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海風の声14




「これが、アイエスの封印か・・・」


 フウリが感慨深げに呟いた。

 白い石造りの図書館は、イーハの建築様式で建てられたものかもしれない。やけに見覚えがある。

 あのライオンの群れ以外は特に苦戦する魔獣はおらず、約一ヶ月でこの町の魔獣を殲滅し終えた。朝晩の冷え込みも厳しくなり、ここを探索したらマレーヌに戻る予定でいる。


「では、封印を解きますか。カイト様、準備をお願いします」


 大刀だけ抜刀して、巨大な石が埋め込まれた建物の入り口に立つ。ジェイクとワーグも少し下がって左右に陣取った。ジェイクは大剣、ワーグは槍だ。

 サクラの結界は俺の前に一つと、車の前に一つを展開してある。

 右手を上げて合図。


(では、いきます)


 石の表面で、見た事もない紋様が明滅する。綺麗なもんだ。それはひとしきり続き、やがて石そのものが発光した。光の欠片が舞いながら、音もなく石が消える。


(少々お待ちください。・・・生物はいません。空気の入れ替え完了。安全と判断します。ペルデをウイトの護衛に残し、私達はそちらに合流したいと思います。よろしいですか?)


 右手を上げる。何も問題がないに越した事はないが、いささか拍子抜けな気もする。


「とりあえずは問題ないらしい。それでも、気を抜かずにいこう」

「ええ。剣は納めても、いつでも抜ける体勢でいます」

「槍が持ち込めなくても頑張るっす」


 納刀して四人を待つ。フウリには友の、エルスさんにはご先祖の足跡が残る建物だ。手がかりを見落とすつもりはない。徹底的に調べ上げる。


「ついに足を踏み入れるか。・・・アイエスよ、ワシは元気じゃぞ。そなたの子孫も一緒じゃ。今、行くぞ」


 入り口から目を光らせ、先にフウリを入れる。次にエルスさんだ。


「受付がありますね」

「奥が一般に開放されていた書庫だろう。ここを調べてから行くぞ」


 木製の受付カウンターに劣化は見られない。羽ペンも、それが乗る厚い紙も。ライオンの廃墟とはえらい違いだ。

 フウリが紙の文字を読み、ファルが引き出しの物をカウンターに並べる。フウリが読んだ紙はサクラに渡され、空間魔法に収納。わずか数分でカウンターは調べ終わった。

 入り口横のベンチを調べていたワーグも戻る。


「特に気になるものはないのう。・・・次じゃ」


 広いホールに、これでもかと本棚が並んでいた。紙の匂いがする。日本では図書館に行くと必ず、トイレに行きたくなったものだが、今のところその気配はない。


「本棚の列を一つ越えたら、立ち止まって確認を待て。中央を俺とフウリとエルスさん、右の壁際をジェイクとサクラ、左の壁際がワーグとファル、正面の壁際中央で合流する。怪しい物を発見したら、すぐに大声で呼べ」

「本棚の間は歩かなくていいのですか?」

「安全を確認したら、サクラとファルが片っ端から空間魔法に本を入れる。その時に嫌でも通るさ」

「では、行きます」


 壁際まで行ったジェイクが拳を上下に動かす。問題なし。俺は前を指差して、一度だけ振る。進め。ワーグにも同じ仕草を送り、立ち止まりながら進んだ。


「問題はなさそうじゃの。手がかりもないのが残念じゃ」

「ここの安全を確認したら、俺達三人で先行してすべての部屋を回る。落胆するのはそれからだ」


 あっけなく壁に突き当たり、中央に集まった。


「出入り口はあったか?」

「右、ありません」

「左もないっす」

「なら、そのままの組で本の回収をはじめてくれ。俺達は一階から、部屋を手当たり次第に回る。手がかりがあるとすれば、わかりやすい形で何かがあるだろう。それを探す。ここが終わったら、入り口まで戻って左右に分かれて、部屋の物を回収してくれ。何か質問は?」

「どの程度の時間、作業しますか?」

「夕食までだ。昼食は各自、好きな時間に弁当を使っていい。便所も個室まで見ていくから、安心して用を足せ。他には?」


 特に何もないらしい。


「ないなら時間もない、はじめよう。何かあったらすぐに念話な。じゃあ行くか、フウリ、エルスさん」


 入り口まで戻り、右の通路から回る事にする。

 トイレ、休憩室、事務室、食堂。不気味なくらいに清潔で、血の跡どころかゴミ一つ落ちていない。


「不気味じゃな?」

「綺麗すぎるよな」

「うむ。飲みかけの木杯一つない。千年前のあの日に人がいなかったのか。いや、ここまでたどり着いたアイエスが、休憩もせずにこのような封印を施せるとも思えんのじゃ」

「考えるのは後にしよう。二階に回るぞ。責任者の個室は、たぶん二階だ。エルスさん、昼食にしますか?」

「いいえ、カイト様。出来れば、探索を優先してもらいたいです。お弁当は終わったらゆっくりいただきますわ」

「了解。じゃあ、進もう」

「階段も綺麗なものじゃな」

「バリケードくらい張るだろうな。ここに篭城したなら」

「これは、会議室かのう。なにもなしじゃ」


 最後の部屋に、それはあった。


「フウリ、念話して皆を呼んでくれ」

「・・・すぐ来るそうじゃ」


 三分と待たずに、全員がやってきた。表情に緊張の色が見える。


「これは・・・」

「俺にはわからんが、石結界なんじゃねえのか?」

「ええ。ですが、魔法使いにだけ読めるメッセージがあります」

「読んでくれ」

「名も知らぬ魔法使いの方へ。私は魔法神殿の証騎士、アイエス・ホープ。不躾なお願いで心苦しいが、この石結界を解くのであれば、マレーヌにおられる我が友フウリ様をここにお連れになってからにして欲しい。見えぬとわかってはいるが、伏して願う」

「理由は?」

「ありません。読み上げた言葉がすべてです」

「危険はないが、確実にフウリに渡したい、か」


 アイエス、そう呟いたフウリの声が、はっきりと聞こえた。

 


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