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海風の声1



 港町の名は、イーハとした。

 開拓の第一陣がイスタルトを出て、約二年が経過している。

 一年と半年の間、俺達は短い冬以外、開拓民の移動にかかりきりだった。正直ウイトの誕生日以外に、何か特別な事をした記憶がない。各々の武具が出来ても慣らしもせずに、淡々と移動と護衛をこなした。三万人の移動とは、それほどの大仕事だった。

 ここ半年でようやく俺達三人の剣と槍と弓が揃い、軍と警察の編成と訓練に明け暮れている。

 二神殿の印持ちを中核とした軍と、天秤神殿が中核となる警察。合同訓練も何度かこなしたが、対立の気配もない。

 三神殿の大神官たちの合議はさすがに手堅く、戦争や見た事もない魔獣の大群に侵攻された場合の対応を宿題にしても、次の日には消極的ではあるが良い手を出してくる。


「南が気にはなるが、そろそろ行くか」

「どこに?」

「フウリの国。二年もこっちだからなあ。さすがにまずい」

「ついに行くのか。じゃが、ワシは向こうに残らぬぞ。もうカイトなしでは、生きてゆけぬカラダになってしまったからのう」


 言い方ってもんを考えろ、バカ。

 最初の頃はサクラかファルの補助が必要だったが、今では普通にフウリともいたしている。

 慣れって怖いなあ。ロリコンじゃない俺が、普通にいたせるんだから凄い。うん。


「それでは次の定期船に乗るのですか、ロリト・オシリスキー様?」


 気に入ってんのかよ、その名前。


「おう。だから、フウリの国から来てる奥さん方に連絡頼む。船員になる希望者がいればそいつら連れてくから、大神官がまだ仕事中なら聞いてみてくんねえか?」

「わかった。ちょっと待ってね、ロリト」


 もう暴れてもいいかな。いいよな。


「ん。明日から募集するって。人数と、船員になる条件は、カイト?」

「フウリ、操船に何人必要だ?」

「動かすだけなら、二十もおれば足りるのう」

「三十代までの二十五組の夫婦。男は高い所が平気で、力がある者を優先。女は各属性の強い者と空間魔法の使い手を優先。残りは風が得意な者を優先かな。印持ちが揃わないなら、軍から募集。そんなとこか」


 そこまで言うと寝室の扉が開き、目をこすりながらウイトが出てきた。この二年、ウイトはまったく成長していない。慌ててサクラが魔法神に問い合わせたところ、結婚相手の成長に合わせているらしいとの事だった。つまり、未来の俺の義理の娘は、人間ではないという事だ。毛むくじゃらの娘ではない事を祈っている。


「ふぁるまぁまー。みじゅ、ちょーらあい」

「はいはい。ちゃんとお昼寝が出来たわね、偉いわ」

「ん。ぷはー」

「もう、カイトの真似なんかしないの。たぶん、印持ちで希望者埋まるって」

「マジかよ。何ヶ月も土が踏めない生活になるかもって、ちゃんと教えてから募集してくれって伝えてくれ」

「おっけ。・・・ん。神子と旅が出来るなら、そんなの気にしないだろうって」

「そんなもんかねえ」


 軍船の訓練にどれだけかかるかは知らないが、しばらくはこの町に帰れない。明日から、挨拶回りをはじめるか。


「船旅ですか。特別必要なものがあるのでしょうか?」

「行きに観察すれば良い。船にあるものは、我が国にあるものじゃ。通貨も同じだから、向こうで揃えるのも容易かろう」

「それもそうね。それにしてもカイト様、船で異国ですか。どのような景色が見れるのか、楽しみですね」

「だなあ。酒も料理も違うだろうしな。そういえば、向こうは調達者がいねえんだよな。魔獣は食わねえのか?」

「食うに決まっておる。ワシの車で狩りに出るのじゃ。だが高級品になりすぎるでの、流通はさせん。配給制じゃな」

「滞在中は、調達に出るか。フウリ、狙いたい遺跡とかねえのか?」

「近場はあらかた浚ったからのう。北と南は夏も雪の溶けぬ山脈。背の低い草の生える平原を西に行けば当時の隣国じゃが、神子もおらぬ国であった。人が残っておるとは思えぬ」

「なら、ひたすら狩りだな。平原とくれば騎兵の出番だ」

「逆落とし、期待してるよ!」

「自殺しろってか。かんべんしてくれ。ああ、ペルデさんとエルスさんにも連絡頼むな。」


 フウリが鍛えた俺とジェイクとワーグの武具も、好きなだけ振るえる訳だ。フレベさんの森用の弓も、三人とも持っている。あの取り回しの良さなら、きっと騎射にも向いているだろう。


「なんか弟さん達が興奮しだして、すぐにでもうちに来たいって言うらしいから、遠慮せずおいでって言っといたよ」

「おう。なら晩メシも用意しねえとな。ファル、買い物行かなくて平気か?」

「ええ。二人とも今晩使う予定だった食材を持ってくると、念話がありました」

「了解。ウイト、パパと遊ぶか?」

「かたなするうー」

「また稽古か。お前さんも好きだなあ。じゃあ木刀持って」

「あいっ」

「正面に、礼」


 左手に木刀を持ったウイトが、ぺこりと頭を下げる。


「正眼、構え」


 児童用の教本に、写真を載せたいほどの構えだ。俺の息子だけあって筋が良い。


「摺り足、はじめ」


 その場で前後に移動を繰り返す。振りを合わせるにはまだ早い。簡単な足捌きだけを、体の負担にならない時間だけ続ける。


「カイト様、そろそろ・・・」


 時間を計っているファルが、そう告げてくる。


「摺り足やめ。残心」


 構えを崩さず、ゆっくりと呼気を静めるウイト。


「自分のためだけに剣を抜かないと誓えるか」

「あいっ」

「見て見ぬふりをせず、他人のために怒れると言えるか」

「あいっ」

「命を奪い、命を奪われる覚悟はあるか」

「あいっ」


 返事の一つ一つに、真剣な響きがある。


「納刀。正面に、礼」

「ありやとれしたあ」


 終わるとすぐに、ファルが汗を拭きはじめる。過保護だよなあ。


「ごめんくださーい」

「はーい」


 あの声はワーグだ。ジェイクなら、おじゃましますと言って普通に入ってくる。

 今夜のツマミは、まだ見ぬ異国の与太話。楽しい酒になりそうだ。



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