海風の声13
遺品の回収を終え、四人が車に戻ってきた。
「お疲れさん。フウリ、無理はすんなよ」
「うむ。大丈夫じゃ」
「明日は休日にする。まだ昼にもならねえが、飲もうぜ」
「任せるのじゃ。サクラとファルを酔い潰してやるでの」
「カイト様に甘えたいなら、今夜だけは普通に譲るわよ」
「それではつまらんのじゃ」
いくらでも付き合うから、好きなだけ飲んで甘えろ。
「お待たせしましたー。後はこの炭火でいろいろ炙ってツマミにしましょう」
「軍鶏はないがスルメはあるぜよ!」
エルスさんとサクラが持ってきたのは、背の低い七輪だった。スルメや干物、焼肉と楽しめそうだが、この密閉空間で炭火は怖いぞ。部屋の隅にある竈には細い煙突があり、床の四隅に排気口があるとしてもだ。
「カイト様。車には結界が張ってあり、常時換気もなされています。今日は車を止めているので、自然に寄り添う精霊にも頼みました。私も飲み過ぎないようにしますし、心配はありませんよ」
「さいですか。乾杯は必要ねえ。好きに飲み食いしようぜ。いただきます」
いただきますの唱和を終えると、ウイトの前の七輪に薄切りの肉が乗せられた。
「肉・即・焼!」
俺はつっこまねえぞ、サクラ。期待を込めた眼差しで、チラチラこっち見んな。
「兄様はスルメからっすよね!」
「お、おう」
「すぐ火が通るから、次はキノコっす! その後に貝と魚っす!」
「もう。ワーグったら、本当に焼くの好きねえ」
あー。いるいる。焼いて配るの好きで、ずっと網に張り付いてる奴。配られる方は、好きなもんを好きなタイミングで食いてえのになあ。
「日本酒が恋しいのではないですか?」
「まあな。でも麦焼酎はいい味だ。っておい、それ牛タンか?」
「そだよー」
「牛タンには漬物じゃろがいっ!」
「すいませんカイト様。こだわりも方言も謎すぎます」
「いいから。騙されたと思って、牛タンで浅漬けを包んで食ってみ。こうやって、こう」
「だって、ウイト」
「えー」
嫁と息子が冷たい。
それでも、ウイトの口にサクラがそれを運んだ。
「ウイト、おいしい?」
「んー。にくっ」
「はいはい。あーん。なんて言うか、おいしくないって訳じゃないみたいね」
「では私も。あら、意外といけますね。脂があるのにさっぱりして、歯ごたえも良いです」
そうだろうそうだろう。
「うん、うまい。普段は気にもしねえが、こんなの食うとあっちの料理を思い出すな。カレーは絶望的だとしても、小麦粉を使う料理なら再現できる。今度、餃子でも作るか」
「兄上、発音が難しそうですが、それはどんな料理ですか?」
「麦の粉を練った生地で、細かくした肉と野菜を包んだもんだ。焼けば生地に焦げ目がついて、パリッとした食感でな。肉汁と野菜の汁が口の中で溢れる。茹でても生地がツルンとしてうまい」
「食べてみたいっす!」
「マレーヌに戻ったら作るさ。それより、焼いてばっかじゃなく飲めよ?」
「もちろんっす。はい、ジェイク兄。野菜も食べるっす」
わかってねえな、これ。犬耳だからだろうか、ワーグは人と食事を分け合ったり、人と同じ事をするのを好む。
「それにしてもフウリ。この脇差に助けられたよ。ありがとうな」
「それは重畳。ジェイクとワーグ相手の稽古で、木剣を両手に握っていたからのう。気になっておったのじゃ」
「いいねえ。二天一流。よっ、異世界武蔵!」
「筋力が冥護で、化け物みてえになってるからなあ。二刀は手の内に入れるさ」
「やっぱり二刀流は強いの?」
「片手でどんな敵も斬れて、変化を自在にこなせるならな。単純に手数が増えれば、敵が多くても捌きやすいし、タイマンでも隙を衝きやすい。刀に長短の差があれば、戦闘場所を選ばないのも大きいな」
「普通じゃ無理なんだね」
「どうだろうな。対人戦なら有効だとは思うぞ。当てりゃいいんだ」
「他にも欲しいものがあれば、ワシに任せるのじゃ」
「俺はないが、ジェイクとワーグにもこの脇差くらいの剣があると、室内戦にはありがたいな」
「それならもう用意してあるのじゃ。ウイトの刀ものう。サクラ、出してくれぬか。剣帯も人数分じゃ」
「ウイトにはまだ早いから、二人の分だけね。・・・はい」
空間魔法から取り出されたそれが、二人に渡される。どうでもいいがサクラ、ウイトが絶望したって感じの顔してるぞ。言葉を完璧に理解してんだから、あ、涙ぐんできた。
「かたな・・・ういとの・・・うっ」
「えっ。えーと・・・パ、パパがいいって言ったらね?」
ふざけんなボケェ!
「いいか、ウイト。刀を持つならせめて丸一日、この脇差を自在に振る筋力が必要なんだ。それに成長期のウイトが左の腰にいつもこんな重いのをぶら下げてたら、足の長さや体の左右のバランスがおかしく成長してしまう。今はまだ我慢だ。わかるか?」
「ふむ。成長はしておらぬでの、筋力が問題らしいぞ。ウイト、実力を見せてやるのじゃ!」
鼻息荒くウイトが立ち上がる。フウリは体を丸くして伏せた。何してんのお前ら。
「ウイト、ごーじゃ!」
「あいっ」
オーバーオールの背中の生地をウイトが掴む。まさかと思って見ていると、いともたやすくフウリを持ち上げた。そのまま歩き回る。どうでもいいが、持たれているフウリの方が辛そうだ。部屋の端から端まで三度歩いて、そっとフウリを床に下ろす。
「どうじゃ!」
「じゃー」
サクラは拍手。ファルは苦笑いだ。どうしたもんか、これ。帯刀してる三歳児とか、洒落になんねえぞ。




