表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/229

海風の声21




 敬礼で北斗号を見送るわずかな時間で、結界の周りに魔獣が集まっていた。埠頭の入り口までびっしりだ。


「こりゃあ、アシカか?」

「オットセイではないんですか?」

「なんと奇怪な魔獣でしょう。兄上、このような化け物を野放しにしてはおけません!」

「待てジェイク。アシカもオットセイも魚介類を食う温厚な・・・」

「ちっちゃいトラックくらいあるトドっぽいのが、アシカを頭から丸齧りだね。おお、血が噴水みたいに!」

「言わんでいい。船を降りたら二分で戦闘かよ。サクラ、車を出せ。屋根に上ったら戦闘準備。ジェイクとワーグは斬り込み準備。徒歩での戦闘だ。深追いはするなよ」


 マルジヌス島は魔境だった。

 空間魔法から鉄箱車が出され、地魔法で作った階段で皆が屋根に上がる。ウイトとエルスさんがリビングに下りれば、あちらの準備は完了だ。


「腕が鳴りますね、兄上」

「あんなキモイの、串刺しにしてやるっす」

「魔法が効くなら、出番なんてねえぞ?」

「むむう」

「ぶー」


 そんな不満げにされても、こればっかりは仕方ねえって。


「カイト様、こちらはいつでもいけます」

「おう。はじめてくれ」


 埠頭に屯した魔獣が、バタバタ倒れていく。出血がエグい。


「トドにも効くといいがなあ」

「あの大きい魔獣ですか?」

「ああ。あれだけの巨体だ。脂肪で内臓に刃が届かねえかもな」

「そうなると厄介ですね」

「なあに、その時は頭蓋ごと砕いてやれ」

「おめでとうございます。トドには魔法が効きません。それ以外を倒したら、お願いしますね」

「だとさ。フラグ職人ども」


 車から離れながら、抜刀して鞘を地面と水平に差し直す。走るなら、時代劇の武士のような位置ではじゃまになる。森の中や室内では無理だが、拓けた場所ならこれだ。


「トドは三体。互いの場所は離れている。走って突っ込めば、俺、ワーグ、ジェイクの順になるはずだ。一撃離脱だぞ、やる事は騎馬と同じだ。抜かるなよ」

「承知!」

「はいっす!」

(結界貼り直しました。いつでもどうぞ)

「走れっ」


 競争のように駆け出す。軽トラックほどのトドに。

 ワーグは足が速い。靴音が追ってくるが、この景色は渡さねえ。

 寝転んでいるトドに、脇構えで突っ込む。首。跳ね飛ばす気で薙いだ。浅い。

 そのまま駆け抜けて距離を取る。十歩離れて残心。


「死いいいいい、ねえっ!」


 槍を薙刀のように使い、ワーグも首を狙う。野生の勘か偶然か、トドが首を伸ばして致命傷を免れた。

 ジェイクが斬るタイミングに合わせる。駆け出す。ワーグも続いた。


「もらったぁ!」


 頭蓋にジャンプしたジェイクの大剣が叩き込まれる瞬間、心臓を狙って胴に突きを放つ。ワーグの突きも決まる前に、胴から刀を抜いてヒレを斬る。三人で遠巻きに取り囲み、絶命したのを確認する。


「次は順番を逆にする。左のトドからだ。気張れよ、ジェイク」

「任せてください、兄上」

「よし、行け」

「はいっ」


 駈け出したジェイクから間を取って、ワーグも続いた。次も薙ぐだろう。一撃ずつの三連続攻撃は、徒歩でも騎馬でも体が自然に動くまで稽古を重ねた。互いの動きは、手に取るようにわかる。

 ジェイクがぶち当たる。五メートルもありそうな胴体を半ばまで割いた。

 地を転がって苦しむトドの首を、掬い上げるようにワーグの槍が薙ぐ。

 メダリストより速く走りながら、暴れるトドの動きを見る。仰け反るように立ちあがるトド。

 飛ぶ。着地する前に、首を落としたと確信した。


「すっげ・・・」

「気を抜くな! ワーグを先頭に鋒矢。稽古の成果を見せろ!」

「うおおおおおっ!」


 気合を入れなおしたワーグに、俺とジェイクが続く。鏃だけの鋒矢陣。気概なら、千の軍にも負けない。

 先頭のワーグが槍の間合いに入る。飛び込む。深々と突き立った槍。勢いを殺さず離れたワーグが抜剣する。手練の技だ。突く踏み込みと、離れる踏み込み。その間には、一呼吸もない。

 ワーグは左に飛んだ。右後ろに付いていたジェイクから飛び込む。腹が割られた。

 脱力。刀を、跳ね上げる。刃筋は顎を捉えた。駆け抜ける前に、剣先は頭蓋を抜けていた。


「お疲れ」

「お疲れ様でした、兄上。ワーグも腕を上げたものだな」

「お疲れ様っす。兄様達を見てたら、おいらなんて強くなったとは思えないっす」

「ご苦労様っ。魔獣を収納するから、煙草でも吸ってて」


 サクラが屋根から投げた蝋燭を地面に置くと、小さな火が出て芯に移った。

 そう言われるとニコチンが欲しくなり、黙々と刀の手入れをする。

 この刀は一切の脂を寄せ付けないが、神鉄ではそうもいかないらしい。あの巨体のほとんどは脂肪だ。時間もかかるだろう。一番に煙管を使ったのは俺だ。


「終わったっすー」

「某も、これで終わりだ」

「おう。煙管と茶ならどっちを先にやる?」

「煙管っすー」

「当然ですよ」

「へいへい。一服したら、港の確保だなあ」

「昼までに終わるでしょうか」

「わかんね。お、みんなお疲れさん。とりあえず、休憩するといい」

「カイト達こそお疲れ様。一休みしたら、倉庫とか交易所の探索ね。それなりに魔獣も潜んでるよ」

「そうか。屋内戦闘もありえるか。二人とも、準備は怠るなよ」


 黙って頷いた二人が、短剣や投げナイフの確認をはじめる。

 俺は大刀と脇差しだけだ。苦無か飛針でも持とうかとは思うが、斬った方が早いという気持ちが捨てきれない。マレーヌに戻って時間ができたら、検証用にフウリに頼んでみてもいいかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ