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海風の声20




「いっせーのーせっ!」


 気の抜けるサクラの掛け声に合わせ、一斉に伏せていた紙をめくる。

 全員の紙を集めたサクラが、手元の紙に何かを書く。二度、それを見直してようやく顔を上げた。


「だらららららっ。発表します。船長、マーロンさん男性、三十歳。副長、レーナさん女性、二十八歳に決定しましたっ!」


 拍手とかいらんから。喜んでんのウイトだけだし。


「とっととレーナさんて人に念話しろ。俺達は、武神殿にマーロンって男を捜しに行く」

「お待ちください。たしかこの二人は夫婦ですよ。風魔法では一番でしたので覚えています」

「そりゃ助かる。二人でここに来れるか聞いてくれ」

「お待ちください。・・・すぐに出頭するそうです」


 俺が煙管を使おうとすると、ジェイクとワーグも煙管を出した。後は二人が来てからの話だ。嫁さん達のおしゃべりを聞くともなしに耳に入れながら、のんびりとした時間を過ごす。


「来たようですよ。出迎えに行ってきますね」

「頼む」


 イーハの家はイスタルトの家よりかなり広い。ファルが出迎える間に、軍服の乱れを直した。立ったまま二人を待つ。全員が立ち上がっていた。ウイトはフウリにだっこされている。


「両名をお連れしました」

「イーハ海軍北斗号所属、マーロン武装神官。出頭いたしましたっ」

「イーハ海軍北斗号所属、レーナ風神官。同じく出頭しました」

「ご苦労。休暇中にすまない。まずは座って茶でも飲んでくれ」


 敬礼を交わして、着席を促す。

 旦那の方だけでなく、嫁まで凛々しい感じの夫婦だ。出された茶に礼を言い、申し訳程度に唇を湿らせている。


「さて、用件を話すか。辞令は後日になるが、北斗号の船長にマーロン、副長にレーナ。そう決定した。質問は?」

「他の役職も、すでにお決まりでしょうか?」


 言ったのはレーナ副長だ。見た目通り、物怖じしない性格らしい。無駄な女性らしさなんてものは、軍人には一切不要だ。この人事は正解だろう。


「まだだ。二人の意見を聞いてから決めたい。そう思ってここに呼んだ」

「ありがとうございます。ですがその前に北斗号とその乗組員を、部隊としてどう運用するかを教えていただけませんでしょうか?」


 そう言った旦那のマーロンも悪くない。調達ばかりを千年間も繰り返していた、まともな軍事組織とは言えなかった武神殿の印持ちでありながら、北斗号の運用法まで考えているらしい。


「俺達が乗る鉄の車を知ってるか?」

「はい。通常では到達できない距離を移動し、魔獣の群れとその王を倒して来たと聞いております」

「それに人員の輸送能力を足したのが北斗号だ。イーハかマレーヌが攻められているなら軍を運び、可能なら搦め手も担う。その必要がなければ、歩兵として戦闘にも参加する。臨機応変にな」

「そうなると、編成がカギになりますね。これをお使いください」


 テーブルに出されたのは、二つの紙束だ。


「これは?」

「二十五組の夫婦の特徴を書いた紙と、五十人の特徴を書いたものです。参考程度にはなるかと思われます」


 どうしよう。注文だけ伝えて、丸投げする気だったんだが。誰だって、こんな面倒な事をやりたくはない。


「通常の航海時は、二交替の十二時間勤務。十人の余裕があるから、集団感染でもなければ大丈夫だ。イーハとマレーヌへの寄港時は、半数ずつ休暇を取る。俺の故郷では右舷と左舷に人員を当てて、半舷休暇とか言ったな。上陸戦闘もそんな感じだ」

「なるほど。どちらかが任務中なら、緊急時にも出港は可能ですね」

「昼夜で班を分けて、寄港後に交替が無難かもな。バランスを含めて、人選は任せる。船長と副長として、初めての任務だ。頑張ってくれ」

「はい。時間はどれほどいただけますか?」

「編成に三日。その後の訓練に七日。十日後にはマルジヌス島へ向けて出港する。またしばらくはイーハを離れる事になるな」

「必ず、間に合わせます」


 気合を入れ直して退出する二人を見送る。事細かなレポートといい、さっき出したメモの束といい、先を読む癖が身に染み付いている二人ならうまくやるはずだ。


「見事に押し付けましたね」

「まあ、あの様子なら大丈夫だろ。なんかあったら、フォローはするさ」


 役職はマレーヌ海軍の模倣からはじめればいい。そしていつか、イーハ海軍の特色がはっきり見えてくるだろう。


「できたっ!」


 静かだと思ったら、何してたんだサクラ。


「何が出来たんだ?」

「はいこれ。マルジヌス島の地図。手書きだから、あんまり信用しないでね」

「綺麗なもんだな。こりゃ助かる。ありがとうな」


 大まかな地図だが、これがあるだけでずいぶん違うだろう。道にも矢印がしてあり、土、砂利、石、などと書いてある。


「こないだライオンのねぐらに使った魔法、島に撃ち込んだらダメなのか?」

「拡散して威力が落ちますからね。魔力だけ消費して、魔獣には傷も追わせられないかと」

「なるほどな。地道に狩ってくしかねえのか。車を出すのは決定として、北斗号をマレーヌに行かせるか、島で待たせるかが問題だなあ」

「イェールさんはマレーヌで降りるでしょ。イーハの軍人だけで、島に投錨できるのかな?」

「なるほど。じゃあ、マレーヌに行ってもらうか。訓練がてら、指定した日にマルジヌス島に迎えに来てもらおう」

「鬼ー」

「かわいい子には旅をさせろ。ただしウイトは除く、ってやつだな」



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