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海風の声11




 荒れ果てた庭。

 噴水の水は涸れ、石像の乙女はひび割れている。

 初秋の落ち葉を踏む靴音を隠さず、真っ直ぐに正面玄関に向かう。

 振り上げた足を、扉に叩きつけた。


(探査雷撃魔法、いっけーっ!)


 なんで念話で怒鳴るんだよ。声に出せよボケ。


(くそっ。五体しか倒せない。様子を見るからちょっと待ってね、カイト)


 抜き身の峰を右肩に載せて待つ。

 それにしても、汚い言葉を使うんじゃねえよ。おしおきしてやろうか。


(倒したのは若い、ううん、子供だけみたい。うあっ、オスが子供を食べてる。メスは警戒を深めてはいるけど、外までは来ないみたい。玄関ホールの手前までを警戒中。ごめんね。倒すどころか餌まで与えて、警戒もされちゃった。・・・やっぱり行くの?」


 刀を持ち替え、右手を上げる。親指で天を指す。手話通信。良くやった、サクラ。総員、戦闘準備。我、突入する。


(気をつけて、カイト。ナビは私がする)

(どうかご無事で。こちらの事はお任せください)

(武運を祈る。じゃが、怪我などせずに帰ってくれたらそれで良いのじゃ)


 玄関はスロープになっていた。抜き身をぶら下げて、躊躇せずに踏み込む。

 砕けた陶器の欠片。棚の残骸。色褪せた肖像画の家族が、もの言わず侵入者を眺めている。

 来る!


(メス二体、来るよっ!)


 飛び掛ってきたメスの口腔に刃を入れる。開き足を止めない。肘をたたみながら、左手を抜く。左の掌底をもう一頭に放つ。充分な手応えだが、ダメージはないに等しいだろう。体勢を整えられれば、それでいい。

 蹴り壊した玄関から差し込む朝日が、二頭のライオンを照らす。一頭は顔が血塗れだ。


(敵視認。攻撃開始!)


 何かに殴られたようにライオンがよろめく。その脇腹に二本の矢が生えた。空を舞う三振りの剣が、もう一頭を牽制しながら目を潰す。


(魔法は効かない。玄関の面だけ結界を開けて剣と弓で攻撃だって。ちょっと待ってね)


 一時も動きを止めない剣と降り注ぐ矢から逃れようと、軽傷のライオンが結界に爪を立てた。堅い物を引っかく嫌な音がする。この勢いなら、油断は出来ない。


(一頭死亡。もう一頭に攻撃集中。ああっ、こっちに来るっ!)


 この位置からは玄関を飛び出したライオンは見えない。それでも、躊躇わず結界に刀を振り下ろした。砕けた光の欠片。

 走る。


(二人が迎え撃つ構え。落とし穴、飛んだっ!? 足止めいっけぇっ!)


 跳躍したライオンの正面に、大きな岩が現れる。激突。

 先に届いたのは、ワーグの槍だ。胸に深々と突き刺さった槍を放したワーグが、跳び退って剣を抜く。

 足は止めない。もっと速く!

 ジェイクの大剣がライオンの肩に吸い込まれる。断ち割った。それでも、無事な前足が迫る。あの爪はヤバイ。大剣を盾のように使い、ジェイクは距離を取る事に成功した。


(決めてっ、カイト!)


 言われるまでもない。

 踏み込み。斬撃の勢い。受け止めてくれ。滑りはじめた足が、しっかりと石畳を噛む。もらった!

 俺に狙いを変えたライオンの上半身が斜めにズレた。遅れて血飛沫、臓物の臭い。


「ワーグ」

「はいっ!」

「良く槍を手放した。一流の槍使いの判断だな。その後の抜剣も構えも、たいしたもんだ」

「ありがとうございますっ」

「ジェイク。ついに手に入れたんだと実感したぞ。お前さんの剛剣に、その斬れ味の大剣。事が済んだら二人で、フウリに腹一杯酒を奢ろうな」

「有り金をはたきます」

「サクラ、屋敷に戻る。ナビを頼むな。ファル、あの結界はいい判断だ。フウリもありがとな、良くやった。ペルデさんもお疲れ様。良かったらこのライオン焼いて、中のエルスさんとウイトに食わせてやってくれ。じゃあ、行ってくる」

「残りはオス一頭メス六頭。油断だけはしないでっ!」


 振り返らずに手を振り、玄関に戻る。噴水の美人にキスでも投げたい気分だ。

 俺達だけが変わらないなんて気に食わねえよな、相棒。見せてやろうぜ、俺達も強くなったんだって。

 刀を軽く振って血を飛ばす。樋の削られていない刀だから、意味がないかもしれないが。握りなおして、歩みを進める。

 玄関をくぐる。邪魔するぜ、畜生達。


(その玄関ホールを右に)


 それなりに幅も高さもある廊下だが、大刀を振り回すには向かない場所だ。


(廊下を直進。左手に扉の壊れた食堂が見えてくるはず。かなりの広さ。そこにメスが三頭。気をつけて)


 左手で、脇差を抜く。

 女にばかり戦わせる畜生が、この脇差で抉ってやらあ。

 二刀。

 壊れた大きな扉の前で、敵の臭いを嗅ぐ。


(入り口の左右に魔獣なし。奥で身構えてるよ)


 ああ。臭ってるな。

 二十人は座れそうな食卓。その上に一頭。左右の下に、一頭ずつだ。

 食器の散乱した床を歩く。音がする度、テーブルのライオンの髭が動く。神経質なのか。運がなかったな。お前は、選ぶ男を間違えた。

 ゴミの切れ間。床を蹴った。テーブルの上、歩み足三つ。足運びが吸い付くようだ。行くぜ、相棒。

 下から斬り上げる。お前ら畜生を斬るために研ぎ上げた太刀筋だ。遠慮なく食らえ。

 割れた頭蓋も見ずに、右から飛び上がったライオンの牙を刀で払う。開いた胴。脇差を、突き立てた。俺の牙もなかなかだろう?


「グアアアッッッルァ!」

(左っ!)


 おう。心配すんな。

 振り向きざま、左手の脇差で目を突く。開き足。それで脇差は抜け、一秒の半分の半分ライオンが硬直する。跳躍中の首に、右の刀。夥しい量の血を避け、テーブルを下りた。

 沈黙。

 左手の親指と小指を立てて、脇差を振る。細かい所まで決めた、戦闘中の手話通信。


(ご、ごめん。見惚れてた。反対の扉を進めば、階段があるの。狭いしメスの一頭が仕掛けてきそうだから、充分に注意して。)


 

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