表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/229

海風の声7




 砂浜を左に見て、だらだら坂を上った。

 ようやく、商業区画に入ったらしい。広い道の両側に、様々な露店が並んでいる。


「なんとまあ、かわいらしい坊ちゃんだねえ。果物はなんにするんだい?」

「めろんっ!」


 えらい勢いで注文されたおばちゃんが笑う。三分も待たずに、ジュースが出てきた。俺にだっこされたウイトが小銭を渡す。地面に下りたウイトにジュースを渡すと、一心不乱に飲みだした。


「ぷはー。んまいっ」

「良かったなあ、ってもう飲み干してんのか。よいしょっと。はい、お姉さんにコップ返しな」

「ありやとー」

「ありがとね。また来ておくれ」

「あいっ」


 おばちゃんに手を振るウイトをだっこしながら、露店を冷やかして回る。過保護かもしれないが、食休みみたいなもんだ。


(ごめん、カイト。さっき起きたよ、私達。位置は把握してるから、合流するね?)


 なるべく不自然に見えない仕草で、右手を上げる。


「ウイト、ママ達が来るってよ。日陰で休んで待つか」

「あーい」


 大通りからそれて少し歩くと、ちょうど良い木陰があった。木の根に座り、ポーチから塩飴を出してウイトに舐めさせながら待つ。

 夏の日差し。セミの声。青葉のそよいで音は鳴り、影の揺れる。

 見ると、足場の悪さに苦労しながら、ウイトが無手で構えていた。いつの間にか、飴は舐め終えたらしい。


「いいぞ。足場の悪さに怯まない、そのために足捌きの稽古を嫌ってほどするんだ」


 水筒の茶がなくなる前に、三人が合流した。

 ファルの瞳が潤んでいるので見ないようにしていたら、鼻息が荒くなってきたので慌てて普通に話す。そんな属性まで手に入れたら、俺では相手が務まらない。ごまかすように、煙管に葉を詰めた。


「他の連中は?」

「まだ起きてないみたいですね。起きたら念話が来るかと」

「血なんか飲ませやがって。ちゃんと体に異常がねえか聞けよ?」

「はい。私がついていながら、申し訳ありません」

「責めてる訳じゃねえ。覚悟があるなら、何してもいいさ。んで、合流したはいいが、どこ行くんだ?」

「マレーヌ料理でランチよ!」


 そういえば和食ばっかで食ってなかったな。

 喫煙セットを仕舞い、ウイトをだっこするフウリの先導で、馴染みらしい食堂へ向かう。


「ここじゃここじゃ。じゃまするぞー」

「おう、フウリ様じゃねえか。さあさあ、座ってくれ」

「うむ。大人四人に子供一人じゃ。今日のおすすめの食事と酒を頼むぞ」

「あいよっ。おおいかかあ、まず酒とジュースを持ってってやれ。んん、なんか涼しくねえか?」

「なんだいこりゃ」

「おお。サービスじゃ。この二人は魔法の名手での。この程度は朝飯前らしい」

「ありがてえ。こっちもサービスするぜ」


 分厚いテーブルの中央に、樽酒が置かれる。これ開けたら、晩メシまでここじゃね?


「お、お酒はちょっと。まだ昨夜のが残ってるんだけど・・・」

「なんだい若奥さんは二日酔いかい。なら葡萄酒の炭酸割りを出すから、迎え酒にするといいさ」

「炭酸があるんだ、凄いね。そして飲むのは決定なのね」

「炭酸は近場に湧いておる。酒は、北国じゃからな。諦めて飲もうぞ」


 樽の酒を柄杓で注がれて渡される。小さな木杯だ。縦にも横にも転がりそうな、ってやっぱりキツイ蒸留酒かよ。喉と胃が焼けて、やっと穀物の風味が顔を見せる。


「すんませーん。ビールもくださーい」

「ありゃあ。マレーヌ酒は口に合わなかったか、兄ちゃん」

「いえいえ。うまいですよ。ただ、ビールで喉を洗いながらじゃねえと、声が変わりそうで」

「かーっ。どんだけ酒に強いんだ。気に入った、すぐに上物を運ばせるぜ」

「あざーっす」


 ビールを待ちながら、小皿の木の実を齧る。脂が強いが、うまい。


「木の実もうまいぞ」

「そうですか、では。本当ですね、おいしい。ウイトも、はい」

「んまい」

「おいしい、でしょ?」

「んまい」


 睨まれている気がするが、視線を向けたら負けだ。シカトしてマレーヌ酒を呷り、風味を楽しんでから冷えたビールで喉を洗う。


「おまちっ。まずはスープだよ。おかわりもたっぷりあるから、好きなだけ食べとくれ」


 いや、鍋ごとかよ。


「わー。でっかいエビが入ってるよ。お魚も貝もたくさん。豪快だねえ」

「これぞマレーヌ料理じゃ。ちまちま作るより、大鍋で作って皆で食う方がうまい」


 取り分けたそれは、和風でも洋風でもない味だ。トマトでもビーツでもない、とろとろに煮込まれた赤い野菜。それがこのスープの肝なのだろう。悪くない味だと思う。


「明日っから印持ちの派遣の話し合いか。平原の国だから、狩りがメインだよな」

「そういえば、イーハに念話が届くようになったよ」

「なんだそれ。領域が変化したのか?」

「んー。領域はそのままだけど、こっちの領域の精霊が力を貸してくれるから、念話は届くの」

「あっちの様子も見れるのか?」

「ばっちり」

「なら安心だな。事があれば教えてくれ」

「さあ、メインディッシュのお通りだよっ」


 おかみさんが、でかい板を運んでくる。飾りの野菜の中央に、何かのアバラ肉が塊で乗っている。ウイトの目は、すでに釘付けだ。


「にくっ。しゅごいー。にくっ」

「羊のアバラさ。香辛料を使ってはいるけど、かなり控え目にしといたよ」

「気を使わせてすいません」

「それが仕事だよ、よしとくれ。それより、早くその子に食べさしてあげなよ」


 ファルが大きなナイフで切り分けた肉を、ウイトが骨を掴んで口に運ぶ。


「うんまあい!」

「もう諦めますか。良かったわね、ウイト」

「あいっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ