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一宿一飯の恩47




「千人。言葉にすると一言だが、実際に千人を目の前にすると身が引き締まるな。サクラ、ファル、結界はいけるな?」

「任せて。トイレ休憩の色付き結界まで、話し合ってあるわ」

「乳児と幼児とその母親は鉄箱車のリビングと寝室、屋根の天幕にフウリ一行。護衛はサクラとペルデです。私はグノーツ達と馬で常時巡回。トイレ結界はその時に使います」

「お客扱いはせんで良いと言うのに、ファルが折れてくれぬのじゃ」

「当たり前だ。隣国の貴賓に、こちらの不手際で移動してもらうんだぞ。ワーグは三日も拗ねて口も利かねえから、仕方なく俺とジェイクと一緒に馬で護衛に付くんだ。それでもリビングと寝室を譲るのを認めたんだから、こんくらいは我慢してくれ」

「カイト様、出発前に演説をお願い出来ますか?」

「城主側を煽りたくねえ、なしだ」

「それもそうですね。では、乗車を開始します」

「俺達は殿の護衛だ。休憩はファルの判断に任せる。じゃあ、また後でな」


 先頭の車から、サクラが結界を維持すると決めてある。港町まで一週間、暇だと言う事も許されない行程だ。千人の、命を預かる。


「行こうか。忘れ物すんなよ」

「準備は万端です。弓に槍。弁当に野営道具。ぬかりはありません」

「おいらも大丈夫っす。憧れの騎馬にわくわくっす」

「だな。まあ、気は抜くなよ。千人の命だ。何かあったら、俺達が腹を斬っても責任は取れねえ」


 割り当てられた馬に近寄り首を撫でると、顔を摺り寄せてきた。やはり、澄んだ瞳をしている。

 開拓に参加する畜産家の一人が、馬も扱っているらしい。港町に腰を据えたら、調達時の馬の貸し出しを頼むつもりだ。

 乗馬して、一行を見回す。人々の顔は明るい。この笑顔を守りたい。それが俺の為すべき事かもしれないと思うと、この世界に招かれた幸運にどれだけ感謝しても足りない。


「はじまりますな、カイト殿」


 そうか、はじまるんだな。


「どこまでも、着いて行くっす」


 どこに向かうかも、わからんのにか。


「言うじゃねえか、仲良し兄弟。俺を長男にしてくれるってんなら、着いて来てもいいさ」


 固まった二人が、ただでさえ近い位置にいるのに馬を寄せてくる。


(カイト、準備完了。出発していい?)


 ウイトみたいにはしゃぎだした二人をシカトして、右手を上げる。

 ゆっくりと、車の列が動き出した。先頭の鉄箱車に、牛車が続く。馬車が最後だ。

 これが、一歩目だ。そう思うと、馬の腹を蹴っていた。


「カイト兄上っ、何をしてるのですかっ!」

「兄様ずるいっす!」

「ワーグまで何をしてるんだ、まったく・・・」


 馬で駆けながら、車に並ぶ。屋根に呆れた様子のサクラと、手を振るウイトとフウリが見える。


「何してるのよー、三人して子供みたいにはしゃぐんじゃなーい!」

「今日から三兄弟だー、これからもよろしく頼むー!」

「町に着いたらちゃんと桃畑行きなさいよー!」


 前に出る。せめて森の入り口までは、先頭を駆けよう。

 今日からはじまるんだ。それくらいは許せ。

 その代わり、やり遂げてやる。

 気が付くと、右手の槍を掲げて叫んでいた。

 


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