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海風の声9




「うおおおおっ!」


 ジェイクが十文字槍で狼の魔獣を串刺しにして、それを天に掲げて吠える。


「負けないっす!」


 ワーグの突きが魔獣の眼窩を貫く。赤い柄巻きの直槍だ。

 はしゃぎすぎだろ。思いながら、馬腹を蹴った。

 流れる景色が速くなる。大身槍の穂を地に這わす。もはや、慣れた動きだ。


「次を誘うぞ!」


 すれ違いざま、残りの一体の顎下で穂を跳ね上げた。ほとんど手応えもなく、魔獣が血を噴いて倒れる。

 止まらない。駆ける。折り重なる木材の横を過ぎると、魔獣が馬に釣られた。魔犬。小物過ぎるが、仕方がない。誘い込まずに斬れば、二人がうるさい。

 スピードを上げながら、右手を上げた。拳を指鉄砲の形にしてある。弓準備、順次放て。

 二人が潜む廃屋の横を駆け抜けながら、その手を下ろした。


(お疲れ様。その魔犬で今日は終了だって。車で向かうから、ちょっと待ってね)


 反転して並足で戻る。二人は、仕留めた魔犬の体から矢を抜いているところだった。


「お疲れさん。今日はそれで終わりだってよ。もうすぐ車が来る」

「暴れ足りませんね、兄上」

「今日はこのくらいで許してやるっす」


 偉そうに言ってると、嫁さん連中の狩った魔獣の数を聞いてやるぞ。


「明日もその先もある。それに、廃墟の探索は俺達の仕事だ。まだまだ楽しめるさ」

「では、骸を集めます」

「兄様は待ってて欲しいっす」

「三人でやれば、それだけ早く終わるだろ」


 魔犬の倍もありそうな狼の魔獣が固まっている場所に、骸を集めて積み上げてゆく。

 それが終われば、武具の手入れだ。槍の血を拭い、拵えにほつれがないか確認する。簡単な修繕はフウリがしてくれるが、手入れを怠って武具をダメにしましたなんてのは恥だ。


「お疲れ様。馬も人間も綺麗にしたよ」

「ありがとうな。先に馬の寝床を用意してえ。頼む」

「はいはーい。寝藁に水に飼い葉に、お手入れ道具っと。ついでに蝋燭に水筒。じゃ、魔獣の残骸はかたしちゃうね」


 黙々と、馬の手入れをする。馬具も磨き上げる。煙草も水も、それが終わってからだ。馬を親と思って世話が出来なければ、騎兵にはなれない。そんな話を思い出す。


「終わったっす」

「某もです。やっと煙草が吸えますね、兄上」

「だな。一服したら、車に乗ろう」

「ふんふふーん。狩りの後の煙草は格別っす」


 嬉しそうに言いながら、ワーグも煙管を取り出した。ジェイクが苦笑してそれを見ている。


「馬の近くでは吸うなよ」

「はーい。兄様、ジェイク兄、入り口の方に行って吸うっす」


 煙草を吸いながら、水筒の茶を回し飲む。


「そろそろ晩メシじゃぞ。煙草なら、飲みながらリビングで吸うがよい」


 未だ結界を破る魔獣には出会っていないので、寝ずの番は誰もしていない。本格的に酔わない程度の飲酒もしている。フウリに続いて、リビングに向かった。オーバーオールだからはしごも安心だ。

 テーブルには酒と料理が並び、俺達以外はもう席に着いていた。


「悪い。待たせてたんだな」

「そうでもありませんよ。では、お願いします」

「いただきます」


 全員が、俺の声に続く。我が家だけの決まりだからやらなくていいというのに、ジェイク達もだ。


「こっちは、誘き出して待ち伏せを試した。釣れすぎた時が危険でな。明日からはまた、騎馬で索敵して殲滅に戻すつもりだ」

「私達はいつも通りだった。明日は、念話で索敵ナビする?」

「いや。練習を兼ねて俺達だけでやる。お前さん達が本隊だからな。練習ついでくらいでかまわねえさ」

「いいえ、カイト様。都市を封鎖して狩りの初日、私とサクラは車よりも機動力のある騎馬を用意しなかった事を悔やみました。障害物の多いここでは、騎馬兵は有用です。許してもらえるなら、車との連携をお願いしたいのですが」

「意外だな。俺達は危険な遊びを微笑ましく黙認されてる、ダメな親父三人組だと思ってたぞ」

「何を言いますか。武神の神子と、その神子に選ばれた印持ちですよ。三騎のみでも立派な軍です」


 呆れ顔でファルが言う。車との連携は、狩りの初日から考えていた。ただ、魔法があまりにも狩りに適しているから、俺からは言い出さなかった。


「ジェイクとワーグはどう思う?」

「某は良いと思います。空間魔法に建物の残骸をすべて収納するならともかく、通りを車で進むなら騎馬との連携は必要かと」

「大賛成っす。いい訓練になるっす」

「なら、決まりだな。ついでに指揮系統もちゃんとすっか」

「私は指揮とか苦手だから、カイト達を観測しながら通信ね。指揮はファルでいいでしょ」

「指揮権はカイト様にあります。そのカイト様の指示で、車から索敵と進路の選定をせよと言う事なら従います」

「また堅い事を言う。はいはい。じゃあそれで頼む。これで少しでも早く、魔獣にカタつけられればいいな」


 口にはしないが、フウリは一分一秒でも早く友人が封印した図書館に行きたいだろう。何があるかもわからないが、そこが友人の最期の地である可能性は高い。遺品の一つでも、墓に持ち帰ってやりたいはずだ。


「戦闘開始から三日。地図上で十に区切った区域の一つの殲滅を終え、自然に寄り添う精霊に結界の維持をお願いしました。残るは九ですが今日までとは違い、朽ちかけた廃墟なども含まれます」

「立ち入り可能な廃墟に魔獣がいる場合は、俺が先行に変わりはなし。サクラが続いて、殿にジェイクとワーグ。フウリ、遺品があれば回収するか?」

「むう。廃墟は魔法で補強されていた建物と思われるが、千年前の遺品が残っておるものなのかのう」

「わからんが、あるならマレーヌの墓に納めてやればいいんじゃねえか?」

「地図は詳細なものですし、廃墟は富裕層の邸宅でしょうから特定は可能でしょう」

「ならサクラ、すまぬが頼みたいのじゃ」

「了解。少しでも多く持ち帰るよ」


 ここまでは、上手くいっている。問題は明日からだ。廃墟をねぐらにする魔獣を安全に狩れなければ、遺品ごと建物を潰して焼き払うしかない。それだけは、避けたかった。



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