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海風の声15




「迷う意味はねえ。開けてくれ」

「了解しました」


 明滅。発光。光の欠片。

 現れたのは、木製の両開き扉だった。


「アイエスッ!」


 フウリが扉に駆け寄る。

 ファルを見ると、しっかり頷いてくれた。危険があれば、ファルが結界を張り、俺がフウリを庇う。


「アイエス、ワシじゃ!」


 叫びながら扉を開け放ったフウリが、部屋を見回す。


(危険はありません。他者の反応も・・・)


 腰が抜けたように、フウリがしゃがみ込んだ。わずかでも可能性があれば、人はそれに縋る。神子だとて、例外ではない。


「わかっておった。生きている訳がない。当たり前じゃ。だが、それでも、一目だけでも会いたいと。アイエス・・・」


 泣き崩れるフウリに声はかけない。泣くだけ泣いて、立ち上がったら抱きしめよう。強く、きつくだ。

 どれほどの時間、その背を見守っていただろう。ふらつきながらも立ったフウリを抱きしめた。サクラとファルとエルスさんが。


「ここで譲るのも優しさですか、兄上」

「いや、ただ単に出遅れた」


 なんだよその顔。今夜は犬と熊の丸焼きか、コラ。


「これ、そんなに泣くでない。美人が台無しじゃ」

「フウリが言うんじゃないわよ」

「ところでファル、あれがなにかわかるなら教えてくれぬか?」

「あれは天秤でしょ。ぐすっ」

「いや、それは見ればわかるがのう・・・」


 タイミングを逃した腹癒せに、黙って室内に入る。

 石で塞がれた窓、本棚、大きな机。その机の上に、立派な天秤が置かれていた。


「豪華な装飾だとは思うが、これはなんだろな」

「わからぬ。ただ、アイエスが残したものじゃ。すまぬがワシがもらっても良いか?」

「当然だろ。大事にしてやれ」

「ありがたい。終生の宝と、む。これは、天秤神の紋章じゃな」

「天秤神殿の天秤って事か?」

「正確には、天秤神のおられる国の天秤神殿の天秤、じゃな」

「千年前のその日に輸送中だったって事か」

「いいや。そのような話は聞いておらぬ。我が国に優れた魔法使いは少ないが、アイエスが連れてきた印持ちも国境の砦にいたのじゃ。このような物が贈られてきたのなら、数珠のように念話を繋いで報告が来るはずじゃ」


 数珠があるのに驚きだが、それも些細な事か。


「なら黙って持ち込まれたか、あるいは・・・」

「後にアイエスが持ち込んだか、じゃな」


 そんな事があるのか。消えた英雄は天秤神の国へ逃れ、後にここまで来て手紙の一つも置かずにこれだけを封印して去った。天秤神の国よりはるかに近い、友の住むマレーヌを訪れる事なく。

 いや、さっきファルが読んだ言葉には、フウリへの友情がはっきりと滲んでいた。


「また謎が増えたか。フウリ、マレーヌとイーハの結びつきを強くするぞ。外敵には二国で当たると宣言までしよう。一年半、みっちり軍事訓練だ。合同演習もやる。それから、天秤神の国だ。神子への挨拶ついでに、真相を聞きに行こう」

「ワシのために、無理をする必要はないのじゃ」

「元々、行くつもりだったもの。頑張って準備して、みんなで行きましょ」

「だな。さて、わりいが回収の続きを頼む。夕食までには終わらせよう」

「はーい。行ってきまーす」

「あ、サクラ様、私もついて行きます」

「うんうん。行こう、ジェイクさん、エルス」

「では、私達も行ってまいります」


 全員がそそくさと部屋を出て行く。


「まったく、いらん気を使いおって。ほれ、カイト。ワシの椅子になりながら、煙草でも吸わんか。茶の用意をするでの」

「お前さん、空間魔法を覚えたんか」

「そうじゃ。良い姉がおるでの。五姉妹の全員が使えるのじゃ」


 床に敷かれた毛氈の上で胡坐を掻きながら、煙管を使って茶を飲む。フウリは俺の胡坐の上だ。煙草を吸い終えると、甘えるように胸に顔をうずめてくる。空いた手で髪を撫でながら、好きなようにさせておく。


「アイエスはのう、タレ目の癖に口が悪くて、困った奴じゃ」

「そうか」

「酒を飲ませると真っ赤になって、すぐ眠ってしまう。だからいつも、語り足りぬのじゃ」

「一緒に捜して、愚痴を言おうな」

「文官の旦那と、ずいぶん仲が良くてのう。揃いの短剣を贈ったら、泣くほど喜んでおった。そして事あるごとに惚気る。今度はワシが惚気てやる番じゃろ」

「そうだな。見せ付けてやろう」

「・・・アイエスは、ワシを怨んでおるのかのう。・・・もう、友などではないと」

「フウリ、ファルは嘘を言わない。この部屋の石には、なんと書いてあった?」

「アイエスは、大勢の他国の民を救い、さらに救わんと単騎で駆けていった。一人でじゃ。友と呼ぶワシを置いて、一人でじゃ・・・」

「アイエスさんは、戦う人間なんだ。俺と同じだな。そんな人間はな、自分が認めた奴のためなら、ゴミでも捨てるように自分の命を捨てる。残された友には悪いとは思いながら、それでも命を捨てるんだ」

「カイトも死ぬのか・・・」

「死ぬよ。俺の命とお前達の血の一滴なら、血のほうが重い」

「そんなのは嫌じゃ! 死ぬなど許さんのじゃ!」

「そうか。なら良く見張っとけ」

「それではまだ不安じゃ。もう離さぬ。そなたの命もなにもかも、すべてはワシら三人のものじゃ。覚悟するが良い」


 すんません、ノリノリでキスするつもりでしょうけど、扉をちょっとだけ開けて覗かれてます。


(押し倒しちゃえ、カイト)

(ああ、覗かれながらなんて、うらや、はしたない・・・)



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