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海風の声5



「寂しそうだな、ワーグ」


 家々から漏れる明かりに照らされた横顔に、いつもの明るさがあるようなないような。


「ええ。まだまだ子供ですな。まあ、あれだけ懐いていたなら仕方のない事かと。イーハに移れば、そうそう会えるものでもないですし」

「うーん。小遣い出し合って、甘えん坊の末っ子にこの国の風景画でも贈るか」

「良いですね。ウイト殿とお揃いのおもちゃも付けますか」


 どんどんワーグのほっぺたが膨らんでいく。そんなんだから、からかわれんだっての。


「聞こえてるの知ってて、そんな話をするのは酷いっす」

「はいはい。ずいぶん遅くなったが、そろそろフウリの家だぞ。馬屋と馬房は掃除してくれてるはずだ」


 藁の匂う馬房に馬を入れ玄関に向かうと、酔っ払いのバカ笑いが聞こえてきた。ウイトは寝てる時間だろうからいいが、もうちょっとお淑やかに飲んで欲しいもんだ。


「楽しんでんなあ、嫁さん連中」

「完璧に出来上がってますね」

「エルスが楽しそうで嬉いっす」


 いつもなら、出迎えに来て魔法で服や体を綺麗にするのに、今夜は廊下を進んでも放置だ。


「ただいま。ずいぶんとご機嫌だなあ」

「祝いの宴じゃ、飲め飲めーい」

「カーイートーだああああ」

「おかえりなさいませ。お酒にしますか? ファルにしますか?」


 ファルまで酔ってんのかよ。


「ワーグ、おいで。ほら、お手。よし。ペロペロはダメよ? おあずけ」


 すんません、なんか変態プレイがはじまりそうなんですけど。いいぞ、もっとやれ。


「ジェイク、飲め。思えばさんっざん自慢してくれたな、ああん。某はカイト殿の弟なのだ、てさあ。だから自慢するぞ? 自分は、自分達はなあ、五人姉妹になったんだ。羨ましいか? 羨ましいだろ。さあ、羨ましいと言え。クンクンさせてやるから。な?」


 百合パーティーでもしたんかお前ら。


「おい変態。この場をなんとかしとけ。風呂行ってくる」

「勘弁してください、兄上。なんともできませんよ」

「ならそっちの変態に任せる」

「無理っす! そして変態じゃないっす!」

「うっせえ。わんこプレイは変態に含まれんだよ。どうすっか、これ」


 テーブルの上には、これでもかと言うほど酒とツマミが並んでいる。晩メシはこれでいいとして、こいつらにこのまま飲ませていいのかどうかが問題だ。


「あらあら、やっぱりお帰りでしたか。お疲れ様でした」


 地獄に仏とはこの事か!


「ノーザさん。助かりました。こいつらどうしたのかわかりますか?」

「ここ数日でウイトちゃんが私にずいぶん慣れてくれましたから、私がウイトちゃんを寝かしつけまして。ですから、今夜は私の部屋にウイトちゃんはおねんねです」

「それは、ありがとうございます。なにかあればすぐ呼んでください」

「ええ。それでですね、その・・・」

「はい。ああ、気にせずおっしゃってください」

「・・・そうですか、では。今夜は三人でかわいがってもらおうと、フウリ様が言い出しまして。素面で寝室に行くと恥ずかしいからと酒盛りに」


 うわあ。なにしてくれてんだ、フウリ。


「ほう。変態ではないはずの兄上なのにですか」

「俺はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ意地悪するのが好きなだけだ。変態じゃねえ」

「私は飲まずに、たわいもない猥談を聞いておりましたが・・・」

「すんません。やりすぎないように気をつけますんで、どうか内密に」


 思わず両手を合わせて拝んだ。


「そうですか。それは安心しました。そしてそんな風に酒盛りが続くうち、ペルデさんと娘が夫達のカイト様と義兄弟だという自慢が酷いとこぼしまして。それなら私達は五人姉妹になろうとサクラ様が言いました。喜ぶペルデさんと娘でしたが勢いがつきすぎたのか、その大きな木のボウルに蒸留酒を満たして回し飲みを」

「そりゃ酔うわ。他にバカな事はしてませんでしたか?」

「ボウルのお酒に各々の血を一滴ずつ垂らしてましたね。止めたのですが、聞いてはもらえませんでした」

「なにしてやがんだ、アホども。それで、体の不調とかは?」

「大丈夫そうでしたよ。私は付き合いきれないので、ウイトちゃんの寝顔を見に行きました」

「本当は病気が移ったりするから、良くねえんだがなあ。ワーグ、適当な木杯に酒を注いでくれ。俺は手を洗いに行ってくる」

「はいっす」

「手を綺麗にしたいのでしたら、はい。綺麗になりましたよ」

「ありがとうございます。さすが、飲み込みが早いんですね」

「ファル様の直伝ですからね。頑張って覚えました」

「兄様、お酒っす」

「お。ありがとな」


 小柄を抜いて、親指の腹に刺す。血の雫が酒に落ちて、柔らかな波紋が散った。


「念のためだ、嫌だろうが飲んでおけ。二人でな」

「神子の血に、なにか意味があるのですか?」

「わかんね。念のためだよ。ただ、ウイトは神の用意した壷にサクラの髪と俺の血を満たして生まれた。化け物になるとかはねえと思うが、嫁さんだけなにかの変化があったら嫌だろ?」

「では、ありがたくいただきますかな。ワーグ、某が先でいいか?」

「もちろんっす。でも、おいらの分もちゃんと残して欲しいっす」


 なんで嬉しそうに飲むんだよ。こええよ。


「体の底から活力が湧いてくるようです!」

「腹が熱いっす!」

「酒だからだろ。お前らまでバカ言うな。とりあえず、食いもんと酒をいただくか。残したらもったいねえ。酔っ払いは放置。ムラムラしたら寝室に運んで、好き勝手に楽しめ。これだけ酔ってりゃ、何しても覚えてねえだろ」

「さすが兄様、素敵に鬼畜っす」

「もし覚えていたらと思うと・・・」

「泥酔してっから大丈夫だって。今なら好きなだけ、いろんな場所の匂い嗅げるぞ?」


 二人が猛然と飲み食いをはじめた。全力妄想欲望全開。うん、正直でよろしい。


「女の猥談もそうですが、男もなんと言いますか・・・」

「若さゆえの過ちも、時には必要でしょう。嫁さん連中にはいい薬です」

「ですがカイト様、フウリ様に自分でさせてそれを見るとかは・・・」

「ちょ、ちょっと待ってくださいって」


 噛んでいたものを飛ばしたジェイク、飲みかけの酒を口からこぼすワーグ。視線でそれぞれの嫁さんを指すと、二人が唾を飲み込んだ。

 ゆっくりと、笑顔を見せる。ゴーサインだ。今日ならやれるぞと、目で伝える。

 飲み食いのスピードが、さらに上がった。


「ごちそうさまっす。さあエルス、行くよ。ほら、お姫様だっこだよ。うんうん。部屋に行こうね。カイト兄様、ジェイク兄、お母さん、おやすみなさいっす」

「某も失礼します。皆様、おやすみなさい」


 足早に二人が出てゆく。はえーなあ。


「カイト様に釘を刺すつもりが、こんな事に・・・」

「薮蛇でしたね。というかワーグ、嫁の母親の前でよく平気ですよね。尊敬するなあ」

「まったくです」



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