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海風の声3




「これが、異国か」

「うむ。これが我がマレーヌ共和国の首都、マレーヌじゃ!」


 なんか間抜けな感じになってんぞ、フウリ。決めゼリフのはずなのに、みんな黙ったじゃねえか。


「し、仕方ないのじゃ。ととさまが国と首都の名前が違うとややこしいと・・」


 ととさまに突っ込んじゃダメだ。神をバカにすると、ろくな事がない。耐えろ、俺。


「しかし、落ち着く町だなあ」

「そうかっ。そう言われると、嬉しいものじゃのう」

「木造建築物が多い国で生まれたからな。なんか安心する。イスタルトは茶色っぽい石、イーハは白っぽい石の建物ばかりだろ。三十日も海を走れば、こうも景観が変わるのか」

「倉庫が木造なだけでも、グンと日本っぽくなるんだね。わあ、港にいる人達も、フウリみたいに肌が白いよ。羨ましいー」


 次々と舫いが繋がれ、タラップが引かれてくる。


「皆様、そろそろ接岸作業が終わりますので、上陸の準備をお願いいたします」

「船長さん、ありがとうございました。快適な船旅だけでなく、うちの船員候補に見学まで許していただいて。本当に、お世話になりました」


 みんなが口々に礼を言う。ウイトも、ちゃんとありがとう言えたな。偉い。


「とんでもありません。こちらこそありがとうございました。タラップの固定も終わったようです。ようこそ、マレーヌへ」


 敬礼をして、タラップを下りる。イーハ軍の代表として、この国に来た。礼は尽くす。服も、純白の礼装軍服だ。


「ようこそおいでくださいました。我が国は皆様の来訪を心より・・・」

「ノーザ、後ろの五十人は海軍の宿舎に案内じゃ。イーハの船員候補で二神殿の印持ちであるから、無下にするでないぞ。それに話が長くなるなら、まずは我が家に行くのじゃ。夏の盛りに、幼子を外に足止めする気か」

「申し訳ありません。馬車をご用意させていただきました。どうぞ、こちらに」


 結界で快適温度だっての。堅苦しい挨拶は面倒だからだろうな、主にフウリが。


「じゃあ、とりあえずはここで別れる。初めての異国で不安だろうが、頑張って操船技術をものにしてほしい。些細な事でも指示が必要であれば、すぐにサクラかファルに念話だ。良いな?」

「はいっ」


 船員候補の連中の声は揃っている。海上での優劣で階級を与えるために、まとめ役さえ指定していない。異国の生活の中で、集団として成長すればいい。告げてはいないが、帰途の船旅が仕官試験だ。後に提出させる予定のレポートまで精査熟考して、船長を頂点とする階級を決める。この国でのまとめ役、その重要さを理解できない人物に船長は任せない。

 お互いに敬礼を交わして、ノーザと呼ばれたおばさまの先導で馬車に乗り込む。国の機能を失っていたイスタルトとは違い、豪奢な馬車が用意されていた。


「底力が違うな。神子一人いるだけで、これだけ差がつくのか」

「ワシの力など微々たるものよ。千年前の英雄達が為しえた偉業じゃ。ワーグの父祖をはじめとして、優れた人材が多かった。首都と五つの衛星都市を護りきったのは、ワシではなく彼等じゃ」

「人口三十万だもんね。誇るべきよ、フウリ」

「うむ。イーハへ嫁に行っても、この国の事は忘れぬ」


 まさか、お偉いさんの前で嫁宣言とかされんのか。

 二千歳以上も年上の嫁さんもらって、このロリコンが! みたいな扱いになったら納得できねえ。どうすんだ、俺。

 しばらく皆の話を聞きながら悩んでいると、ようやく馬車が止まった。ガラス窓がないのでどこに到着したのかはわからないが、さっきの話からするとフウリの家だろう。通気口から外を見ていたウイトに聞いてもわかるまい。とりあえず出てみればわかる事だ。

 扉が開かれ、ノーザさんが顔を出す。


「到着いたしました。どうぞ」

「ありがとうございます」


 民家には不似合いな煙突のある平屋と、それなりに大きな二階建ての家。どちらも、イーハの我が家の何倍も大きい。


「いい家に住んでんなあ。鍛冶場もあんのか」

「通うのも面倒じゃからのう。ほれ、入った入った」


 おじゃましますと言いながら門をくぐり、ぞろぞろ二階建ての家の玄関に向かう。


「そういえば、フウリはうちの玄関に驚いてたよな。この国は家が木造なのに、靴のまんまなのか?」

「むう。ノーザ、建物に木材のささくれなどはあるか?」

「ありません。点検と掃除は完璧に済ませてあります」

「じゃが、靴のまま掃除した場所で、ウイトを裸足で遊ばせるのものう。ファル、魔法を頼めぬか?」


 フウリが玄関の扉を開けた。床下がどうなっているかはわからないが、それなりの段差がある。日本なら、靴を置く場所が屋外になる不思議な家だ。


「ノーザさんの顔を潰す事になりませんか?」

「昔はこの家に泊まりに来て、寝小便の始末もワシがしておった。それほどの仲じゃ。気にするでない」

「フウリ様、ですから娘と義理の息子の前で、そんな昔の話をしないで下さいとあれほど言いましたのに。今日は大切なお客様もいらっしゃるのですよ」


 ああ、エルスさんの母親か。そう言われれば面影があるな。タレ目だし。


「わかったわかった」

「掃除は終わったわ。玄関の加工もする?」

「頼むのじゃ」


 ファルが玄関に、なにがしかの魔法を放つ。あらわになった地面に、もう一度。


「これでいいでしょう。木造建築ですから隙間も多く、トイレや個室も綺麗にできたわよ」

「ありがたい。礼を言うのじゃ」

「冬に作ったスリッパの出番ね。とりあえず夏物の出すよ」

「サクラは気がつくのう。さすがは第一夫人、ワシも第二夫人として手本にするのじゃ」


 感心するフウリとサクラは仲が良くて結構だが、ノーザさんが驚きすぎてぶっ倒れそうだぞ。玄関先でロリコン呼ばわりされんのか、わかっていたけどキツイなあ。


「フ、フウリ様、今なんと・・・」

「おお。そういえば言うておらんかったのう。これがカイト。武神の神子じゃ。ワシはこの男の第二夫人となった」


 ノーザさんが絶句して、俺を見つめている。

 覚悟はしてある。ドンと来い。このロリコン野郎と罵ればいいさ。

 今年の冬、フウリは自分だけ俺とベッドを共にした事のない辛さを、実に切々と訴えた。一年以上を姉妹のように過ごしたサクラとファルも、フウリの味方をしていた。

 実年齢を考えれば、フウリがどうやって性欲を抑えているかわかるだろうとまで言われ、仕方なく応じた形だ。決して、自分でしているのを暴露されたフウリの赤い顔が、俺のドS心を刺激したからではない。ないったらない。


「神子様。いえ、カイト様。フウリ様を、よろしくお願いいたします」


 号泣しているノーザさんが、そうとだけ言った。短い言葉ゆえに、本心と真心が窺い知れる。


「鍛冶神様にも誓いましたが、ノーザさんにも誓いますね。三人は、俺が幸せにします。上下もありません。それに、自分の女です。なにがあっても守りますよ」

「あ、改めてそう言われると、て、照れるのう」


 サクラとファルも満足そうに笑顔を浮かべている。


「うおっ。・・・なにっ。ふむふむ。カイト、鍛冶神から夫を喜ばせる魔法の言葉を教えてもらったのじゃ。夜を楽しみにしておるが良い」


 ロリコンを喜ばせる、の間違いだろ。今すぐ忘れろ、そんなもん。



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