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海風の声25




「があっ。頭が痛えっ・・・」

「目が覚めたっ。みんな、カイトが起きたわよ!」

「寝ちまってたんか、俺」

「睡眠というよりは気絶ですね。常人なら発狂するほどの痛みらしいですよ」

「ファルか。誰に聞いたんだ?」

「あまりにサクラが泣き喚くので、魔法神様が武神様の伝言を伝えてくださいました」

「ありゃやっぱ武神だったか。相手の詳細も聞いたんか?」

「伝言は、あの神殿が元は海神様の神殿でそこに武神様が悪しき神の欠片を封印した事。カイト様がそれを斬って、その痛みを反射されて気絶している事。命に別条はない事。それだけです」


 さすがは俺を息子と呼ぶ神、決定的に言葉が足りない。


「カイトっ、心配したのじゃ!」

「兄上!」

「兄様ぁー!」

「信じておりました、カイト様」

「湯冷ましをお持ちしましたよ。ゆっくりお召し上がりくださいね」


 どやどやといつものメンバーが入ってくる。一人一人に心配かけた事を謝りたいが、痛みが酷くて言葉を発するのも辛い。


「申し訳ない。みんなには心配をかけた。もう大丈夫だ」

「一月も寝たきりだったのじゃ。無理に話すでない」


 一月? 一ヶ月も寝てたってのか?


「ここは?」

「マレーヌの我が家じゃ。兵もマレーヌの関係者も、ずいぶんと心配しておったでのう。ファル、悪いが念話を頼みたいのじゃ」

「そうね。知らせておくわ」

「カイト、お水は飲めそう?」

「ああ。貰いたい。喉がカラカラだ」


 病人に使うような水差しが口に当てられる。俺は病人じゃねえと言いたいが、そんな元気もなかった。おとなしく、ゆっくり入ってくる水を飲み込む。


「ありがとう。ちょっと刀を取ってくれ」

「いいけど、無理しちゃダメだよ?」

「わかってんよ。ただの確認だ」


 刀が渡される。待たせたな、相棒。心の中で語りかけながら鯉口を切り、刀身に自分の顔を見る。変わらない。俺も相棒も何一つ変わらない。そう思うだけで、いくらか痛みが引いた気がした。鯉口を戻し、左手に刀を持つ。

 ベッドから下り、しっかりと立った。筋肉の衰えも感じない。これなら、いつでも戦える。


「なにやってんの。無理しちゃダメだってば!」

「いや、痛みはまだあるが、これなら戦える。とりあえず、リビング行こうぜ」

「寝てなきゃダメよ」

「痛えだけだから、問題ねえさ。体は平気だと思うが、栄養が足りねえ感じだ。とりあえずメシだメシ」

「無理してると感じたら、すぐにベッドに強制連行だからね!」


 話しているうちに、リビングに着いた。定位置に腰掛け、煙管と煙草を忘れた事に気づく。


「煙草でしたらここに」

「さすがファル。ありがとう。ところでウイトは?」

「カイト様を心配して毎日泣いて暮らしていたので、見かねたノーザさんが近所の子供達の集まりに連れ出しています。同世代の明るさに慰められるのか、だいぶ明るくなりました。夕食前には帰るはずです」

「イジメたり、イジメられたりしてねえか?」

「ええ。すっかり仲良しですから、心配はありませんよ」

「今は昼か?」

「昼食にはだいぶ時間がありますね。火をどうぞ」

「ありがとう。まだ朝って事か。ならビールでも飲みながらメシ食って、ベッドに戻るか。ファル、寝室には付き合えよ?」

「病み上がりなのですから、自重してください」

「怪我でも病気でもねえ。ただの痛みだ。だから酒とメシ、そして女で気を紛らわせんのさ」

「食事の用意をしに行った二人が怒りますよ」

「まとめて相手するさ」

「兄上、とりあえずありあわせのものから持っていくように言われました。昨夜の残り物と今朝買ったパンだそうです」

「おう、ありがとな。酒を飲むからお前さん達も付き合え」


 大きな体でお盆をもったジェイクが、テーブルに料理を並べようとする。ファルがそれを押しとどめ、テーブルに並べた。


「酒など飲んで大丈夫なのですか?」

「怪我とは違うからな。酒を飲んでも傷が悪くなる訳じゃねえ。むしろ酒で麻痺させんだよ」

「持ってはきますが、無理そうなら飲むのはやめてくださいよ」


 一ヶ月。長いのか短いのかはわからないが、まるでタイムスリップでもした気分だ。ファルもキッチンに向かったので広いリビングに一人になると、そんな思いが浮かんできた。

 ほどなく、皆がリビングに座った。

 豪勢な料理に酒樽がいくつも出されている。


「それでは、カイトの起床を祝って。乾杯!」


 乾杯の声が重なり、それぞれが木杯を呷る。

 どうでもいいが、起床を祝うってなんか違う気がする。どいつもこいつも、やけに楽しそうだから言わないが。


「またカイトは魚ばっか食べて。お肉を食べなさいお肉を。少しでも血と肉を増やさないと」

「胃腸が弱っておるかもしれぬ。そう肉ばかり勧めるでないのじゃ、サクラ」

「そっか。なら、そのホワイトシチューを食べるのよ。カイトに教わったホワイトソースでファルが作ったの。すっごい美味しいんだから」

「どれどれ。お。うめえ。やるな、ファル」

「ありがとうございます。それより、あまり酔わないうちにお風呂を使ってくださいね。お酒とツマミは、寝室に運んでおきますので」

「おう。じゃあ行ってくる。わりいけど頼むな」

「こ、こんな昼間から寝室じゃと!」

「三人まとめてかわいがってくださるそうだけど、フウリは来ないのね。なら、その分まで私がカイト様を楽しませないと」

「行かぬとは言っておらん。ええい、蒸留酒を寄こせ。酔っておれば昼でも平気なのじゃ!」


 ジェイクとワーグもいるんだから、あまり余計な事は言うなよ。そう思いながら、着替えとタオルを取りに立った。

 サクラ、ファル、フウリはまだ若い。一ヶ月も放置されれば、そっちもけっこう溜まるだろう。それぞれの好みに合わせて、たっぷり楽しんでしまおう。



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