそう思ってくれるか。ありがとう」
なにやら暑苦しい展開だ。まあ、それなら俺の心配も杞憂だったって事か。めでたい。
「しかし、ローグさんがコニャック号を任されたのは最近でしょ。そんなに気が合いましたか」
「いえ。ローグとはマレーヌ上陸初日からの付き合いです。船員候補の話し合いで滞在中のまとめ役は今の甲板長に任せ、私はマレーヌの軍人との交流を持つと決めていたのです。気さくなローグに助けられ、それは上手くいきました」
「なるほど。正直、二人の仲が良いのは軍としてありがたいです」
「子供も同い年で男でして、十三になったら一年ずつお互いの家に預けて社会勉強をさせようとも思っております。もちろん、許可が出ればですが」
「留学ですか。大神官達には高等教育機関の設立も宿題にしてありますが、まだ時間はかかるでしょう。民間レベルでやるのはいい案ですね」
ファルがすかさずメモを取っている。少年少女のホームステイか、悪くない。
「いい案をもらいました。他にはなにかないですか?」
「申し訳ありませんが、私程度ではお役には立てません」
「いえいえ。お気になさらず。お、ローグさんいける口ですね。さあ飲みましょう」
酔った旦那を引きずるようにして四人が帰ったのは、夜もだいぶ更けてからだった。ウイトはファルと、もう寝ている。リビングには、俺とサクラとフウリだけだ。
「お疲れ様。良い方に裏切られたねえ」
「ああ。意外だったな。ああも仲が良いとは」
「あの二組の夫婦を見て、ワシは嬉しくなったのじゃ」
「俺もさ。見てて気分がいい」
「ジェイクさんとワーグっちのとこみたいだよねえ」
ちげえねえと笑いながら、木杯を呷った。明日は休日なので、サクラとフウリも飲み直しに付き合っている。ウイトの添い寝は当番制で、俺は数に入れられていない。それがちょっと不満だったりする。
「そうじゃ。カイト、苦無と飛針は明日で研ぎ上がるぞ。右腰の苦無を隠せるポーチと、飛針を仕込む革の手甲はもう出来ておるでの」
「ありがたい。楽しみだな」
「腕を振ったら針が飛んで魔獣を針山にするのね!」
「アホか。んな調整なら、腕下げたら飛針が落ちるだろ。俺の足が剣山になるわ。飛ばすのも拳を貫通させんのかよ。ガッチリ固定して、普段は手甲として防具にすんだよ」
「えーっ。忍者っぽくないよう」
「俺は忍者ってガラじゃねえよ。大人の渋さとかな・・・」
「えっと、なんかごめん」




